あなただけ
「君との婚約、破棄させていただきます。」
目の前でそう言葉を発するのはわたくしの婚約者、レイス・フェンディ。
……大歓迎です!
この世界に転生したのはいいんですけれど、ポジションに不満がありました。
よりにもよってわたくしの大嫌いなキャラ、レイスの婚約者となってしまったのだから。
ほんと勘弁してほしいわ~、この男好きじゃないのよ。
ナヨナヨしてるし、筋肉もない。
どちらかというとレイスの兄が好みだから、レイスを適当にあしらいつつ兄の方と進行を深めていた。
その間にヒロインちゃんがレイスと仲良くなっていたようだ。
嫌いな男は嫌いなヒロインと共に追い出されていなくなって、大好きな男は時期王でわたくしの婚約者になって、順風満帆じゃない?
最高。ありがとう神様!
「わかりましたわ。あなたは王が取り決めたわたくしたちの婚約を、自分の私情で消すのですね?」
「うん。第二王子からも下りたし、君の婚約者となってるほどの器じゃないからね。」
……?なんでかしら?たしかこの時、第二王子で次の王だったはずだけど…。
「…そう。残念ですわ。」
まぁどうでもいいか。
それよりも!わたくしは!はやく!アオ様に逢いたいわ!
第二王子
婚約破棄する、と告げた瞬間に婚約者、セリーヌは周りの花を広げる。
これで【氷の女帝】なんて呼ばれてるんだから不思議だ。
すごくわかりやすいのに。
彼女と婚約してから、もう十年目だが、彼女はついに私を視界に入れようとしなかった。
構おうとしても先回りしてどこかへと(行き先は兄のところだけど)向かう婚約者セリーヌより、自分に優しく、しかも好き好きオーラ全開で接してくる平民のサーナへ惹かれるのは当然のことだ。
私が第二王子から下りて、平民になっても愛してくれるか、と聞いたときに迷いなく私だけを愛してくれると宣言したサーナに傾くのは当然のこと。
王にその日の内に話を告げた。
兄を次の王に据えたかった父は許してくれた。
私のような優柔不断な人間が王となっては、散らなくても良い命まで散らしてしまう、そう考えていたのだ、良い機会となった。
ヒロイン
転生者であるあたし、そして同じく転生したと思われるご令嬢、セリーヌ様。
レイスのことを必要としない女なんかにレイスを渡すものですか。
あたしは彼のことを見れればよかったのに、婚約者が彼を愛していれば、手は出さないのに。
目に見えてレイスよりもアオ第一王子を狙うなんて。
筋肉が大好きだと誰もいない校舎裏で呟いていた、愚痴ていた。
魔法を使い、学園中を監視しているあたしにはすぐ集まった。
誰もいない場所で、アオ第一王子と逢瀬を繰り返し、体を結んでいた。
なんたる不貞なのだろう、婚約者を持つ身でありながら。
ああ、レイス、かわいそうな人。
レイス、レイス、レイス。
あたしにはあなただけ、あなたにもあたしだけよ、目移りしたら、あなたは人形にしてあげる、あたしだけのお人形にね?。
ふふ、うふふふふふ。
???
ーー第二王子が王位返上する。
その噂は瞬く間に広がった。
そして、学校の卒業式の記念パーティで、それは知らされた。
もうその時には卒業に必要なものすべてを取り、皆より先に学園の卒業証を受け取り去っていったそうだ。傍らにサーナという次席卒業を果たした平民の女性を連れたって。
……レイスが王となるから、俺はこの場へ立つと言うのに。
レイスがいたからだ、レイスがいたから俺はこれまでこの堅苦しい王城にいたのに。
レイスを愛さない女が俺に傾いてしまったからか?
わからない、どちらにしても俺はこの国に留まる理由もない、第一王子、なんて聞こえはいいが単なるスペアだ。
それに、まだ小さいが第三王子もいる。奴を据えればいい。王もまだ現役だ、生きるだろう。
俺を探している女……なまえはなんだったか?忘れた、どうでもいいことだ。
そいつを尻目に俺は闇に飲まれるようにその場から消える。
「レイス、おまえが嫌でも、俺はおまえにつこう。」
サーナ
あたしの勘がなにか囁いている、なにかわからないけれど、仲間が増えそう。
もちろん、レイスを愛せる仲間が。
闇の波動……、アオ第一王子のもの。
目の前に闇のなかからずるりと出てくるアオ第一王子。
目があったあたしはニヤァと笑った。
「……はじめまして、ですね、アオ第一王子。あたしの名前はサーナ。レイスが愛しくて狂ってる女ですわ?」
「…ふん、お前がサーナか。どんな愚鈍な女かと思ったら、あの女とは違うな。しかもその波動……光の大精霊か。」
ゴポン、と全身が出てきたアオは狂った笑顔でこちらを見る。
「あなたは闇の大精霊ね。
レイスはあたしを求めて、あたしを選んでくれたの、レイスのことを愛するあなたはレイスを悲しませることはしないわよね?」
「無論だ。レイスがお前を選んだのなら、消すことはないさ。
お前が違う人間を選んだら、その瞬間闇に飲ませてくれる」
アオと顔を会わせて笑いながら、レイスのことを思い浮かべる。
あどけない顔で笑うレイス、恐らくアオが悪意を消してきたのだろうと思える。
でなければ、策略が混ざりあい、混沌と化している王城で生き残れなかっただろう。
「レイスも起き出した頃です、案内しますわ、アオ“お兄様“?」
「ああ、頼むぞ、我が“妹“よ」
第二王子
起きたら、兄上がいた。
驚いたけれど、兄上は私とサーナのことを認めているようで、仲良くなっていた。
なにか共通の趣味があったりするんだろうか?
「兄上、セリーヌはどうしたのですか?」
「……ああ、あいつか。知らんな、俺はお前のことより大事なことはない、あれは好きに動いているだろう」
?どうしたのだろうか、兄上は上機嫌そうに紅茶を飲む。
サーナがクッキーをおいて、口を開く。
「あたしもレイスが大好きですからね、お兄様」
うふふ、と笑うサーナは可愛らしい。
「ありがとう、二人とも。私も好きだよ」
二人はにこりと微笑む。
私は幸福者、だな。
セリーヌはただの馬鹿です。頭はいいけど。
アオは弟ラブの兄であり、サーナと同種のヤンデレ。
同族嫌悪という言葉がありますが、この二人にはありません。
なぜなら二人にはレイスは神であり、愛すべき対象、争うことで悲しませることはしません。
勢いです。
感想だとかはなくていいです