短編 「夏祭りの日には」
一年ぶりに会った。
去年と同じ浴衣を着て、君はそこに
立っていた。
「それじゃあ、行こうか」
僕の一言に こくりと頷いて。
僕の隣を 歩き始めた。
射的に輪なげ、金魚すくい。
君は楽しそうに見ていた。
見ていた。
そう。
見ていただけだった。
決してやろうとはしなかった。
君の大好きだったりんご飴でさえ、
君は食べようとしなかった。
隣を歩く君は
なんだか少しムスッとしている。
僕が何を言っても、
一度も返事をしてくれなかった。
少し歩いて
君と僕はベンチに座った。
何も食べない、何もしないで
ここまで来た。
去年もそうだった。
何もせずにここまで来て。
いつのまにか。
君は帰ってしまっていた。
あぁ、今年もまた。
何もせずに終わるのか。
はぁ……と、無意識にため息。
それを聞いて君は
僕の方へ向いて。
少しだけ口を動かした。
声は発していない。
だけど僕には、なんとなく分かった。
だって君は、泣いている。
顔を赤くして。声にならない声で。
泣いているから。
君の言いたいことは
なんとなく分かった。
だけど、僕には
それに応えることができなかった。
君に触れることすら、できない。
来年はもう、ここには来れない。
僕ももう、そんなに長くないから。
今日が最後だ。
だから。最後だから。
触れられないと分かっていても。
君の手を掴んでいたい。
君の手に、僕の手を重ねた。
温かくも、冷たくもない。
だけど君は、温かく笑って見せた。
祭りの終わり。
花火が上がる。
夜空に咲いた花は
僕だけの影を残して。
夏祭りの夜は、儚く散った。
「君は既に亡くなっている」
オチというオチのない話です……