GACS編第零話「新たな戦い」
GACS編・第零話「新たな戦い」
無数の虫食いが如く星々は、三人の男女の上に天の川を敷いていた。
「センパーイ、もう帰りましょうよー。さっきから何の気配も無いですし。真夜中に通報とかマジでどんな神経してんだか……ったくよぉ」
「通報がこっちに来たんなら、一通り調べるのが俺達の仕事だ。文句を言うな」
後輩の片山雄太巡査の不平不満を、瀬谷大輔巡査部長が苦い顔で一蹴する。
「でも、本当なんでしょうかね?」
これまた後輩の瑞代真紀巡査がぼやいた。
「サウス区の廃棄されたレジャー施設内から、変なうめき声みたいなのがする……しかも丁度、このあたりの時間に。でも、いまはそんなの聞こえませんし」
「その呻き声の主とやらが寝ていれば、まあそうなるわな」
「本当にいると思ってるんですか?」
「冗談抜きで何が起きるか分からん時代だ。それに、よく言うだろ。やり過ぎなくらいが丁度良いって」
「いえ、聞いた事無いんですけど……」
「マジ?」
「先輩と瑞代さんは怖いモノ無しっすか」
割と気楽に話しているこの三人は、いわゆる警察の端くれだ。勤務先はサウス区の区警本部で、誰もが異動したい先ナンバーワンの認定を受けているだけあって、勤めている人材の人柄はそれなりに呑気な連中ばかりだ。
何しろ食べ物は美味いし年中暖かいしレジャー施設にも程よく富んでいる。この環境下で仕事をしてみたら、別の意味で世界や人格が変わると話す連中の言い分にも頷ける。まあ、たまに大輔達がいま歩いているような廃棄施設なんかもいくつか点在するが、それはここ半年の間でまた新たな娯楽施設に生まれ変わる予定の場所だったりする。
ちなみにここは元々、かなり大きな市民プールだったんだとか。しかし、ここの目玉であるウォータースライダーが老朽化の末に壊れた挙句大きな事故を起こしてしまった為、信用を失って来客の足がぱたりと途絶え、廃業に追い込まれたらしい。
「何かいたか?」
「いえ、何も」
「こっちも全然っすわー」
二手に分かれてプールサイドを沿ってみるものの、付近の住民から通報されるようなレベルの騒音を奏でる機械などは見当たらなかった。プールの槽には水一滴すら無かったので、底まで降りて溜まっていた砂や落ち葉などを足裏でどかしてみたが、特に目ぼしいものは皆無だった。
大輔はため息をついてから言った。
「もういいや、さっさと帰るぞ」
「そうっすねー――……ん?」
雄太がポケットから汎用端末・<アステルドライバー>を抜き出し、画面を確認する。
「? どうした、片山」
「いや、専用回線から着信が――これって、ライセンスバスター部門の専用回線っす!」
「あぁ? 何でそんなモンがお前の――」
「部長、私の<アステルドライバー>にも同じ回線で着信が」
「え? あ、俺のトコにも」
たった一つの回線から、ここにいる三人全てに対し、ほぼ同時に着信を受けている。
謎過ぎるにも程がある。
「……はい」
結局、大輔は着信に応じた。
『お、繋がったかね。いつまでも応じないから、圏外なのかとすわ焦った』
「どちら様で?」
『失礼。私はライセンスバスター部門長官の六会忠だ』
「六会長官!?」
大輔の声が裏返るのも無理は無い。警察組織とライセンスバスター部門は、似たような役割を果たしながらも管轄や職務内容は大きく異なっているので、協力関係は築いているものの、秘匿回線を開いて通信するまでの信頼性はまだお互いに得られていない。
「ちょ、あの……何で長官が俺達……いや、そもそもっ――」
『落ち着きなさい。いまは一秒すら惜しい』
「はい?」
『良いか、順を追って説明するから、よく聞くんだ』
回線の向こうから咳払いの音がした。
『……いま、君達はサウス区の廃棄された市民プール内にいる。そうだね?』
「ええ。それが何か?」
『周辺住民から、ここで変な呻き声がするという通報を受け、原因を確かめに君達はここへやってきた。だが、おそらく君達の目の前には、その原因となるようなモノは一切無い筈だ』
「ええ。たったいま、それで引き返そうと思ってたところでして」
『そうか。しかし大変申し訳無いが、それはもう遅い』
「は?」
『いま君達がいる地点の周辺から、オーガ型の<星獣>が六体、フィノメノン級キメラ型<星獣>がニ十体、怪鳥型<星獣>の七体が出現した。しかも都合の悪い事に、これら全てが一気に君達の居所に集まってきている』
「……え?」
忠の状況説明を全て飲み込むのに脳をフル回転させ、内容を咀嚼し、事の深刻さに顔が真っ青に染まりかけた時、
「先輩、アレ!」
勿論、この通信は後輩達も聞いている。いち早く状況を飲み込んだ雄太が、吹き抜けになっている天井を指さして叫んだ。
青い光を撒き散らす、標本めいたプテラノドンの姿をした獣が、こちらの頭上で円を描くように旋回飛行している。
忠の報告にあった怪鳥型<星獣>の一体だ。
「おいおい、早く逃げないとヤバいんじゃねぇの、これ?」
『下手に外に出ればキメラ型に動きを抑えられ、オーガ型に殺されるぞ』
キメラ型の<星獣>は雑魚だが、オーガ型も一緒となれば話は別だ。オーガ型は最近発見された新種の<星獣>で、動きは鈍重だが巨大かつ装甲が非常に硬い。人の身で力比べをしようとすれば捻り潰され、いくら攻撃を叩き込んでも中々倒れてはくれず、遠距離からの狙撃なんて豆鉄砲を食らった程度のダメージで終わってしまう。
はっきり言って、一番困るタイプの相手だ。
「オーガ型さえ何とかできれば……」
「瀬谷さん、来ます!」
真紀からの警告。天井から飛び降りてきたライオンとゴリラの合成<星獣>が、真っ先に大輔の正面から猛然と向かってくる。
「くそっ、やるっきゃねぇってか! 瑞代、片山ァ!」
「了解!」
「これ、怪我したら労災降りるんスよね!?」
それぞれが了承し、、<アステルドライバー>を腕にあてがい、ポケットから鍵のような物体――<ドライブキー>を取り出し、端末の側面に空いた挿入口に差し込んだ。
『バトルモード・セットアップ』
<アステルドライバー>からの機械音声。これで準備万端だ。
「<メインアームズカード>・アンロック!」
三人同時に唱える。すると一瞬の閃光と共に、大輔の手には一振りの日本刀、真紀には大型のハンドガン、雄太には大型の盾が装備された。
正面からキメラが一匹、牙を覗かせて飛びかかってくる。
「せいっ!」
一閃。狙い過たず、相手の首と胴体の境目を綺麗に切断。上と下が泣き別れたキメラ型の<星獣>は、青い光の飛沫となって消え去った。
「おお、さすが先輩」
「関心してる場合じゃねぇ!」
『その通りだ』
忠が言った。
『これから私が君達に指示を下す。生き残りたいなら従って欲しい』
「何を偉そうに呑気な事言ってんだ!」
大輔が激昂する。
「現場から遠く離れた安全な場所から、ゲーム感覚で指示してる奴の言う事なんか信頼できっかってんだ!」
「瀬谷さん、キメラ型が次々に屋内に流れ込んできます!」
真紀の言った通り、この周囲はいつの間にか、それぞれ形の違うキメラ型<星獣>によって埋め尽くされていた。
「万事休すか……」
『三人でお互いの背中を護り合え。下手に散るよりかはマシだ』
信頼できないと言われたばかりにも関わらず、忠が平然と言ってのけた。
『この建物は中央が吹き抜けになっている以外はドーム状で、全高はオーガ型よりも少し高い。外に控えるデカブツ連中は外壁をぶち抜かない限りは侵入できないだろう』
忠の言わんとしている事は分かる。囲まれている状況で無闇に散開して他の仲間を危機に晒すより、一網打尽にされるリスクを承知で互いをフォローしていくしかない。それに、遊泳スペースから離れたとして、廊下にいたところをオーガ型によって建物ごと破壊されては、それこそ助かる公算が無くなってしまう。
周りの敵達が、寄り集まる三人との距離をじりじり詰めに来る。
「それまでの間、ずっとここに留まって戦えってのかよ!」
『五分でいい』
忠が断言する。
『既にS級バスターを一人だけ手配してある。彼が来るまでの辛抱だろう』
「S級バスター……」
S級バスター。全てのライセンスバスター達の中でも突出した戦闘能力を持つ、奇人・変人・変態だらけの対<星獣>用戦闘集団。たしかに、そんな奴が一人でも現場にいれば、それ以外の連中の生存率は大幅に向上する。
だが、今回は状況が違う。
「でも、この数だぞ。しかも外にはオーガ型……」
ずしん――と、大きく地面が揺れ、轟音が鳴り響く。おそらく、いま噂のオーガ型がこの施設の外壁をぶち抜こうとしているのだ。このまま膠着状態が続くと、大量のキメラ型に加えてオーガ型までまとめて相手にしなければならない。
『これで分かっただろう。もたついた分だけ状況は不利になる』
「……聞いてたな、お前達」
大輔が腰を落とし、剣を地面に対して水平に構える。
「瑞代、片山。一体でも多く片付けるぞ。ちょっとでも生存率を上げるんだ。背中はお互いに任せて、何も考えずに眼前の敵だけをぶちのめせ」
「おうッス!」
「了解」
真紀が大型のハンドガンを発砲。蛇とゴリラのキメラ型の両目を潰してみせた。
「<バトルカード>・<デストラクター>、アンロック!」
音声入力に<アステルドライバー>が反応。腰のベルトに括り付けてあったデッキケースと連動して、ケース内の<バトルカード>が発動された。
真紀が再び発砲。さっきのゴリラの後ろから踊り出てきた二足歩行のトカゲみたいな<星獣>に弾丸が直撃。体の組成が分解され、バラバラに砕けてプールサイドの床に飛び散った。
真上からカマキリみたいな姿をした<星獣>が落ちてくる。これは雄太が盾を傘みたいに上に掲げて、敵が足を置いたところを、
「<バトルカード>・<ハードブレイズ>、アンロック!」
これまた<バトルカード>を発動。盾の表面が燃え上がり、上に乗っていたカマキリをこんがり焼き上げ、最終的には黒い消し炭にして消滅させる。
「おおおおおおおおおおおっ!」
大輔が雄たけびを上げて刀を振るう。刃先が鋭い線を描き、一体、二体と、順調に敵の数を一刀のもとに減らしていく。
『衛星カメラから見ているぞ。見事だな、瀬谷巡査部長』
「これでも署内じゃあ、ちったぁ名の知れた剣豪なモンでね!」
これについては洒落のつもりで言ってみたが、実は本当の話である。警察でスポーツといえば剣道とは良く言われたもので、大輔はグランドアステルの全警察組織の中でもトップクラスの剣の腕前を誇っている。ついでに言えば、真紀も全警察組織内でトップのガンスリンガーで、雄太も署内で有数のシールド使いだ。
行ける。この三人なら、確実に!
「<バトルカード>・<アクアスプレッド>、アンロック!」
真紀が発砲。銃口から水の弾丸が飛び散り、散布界にいた<星獣>を貫いて消し飛ばす。これでキメラ型はあと半数だ。
「よし、これでちったぁ楽に――」
大輔が喜んだ、その時だった。
プールを取り囲んでいたドーム状の壁が派手に吹き飛び、瓦礫がこちらの位置まで雪崩れ込んできたのだ。
「先輩!」
雄太が反応。大輔と真紀の前に踊り出て、盾を前に突き出して身を固める。瓦礫がシールドに当たり続け、その衝撃で雄太の全身がガクガクと揺れる。
「ぐうぅ……あっ!?」
突然雄太の体勢が崩れ、盾が手から離れる。すると、盾を失った彼の体に、残りの瓦礫が全て直撃する。
さっきまで元気だった雄太の全身が己の血に染まり、彼はまさしく糸の切れたマリオネットみたいに崩れ落ちてしまった。
「か……片山ぁああああああああああああっ!」
「片山君っ!」
大輔と真紀が叫び、血まみれで倒れる彼の傍に跪き、その容態を確かめる。
幸い、まだ雄太には意識があった。
「……せ――先輩、瑞……しろ……さ……」
「バカ野郎、無茶な真似しやがって!」
「あ……アレ……を」
雄太が震える指で差したのは、さっき突然吹き飛んだ壁の方向だった。
「……あれは」
建材の粉塵が舞い上がる中に見えたのは、一つの巨体だった。
全長は優に二十メートルは超えていただろうか。顔を含む全身には鈍色の装甲が張り付いており、仮面のような装甲から覗く小さな赤い瞳はどこまでも無機質で、挙動の一つ一つは重々しいの一言に尽きる。
「オーガ型……」
『残りのキメラ型もくるぞ!』
忠からの警告。こちらの隙を見抜いたのか、まだ倒し切れていなかったごく少数のキメラ型がいっぺんに押し寄せてくる。
大輔は歯を食いしばり、叫んだ。
「っ……畜生があああああああああああああああああっ!」
立ち上がって得物の柄を握りしめ、襲ってきたキメラ型を力任せな太刀筋で葬り去る。これでキメラ型は全滅だ。
だが、この後どうする? このまま満身創痍の雄太を担いでいくにせよ、外にはまだオーガ型と怪鳥型の<星獣>が複数存在している。このままでは一網打尽だ。
「うああああああああああっ!」
真紀が自棄になったのか、オーガ型にハンドガンの連射をお見舞いする。しかし、弾丸はオーガ型の装甲を跳ねて四散してしまう。
「やめろ、瑞代!」
「だって、だってこのままじゃあ!」
「んなこたぁ分かってんだよ!」
口論している場合でもないのに、こうなってしまうのは人の性という奴か。いよいよもって、状況が絶望的なラインから抜け出せない段階にまで来てしまったようだ。
オーガ型が片腕を重々しく振り上げる。あんな丸太以上に太い腕から一撃を貰おうもんなら、ここにいる三人はすぐにミンチにされるだろう。
可能な限り頑張ってはみたが、俺達もとうとう年貢の納め時か――
『五分経過。よく持ちこたえた』
忠が平淡に告げる。
『最強のライセンスバスターが到着した』
「え……?」
大輔がかすれた声で聞き返したすぐ後、たったいまプールサイドに侵入してきたオーガ型が真っ二つに割れ、いともあっさりと消滅した。
あの重装甲が一撃で? 一体何が起こった?
呆気に取られていた大輔の前に、突如として小さな人影が降り立った。
「あいつは……!」
容姿から推定するに、恐らく十代前半だろう。ライセンスバスターの制服である黒地に赤いラインが引かれたロングコートを着用し、片手には淡青の優美な日本刀が握られている。
そんな彼においてもっとも特徴的なのは、夜風に揺れる水色の頭髪だった。
「水色の髪、淡い青の刀……」
自分は彼を知っている。知り合いな訳ではないが、知っている。
<星獣>との対立がサウス区などとは比べものにならないくらい激しいとされる戦争地帯、グランドアステル・ウェスト区からセントラルにやってきた元・少年兵にして、去年の冬頃に起きた大量殺戮事件の首謀者を倒した英雄の一人。
グランドアステル最強のS級ライセンスバスター、九条ナユタだ。
「遅れて申し訳ない。ライセンスバスター・九条ナユタ、現着しました」
「お、おう……あ、そうだ!」
思考がまとまらず呆然としていたが、いまはその場合ではない。
「俺の部下が瀕死の重体だ、早く病院に運ばねぇと!」
「大丈夫です。もう呼んである」
ナユタが落ち着き払った声音で言った。今年で十四歳になるとは思えない口調だ。
「でも救急車が来るまでに全て始末しなきゃならない。巡査部長達はここで待っていてください。俺が片付けてくるんで」
「無茶だ、オーガ型五体と怪鳥型が七体も残ってるんだぞ!」
「問題ないです。今日の晩御飯はフライドチキンに決まりです」
軽口を叩くや、ナユタが踵を返し、刀を振り上げる。
「<バトルカード>・<ストームブレード>、フォースアンロック」
ナユタが<バトルカード>四枚分の力を一気に解放。刃全体を灰色の巨大な竜巻が覆い尽くす。
「いくぞ、<蒼月>! ブースト!」
さらに、刀身から青い光が吹き出し、灰色の竜巻と混ざり合っていく。
「<カードアライアンス>・<トルネードブリンガー>!」
刀を振り下ろし、刀身を包んでいた灰色の風と青い光の混成攻撃を発射。青と灰色の竜巻が矢となって真っ直ぐ飛翔し、さっき吹き飛ばされた壁とは反対方向の壁を貫通。先程以上の大穴が空き、竜巻の矢が通り過ぎた後は雑草一本すら残らなくなった。
ナユタが片耳のインカムに意識を傾ける。
「長官。いまので何体消し飛びました?」
『オーガ型が二体。あと三体だ』
「九条、上だ!」
いまのやり取りには色んな意味で驚いたが、今度は怪鳥型<星獣>達が天井の吹き抜けから急降下してきた。
そのくちばしで狙うは、やはりナユタ一人だった。
「お? こっちから飛んでいく手間が省けたな」
ナユタは至極リラックスした様子で、体当たりを仕掛けてきた怪鳥型を一刀で斬り伏せる。それ以降も立て続けにナユタに向かって飛んでくるが、彼はまるで踊っているかのような、全身を使った剣捌きで、一体、また一体と処断していく。
これで怪鳥型も全滅。存外、あっけないものである。
『あとはオーガ型が三体だ』
「怪我人の容体があまり良くないです。早めに終わらせないと」
『そういう事なら好きにやれ。許可申請は既に済ましてある』
「オーライ」
ナユタは頷くと、一旦深呼吸をする。
「――いくぞ」
静かに呟き、<アステルドライバー>を装着した左腕を真横に伸ばす。
「<アステルジョーカー>、アンロック!」
唱えた直後、彼を中心に青い光の柱が突き上がる。あまりの眩しさに目が眩み、思わず腕で顔面を覆い尽くしてしまう。
やがて光は収束する。
九条ナユタの姿は、さっきまでとは一変していた。
いままで着用していたコートは、色が反転したかのように黒から白に染まり、引かれていた赤いラインが青色に塗り替わる。握っていた刀――<蒼月>の柄頭にも、車の鍵穴を思わせるスリットが追加されている。
警察学校の授業か何かで聞いた事がある。人の命を材料にして作られた、最強のアステルカードが存在すると。
人はそのカードを、<アステルジョーカー>と呼ぶらしい。
「一瞬で片付ける!」
意気込むや、ナユタはコートの裏から、鳥の翼を模した<ドライブキー>を抜き出し、<蒼月>の柄頭に備えられたスリットに挿し込んだ。すると、刀身が青白い鳥の翼みたいな形に変化する。
ナユタが大きく剣を振りかぶり、
「<月火翼閃>!」
思いっきり一閃。翼の羽が全て抜け落ちると、羽の一枚一枚が鋭い太刀筋となり、屋内を囲んでいたドームの壁を粉々に粉砕し、その向こう側に見えた残りのオーガ型を全てバラバラに引き裂いてみせた。
オーガ型の輪郭が薄れ、ぱっと消滅する。これで全ての<星獣>が全滅した。
「……うそだろ?」
あまりにも豪快な光景に、大輔は開いた口がふさがらなかった。顎が外れなかったのが幸いなくらいである。
「たった、一瞬で……あの数を――オーガ型を、全滅させた?」
「しかも、倒す順序が的確でした。オーガ型にはほとんど何もさせてなかったですし」
「無茶苦茶ッス、あの子……」
きわめて常識的な感覚を持つ三人の警官からすれば、いまナユタがやってのけた所業は別次元の芸当である。
ただ単にパワーカードに頼り切っただけなら、<アステルジョーカー>の力のみを驚いていれば良かったのだ。なのに、現れるついでに一瞬でオーガ型を仕留めたり、壁越しで見えない標的を二体も始末し、上空から襲ってきた怪鳥型を余裕で断裁、挙句の果てには廃棄施設を跡形もなく消し飛ばしてこの有様である。
有り体に言って、彼は凶悪な戦士だ。これでまだ十四歳だというのだから、この先の成長が楽しみになるどころか恐ろしくなってくる。
『どうかね? うちのエースは』
「……いやー、まあ、そうっすねぇ……」
突然忠に訊かれて答えに窮するが、大輔としてはやはりこう答えるしか無かった。
「もうちょっと大人しくても良いのでは?」
『贅沢を言うな。子供は大抵、そういう生き物だ』
いまの一言は、大輔の中では思ったより簡単に腑に落ちた。




