前半シーズン・最終話「現在という現在を生きる、その為に」
前半シーズン・最終話「現在という現在を生きる、その為に」
「改めて紹介しよう。この度、新しくS級ライセンスバスターの名を我々と共に連ねる事となった、九条ナユタ君だ」
「よろしくー」
六会忠の横でひらひらと手を振るナユタは、改めてS級バスター達を前にして気軽に挨拶した。顔見知りも多い上に、以前の事件の関係で少なからず姿だけ見ている人間も多かったからだ。
ここはS級バスターが主に使用する仮想戦闘室で、星の都学園のアリーナ同様、床に掘られたいくつかの溝で演習用の領域が区分けされている。
忠が説明を続けた。
「前回の一件でグランドアステルにも少なからずS級バスターを常駐させておく必要が生まれた。だから星の都学園中等部の生徒である彼がその役に適任だと判断されたのだ。彼の実力に関してはテレビ中継で知っている者も多かろう。わざわざ反論を口にする者もいまい」
「一つだけ質問が」
金のソフトモヒカンを頭にたくわえた少年、マックス・ターナーが神妙な顔で挙手する。
「何かね?」
「園田サツキも推薦を受けていた筈ですが」
「どうやら報せが充分に行き届いていないようだな。彼女はこちらの申し出を辞退した。自分ではまだ実力不足だから、より精進してから正式な手続きで昇級したいのだそうだ」
「ストイックな奴ですね。先の楽しみが増えた気がします」
推薦人の一人であるマックスは彼女の選択を不服には思わなかったらしい。むしろ純粋に応援する姿勢のようだ。サツキとマックスは元々が生真面目な性格なので、案外共感するところがあったのかもしれない。
「他に何か質問は?」
「大アリですな」
今度はエレナが何故か拗ねたように言った。
「テレビ中継だけでナユタの実力を見た連中が、いまこの中には半数程いる訳だが」
「何が言いたい?」
「実際戦ってみた方が箔が付くというものでしょう」
「それは単にお前が彼と戦いたいだけなのでは?」
「…………」
図星を突かれたらしい。エレナが黙り込んだ。
忠はため息をつくと、仕方ないといった調子で言った。
「そんなに望むなら、叶えてやるのもまた一興か」
「良いんですか?」
「九条君。君はどうかね?」
「しょうがないっすねー」
先んじてナユタが演習フィールドの領域に立ち入った。エレナも嬉々として彼の前に対峙し、既に纏っていた黒い制服の袖から、赤白い光の刃を両手に一本ずつ伸ばした。
「君と闘うのはアオイの一件以来か。あの時はわざと手を抜いてもらったが、今回は全力で戦ってもらうぞ? どうせだからあの時みたいに<アステルジョーカー>も使ってもらおうか」
「良いんすか? 瞬殺しちゃいますよ?」
「やれるものならやってみろ」
「はいはい。――長官、無痛覚フィールドの展開を」
ナユタの要求に忠が無言で頷き、薄いエネルギー体の壁でフィールドの四方を囲んだ。これで戦闘準備は万端だ。
エレナがぎらついた瞳で、眼前の獲物たるナユタをしっかり捉えた
「さあ、来い!」
「いくぜ、姐さん!」
ナユタが<アステルドライバー>に<ドライブキー>をセットした。
掛け替えの無いものを失って、苦しんで、悲嘆に暮れては立ち直り続けたこれまでの日々の中で、俺は強く変われただろうか。
いや、単に変わった訳でもなければ強くなった訳でもないだろう。変わらないものもあって、たまに弱くなったと自覚する時もあって、俺は初めて本当に大切な現在を認識していられる。
すまんな親父。俺はまだあんたのところまで行ってやる訳にはいかない。
まだ俺は自分に出来る全てを果たした気にはなっていないし、何より御影東悟だって未だに捕まっていない。いずれ素性も知らないその野郎と一戦交える機会が訪れるだろうし、絶対負ける訳にはいかない戦いになると分かっている。
だからこれからも俺の戦争は終わらないし、終われない。
「<アステルジョーカー>、アンロック!」
過去と向き合い、未来を見据え、現在という現在を生きる、その為に。
俺はずっと、戦争屋で在り続けようと思う。
前半シーズン 終了
後半シーズンに続く




