イチル編・第零話「青い戦争屋と小さなモデルさん」
イチル編・第零話「青い戦争屋と小さなモデルさん」
九条ナユタが八坂イチルの姿を初めて目にしたのは、入学式直前でざわめく星の都学園の校門前だった。
道行く新入生だけでなく、子供の入学式を見に来た親達からも注目を浴びていた彼女は、周囲の色めきとは裏腹に表情が暗かった。理由は分からない。
何にせよ、きっと余程の有名人なのだろう。セントラルに来て間もないナユタからすれば、彼女の第一印象なんてその程度でしかない。別に可愛いからって恋に落ちた訳でもないし、お近づきになろうだなんて微塵も思わなかった。
「俺には関係の無い話だ」
ナユタは鼻を鳴らし、誰にも聞こえないようにひとりごちた。
ああ。関係ありませんとも。たかが一介の元・少年兵で、他には何の変哲も無い一般市民様であるところの俺には全く関係無い。
最初はたしかにそう思っていた。
でも、関係無くても巻き込まれるのが人生だと、半年後のナユタは強く思い知らされる事となる。
八坂イチルからしても同じ心境だった。
道行く中でちらっと目にした、髪が水色の奇妙な少年と自分が、どういう形で関わりあっていくのかなんて――いや、そもそも関わり合いになるだなんて夢にも思わなかった。
ただ、イチルはその少年の背中に、とある別の少年の姿を重ね合わせてしまった。
何となく似ていたのだ。普段は何を考えているのか分からないところも、やけに戦闘能力が高かったところも、時々言い知れない重圧を纏う時があるところも、全部そっくりだ。
でも、九条ナユタと一ノ瀬ヒナタには決定的な差異がある。
ただし、それを知る頃には、イチル自身の何かが決定的に変わってしまっていた。
「あたしには関係無い」
仄暗く呟いて、イチルは早足で入学式の会場である第一アリーナへと向かった。
決して交わらない筈の二人が、本当の意味で運命を交差させるポイントがあるとすれば、おそらくこの時を於いて他には無かっただろう。




