サツキ編・第零話「残火の青」
サツキ編・第零話「残火の青」
額に突きつけられた銃口の硬さを実感した頃には、少年は既に覚悟を決めていた。
少年の周りに集っているのは、全員がA級のライセンスバスター達だ。父親の仇を討つに至るまで少年が殺したとある男の私兵は総勢二百人。その罪状をスカイアステルの連中に咎められ、こうして税金泥棒の末端共に捕まっているのだ。
やれ危険人物だの、知能の高い猛獣だの、勢いに任せて言われたい放題だった。
「貴様ら、子供に銃を向けるな」
目の前で撃鉄が落ちる瞬間をぼうっと眺めていた少年の耳に、少しだけしわがれつつもよく通った男の声が轟いた。
声の主はA級バスター達をかき分け、少年の前で膝を折って目線を下げた。
「人が目を離してる隙にこれだ。すまなかったな、少年」
赤いラインが入った黒いロングの制服を着た屈強そうな老人だった。つい先程まで暴走していた少年との死闘を演じていた後とは思えない程には、彼の佇まいは何処か飄然としていた。
「……このまま殺してくれた方が良かった」
「それは困る。孫の友達が減ってしまうからな」
老人が柔らかく微笑んだ。
「私には君と同い年の孫娘がいてな。今年セントラルで中学生になる予定だ。もし君にまだ生きる意思があるのなら、是非友達になってもらいたいものだ」
「俺はただの人殺しだ。誰の友達になる資格も無い」
「資格とは誰かに与えられるものではない。自分で勝ち取るものだ」
彼は少年の頭に手を置いた。手の平の硬い皮膚から、彼の穏やかな温かみが伝わってくるようだった。
「九条ナユタ。私が手合わせした中では最強の戦士よ。君の灰がこんな砂漠の砂と入り混じって忘れられていくのは、同じ戦士としては忍びない」
そんな事を言ってくれた老人の顔を、ナユタはもう思い出せないでいた。
そして生涯二度と、彼が名も知らぬあの老人と再会する機会は訪れなかった。




