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アステルジョーカーシリーズ  作者: 夏村 傘
アステルジョーカーVOL.2 ~ナナ編~
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ナナ編・最終話「時代遅れの兵士達」


   ナナ編・最終話「時代遅れの兵士達」



「野郎……いつか絶対ぶっ殺してやる……」

「案外タケシ君も容赦無いよな。俺、もう彼には絶対逆らわない」

「何であたしまでー!」

 星の都学園の隅に設けられたゴミ集積所にて、敷布団と縄によって簀巻きにされたまま放置されている九条ナユタと黒崎修一、そしてユミ・テレサは、目を覚ますなり自分達をこんな目に遭わせた六会タケシに恨み言を吐いていた。

 いま頃奴は、何食わぬ顔でついさっきデキたばかりのマイハニーとやらを相手にロマンチックナイトに興じている最中だろう。イチルとサツキには説教だけで済ましていたのに、何で奴は元・戦争屋組には厳しいのだろうか。いや、こちらの体が頑丈だからこそ、どんな時でもこの三人には雑な扱いが出来るのだ、あの男は。

 ちなみにいまは十月だ。夜の寒さも根性だけでは我慢出来なくなる時期である。

「ナユタ。せっかくだから、考えてた事を言わせてもらっていいかな?」

「なーにがせっかくだ? アホか貴様は」

 何故に即席拘束具から頭だけを出した状態で会話せねばならんのか。

 忌々しげな顔をするナユタに構わず、修一が言った。

「俺とユミに支給されたAデバイスに、無痛覚フィールドを即時に展開させられるアプリがインストールされていた。つまり教員用のデバイスと同じ仕様という事になる」

「それが何だ?」

「お前の<アステルドライバー>にも同じ機能がインストールされてるらしいな」

 修一が横目でこちらを睨んで言った。

「要するに俺達三人の扱いは教員と同じって事だろ、それは」

「将来的に戦闘のインストラクターになって、後進の育成に努めるってか? 良い事じゃねぇか。就職先が早いうちに決まってよ」

「あたしもね、何でその役回りがあたし達なのかって考えたんだ」

 ユミが体勢に関わらず、落ち着き払った声で言った。

「あたしさ、サツキと戦って負けたじゃん? 修ちゃんも先生に負けちゃったし、ナユタだってナナちゃんがいなきゃバリスタには勝てなかった訳じゃん?」

「何が言いたい?」

「才能が無いんだよ、あたし達」

 そう告げるユミの声は暗かった。

「あたし達三人は経歴さえ除けばただの凡人同然だよ。戦場に生まれた凡人が戦士になって、平和の世界に生まれた天才が才能を埋もれさせたままだなんて、皮肉な話だよね」

「同感だよ、全く」

 ナユタは自分の周りにいる四人の子供達を思い出しながらぼやいた。

「あの四人はもっと強くなる。そうなったら才能という一点で、俺達は必ず取り残される。順調に育てば、将来的には世界の平和を守る最前線に立つかもな」

 タケシには知略、サツキには技巧、ナナには<トランサー>の能力、イチルには<輝操術>による治療といった、各々際立つ才覚が秘められている。どれもこれも、いまここで転がってる三人には得られなかった貴重な才能だ。

 だから現状でも有能で将来性が高い若者と、経験豊かだが将来性を全く感じない若者、どちらに希望が持たれるかなど、考えなくても自然と見えてくる。

 修一は寂しそうに言った。

「もし西区域の<星獣>が繁殖しなくなったら、次は戦争すら無くなるだろうさ」

「次の世代に自分の技を伝えたら、あたし達はもう用済みだよね」

「そうだな……」

 ナユタは首をめいっぱい逸らし、夜空に瞬く星の数々を眺めながら言った。


「いずれ、兵士が要らない時代がやって来る」


 いつかは戦争を生業とする連中も根絶する。時々自然発生する<星獣>を退治するだけの日常は続くものの、グランドアステルの各地域では<星獣>の繁殖頻度に差が無くなる日も、実はそう遠くないのかもしれない。最近の科学の発展を考えれば難しい事ではない。

 もうこの三人の力に意味は無くなる。兵士としての人生も死期が近い。

「なんか、寂しくなるな」

「ああ。でも、仕方の無い事さ」

「……修ちゃん、ナユタ」

 男二人がしんみりと呟いている横で、ユミの顔が徐々に青くなっていく。

「ユミ? どったの?」

「まさか風邪引いたんじゃ……」

「おトイレ……」

「「え」」

 ユミが震えながら呟くと、ナユタと修一の顔も同様に青くなる。

「そろそろ……限界……!」

「ちょっ、ユミ、おま……ええええええええええええ!?」

「そりゃそうですよね! 推定一時間ちょいはずっとこの体勢ですからね!」

 などと叫ぶナユタも、体の自由を奪われたが為に正確な時刻を確認する事さえ叶わない。実際はもっと長いのかもしれないし、下手をすれば日付を超えてる可能性すらある。

「ナユタ、<アステルドライバー>を使ってさっさとこの拘束を解いてくれ!」

「<ドライブキー>差し込まないと起動しないんだよ!」

「ファック! マジでファック!」

「も~れ~る~!」

「衛生兵……衛生兵を!」

「落ち着け修一。ここは戦場じゃない、学校だ」

「あ……あぁああぁ……! あたしの、女子としての尊厳が……!」

「「誰か……誰かユミだけでも助けてくれぇぇぇぇぇぇっ!」」

 この叫びが救難信号になってくれたのか、たまたま通りかかった巡回の警備員によって三人は救出され、ユミはどうにか思春期女子としての尊厳を保てたのであった。


   ●


 気丈に振舞うのは得意だ。母親が死んだ時だって、ヒナタの前以外では上手くやっていた。

 いまも他人を騙すのだってお手の物だ。現に周囲では、師匠であるエレナ以外は誰も自分を心配するようなそぶりは見せていない。

 全てこれまで通りだ。何の問題も無い。

 こうして寮の部屋を暗くして、ベッドの中に潜り込んで、これまでに湧き上がっていた感情の全てを胸三寸程度に留めておきさえすれば、明日はまたいつもの自分に戻れる。

 気を許せる仲間がいたとしても、ヒナタみたいに優しく慰めようとする者さえいなければ、誰にだって自分の本音を隠し通せる。

 鉄の心を持つと言われた最強の<輝操術師>・八坂ミチルの子供、それが八坂イチルだ。

「ナユタはもっと辛い目に遭ってきたんだ。この程度、大丈夫」

 少し離れた隣のベッドで寝ているルームメイトにも聞こえないように呟き、イチルは念じるように固く目を閉じる。

 次の朝、目覚まし時計のアラームに起こされるまで、彼女は夢の一つさえも見なかった。

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