第零話「流星の刃」
第零話「流星の刃」
強く。強く。ひたすら、強く。
命果てる寸前の親父は、手に持った真っ白なカードに繰り返し願った。
「強く……強く、ひたすら、強く」
荒涼とした大地の上。青い光を纏った奇形の化け物達に包囲され、もはや逃げ場無し。
絶体絶命のこの状況に追い込まれたのは、血まみれで横たわった迷彩服の男と、その傍らに跪いていたくせっ毛の黒髪を揺らした幼い少年だった。
男は見ての通り虫の息。
幼い少年は、ぼろぼろと泣きじゃくったままだった。
「おいクソガキ……一度しか言わないから、よーく聞け」
絶命寸前とは思えない程のよく通った声で、男は少年に言った。
「俺はいまから、このクソったれな世界とオサラバする。だが、悪あがきはしてみようと思う」
「さっきから言ってる事がわかんねぇよ!」
少年は叫ぶ。いまからこの男が何をしようとしているのかも分からず、ただ闇雲に。
けれど、男は少年の言葉を意に介さなかった。
「お前に俺の力を託す。だからいまから生まれてくるそいつを使って、周りに群がってる雑魚共を片付けてさっさと逃げろ。お前なら……絶対出来る」
男は真っ白なカードを高く掲げると、にやりと笑って、
「血が繋がっていなくても……少しの間だけでも、お前と親子をやれて……本当に良かった」
「親父っ!」
少年が叫んだのと同時に、青白い光がカードから溢れ、周囲を包み込んだ。
それから、たった二分後の事。
数に物を言わせて、親子を捕食しようとしていた青色の化け物達は、バチバチと青い稲妻を垂れ流しながら自然消滅していく残骸となっていた。
その中心で、黒髪が水色に変わった少年は、虚ろな目をしてずっと立ち尽くしていた。
ただ無言に。
いつの間にか握り締めていた大太刀の柄に、一層強く力を込めて。
いつしか泣き止んでいた少年は、鉛色の空を青色の瞳に映した。




