3話
なんとか続き…
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「やっとわかったのか」
そうのたまう私のクラスメート。
そんな当たり前そうに言われても、彼との接点など無いに等しい。いやはっきり言おう、無い。私と彼はただのクラスメートという繋がりしかない、そんな関係だ。しかもそんな薄い関係の上、教室内でも一度もしっかり話した記憶はない。もしかしたら一度あいさつくらいならしたことがあるかもしれない。
私の知る彼、ハルトとは、学校のアイドルと言われるようなレベルの可愛らしい女の子を簡単に何人も釣り上げてしまうようなレベルの顔をもち、休み時間などは率先して男子たちと共に外でスポーツに繰り出しながらも授業中はしっかり勉強に勤しむので成績はいいという誰から見てもぐうの音も出ない、正真正銘イケメンだ。しかも女の子たちに言い寄られても男子たちからのやっかみは「この幸せ者め~」と言って肘でつついてくる位で済むという人気ぶりだ。茶目っ気も備えているのだろう。とにかくぶっ飛んだハイスペック人間なのだ。
それに比べて私といえば、みんなの第一印象はよく言えば「真面目」、悪くいえば「地味」といったところだろうか。
まあ特に目立つこともなく、ただ在籍していることはとりあえず認知されている程度の存在だ。
少しでも家に居たくなくて、毎朝すごい早さで家を出る私はなんとなしに教室内の雑用を請け負っている。だから印象には「便利」という言葉も入るかもしれない。
私の通う学校は、町の大人たちが「将来この町を担っていく子供たちに学を」ということで、お金を少しずつ募って建てられたらしく、国が税金を使って豪勢に建てたお坊ちゃんお嬢ちゃんや天才などの為の学校と比べて色々なところがルーズだ。例えば、私の学校には決まった制服がない。基本学べればなんでもいい精神なので、生活に支障のない程度ならば服装は自由なのだ。
私が学校に着ていく服は毎日変わらず白シャツに黒のスカート。髪は二つに結わえるだけの地味なものだ。
逆にハルトはどこぞの貴族のお坊ちゃんらしくて、毎日違う服を着ては女の子たちを悩ましげな様子にさせていた。くそう、これだからイケメンは。
そういえば、ハルトが町の学校に入って来たとき、近所のおじさんやおばさんはみなこぞってどこどこの坊ちゃまだそうだ、妾の子だそうだと騒いでいたのを思い出した。最後はハルトの家が莫大な寄付金を学校に積んで黙らせたと風の噂できいたことがある。まあ正しいかどうかも、正しいことが何なのかも私も誰も知らないけれど。
私としては、学校で見る格好でもないのに私を私として認識したことの方が驚きだった。
なぜ私だとわかったのだろう…
悶々と考え込んでいると、ハルトが私の目の前で手を振っていた。あいかわらず黒い手だ。それでも私の思考は止まらない。
「おい、聞いてるのか。おい」
私が学校で聴く声よりもだいぶトーンが低い。話し方も堅めだ。学校のあれはキャラでも作ってたのかな?
「……おい」
底冷えするような声に一瞬で我に帰った。
彼から青い炎が見えるような気がする。冷たすぎて痛い。そしてなにより怖い。
「な、なんでしょう」
恐る恐る返すと、ようやく彼は背後の青い炎を少し鎮めた。ほっ、よかった。
「お前はこの家に何の用で来て何をやらかしてこんなところに入ってる?それとその頬。あと麻袋のことも説明しろ。昨日はお前を麻袋から出したときにここにいたが、お前は延びてて何もわからないまま戻る羽目になったんだ。何から何まですべてわかるように説明しろ」
余りの高圧的な態度にむしろこいつは別人なんじゃないかという疑いすら抱き始めた。
誰だこいつ。私の教室にいる人気者のハルトじゃない。
「おい、早く答え」
「胸揉まれたのが気持ち悪くて勢い余って股間蹴ったら思わぬおこぼれを頂きました」
食い気味によどまず一息で答えて下からハルトを見上げる。後ろで赤髪のひとが痛そうな顔して股間を押さえてる姿が見えた。こっちだって胸揉まれてんのよ。
私の勢いにたじろいだ様子のハルトを見て少し気が紛れた。
「そ…そうか。それは、災難だったな、互いに」
「ええ、まあ」
さっきまで痛そうな顔してたくせに、たじろぐハルトを見てもう楽しそうな顔になってる赤髪の人が、変化の激しい私たちの間に入って待ったをかけた。確かに私たちだけでは終わりは見えなかったので助かった。
「ちょーっとストップだ。ユラーナちゃんも端的な説明ありがとな。」
「ユラでいいですよ。大体の人はみなそう呼びますし、なにより私が呼ばれ慣れているので」
「わかった。じゃあユラ、とりあえず俺の名前はアキラス・フィダー。あそこでミーシャといちゃついてる金髪の男はライディーン・ホークだ。顔かたちで感づいたかもしれないが、ラヴィの双子の片割れだ。ラディとでも呼んでやってくれ。それでそろそろ俺としては明日の段取りの説明に入りたいところなんだが、どうかな?」
赤髪の男あらためアキ(ラスの話に従って奥でいちゃついてるというミーシャさんを見るとラヴィーネさんと双子であるというライディーンさんが後ろから抱きついていた。そして離す気配が一向にない。人の視線の集まらないところでちゃっかりなにやってんだと男いながらライディーンさんの顔をじっと観察して、それからラヴィーネさんに視線を移すと、なるほど、最初は金髪の共通点だけかと思ったが目許やら鼻筋やらいろいろと似た点が数多くあるようだ。
最後にアキラスの顔に視線が戻ってくると、彼は待ってましたとばかりにまた話を始めた。
「よさそうかな。明日についてだが、時刻は夜10時くらいをメドにしている。こう曖昧なのは、ここの伯爵の眠りに入る直前あたりを狙うことで戦闘をできるだけ避け長引かせないようにすることで使用人も一人残らず捕まえるためだ。」
「なんで使用人も全員捕まえるんですか?中年貴族にやらされてただけかもしれないじゃないですか。」
「だからよ」
不思議に思ってそう尋ねると、アキラスが答える前にラヴィーネさんが先に答えた。ラヴィーネさんの勢いにアキラスは苦笑しながらも説明をしてくれた。
「まあ、確かにあの伯爵にやらされてたってのは十分にありうる話ではあるんだが、それはすなわち『伯爵にやらされた』ってのを隠れ蓑にして逃げようとする使用人もいる可能性もあると言えるってことだ。ただでさえ上下関係のはっきりしてる使用人の社会だ、もしかしたら位の高い使用人に罪をなすりつける輩もいるかもしれない。いろいろひっくるめてそういう疑いをはっきりさせるために、使用人は全員捕まえとくんだ。」
アキラスの的を射た説明に無意識のうちに納得してしまった。いやはや、なるほど。
それにしてもラヴィーネさんの様子が気になる。この数時間の交流しかないが、あんながつがつしたような話し方は初めてだった。
ふとラヴィーネさんの方に目を向けると、苦笑を浮かべたままラヴィーネさんと私の方を見ていたアキラスと目があった。
意外と人を見てるんだな、と思いつつもなんだかラヴィーネさんに関しては訳アリそうなので深く踏み込まないようにしよう。
話の切れはあまりよくないけど、字数的にちょうどいいのでここまでです
どう考えても前中後で終わる感じじゃないのにこの表記にしているのは、話数で書くとなんとなくプレッシャーを感じる作者の豆腐メンタルの為です…
2016/02/07 話数表記に改訂