scene0:プロローグ
満天の星空の下、焚き火を挟んで三人の少年と、滝のように長く白い髭を垂らした老人が向かい合っていた。
少年達は皆、火の明かりに染めあがった顔を老人に向けている。
その幼い瞳に何かを期待しているような輝かきを灯して。
一呼吸をおいて、老人が口開いた。
ゆっくりだがずっしりと重みのある言葉を連ねていく。
「君達は七龍神伝をしっているかの?」
「七龍神伝?」
赤毛の少年が聞き返した。
他の少年達は視線を老人に送りつつも、耳を澄まして次の言葉を待っている。
「それは遠く遠く――この星が生まれた時まで遡る……」
▼▼▼▼▼▼
星が生まれた。
まだ名もない若い星は、その身に何も纏わず、灰色の石のように、とても静かに産声を上げた。
冷たく暗く、恐ろしく広い空間に、長い間星はただ一人孤独と一緒にいたのだ。
それはとてつもない恐怖であっただろう。星は暗黒の海に絶望し、その表面にいくつもの亀裂や突起を作った。
しかしその孤独はいつか終わりを告げる。
ある日、どこからか白い光と黒い光がやってきて、星の周りを回り始めた。
それは観察するかのように、または慰めるかのようにゆっくりとしたものだった。
そして時を開けずに次は赤い光と青い光が、黄色い光が、緑の光が、次々と星の元にやってきた。彼らも皆、星の周りをくるくると回り始めた。最後に茶色い光が一番遅いスピードで星の元へとたどり着いた。
その時だった。その時に星は第二の誕生を迎えたのだ。
光達は共鳴するように輝きを放ち、その姿を変えていった。
色をより濃く、力強い四肢を象っていく。
その姿はまさしく龍。七匹の龍はお互いを求め合うように一カ所に集った。
そして一匹ずつ星へと降り立っていく。
まずは赤き龍が降り立つと星は熱を得て、体内にたぎる力を手に入れた。次に蒼き龍が降り立つと星に水が溢れ、陸と海が生まれた。
次に茶色の龍が降り立つと陸に木々が生まれ、生命の息吹きが星を包んだ。
次に碧の龍が降り立つと風邪が吹き、雨が降り、雲が生まれ、雷鳴が轟いた。
次に白き龍が降り立つと星は光に包まれて、聖なる歌が鳴り響いた。
最後に黒き龍が降り立つと、光と対をなすように闇が生まれ、星を守る夜を作り出した。
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「――と、こうしていまある我等の星は出来上がったんじゃ。そして龍達は今もこの星のどこかに眠り続けているらしい……」
老人はもう消えかかった焚き木を棒でつついた。少年達はまだ輝く瞳をキラキラさせなから、老人を見つめている。
「これで終いだよ。――さぁ、キール、ウルグ、ラキ。もう遅い、今日は眠ろう」
老人は呆れたように、しかし愛しい孫を見るかのように彼等を見つめた。
この話しをするのは何度目だろうか。
両手で数えきれぬほど繰り返してきたが、これほどまで興味を示してくれたのはこの子達が初めてだ。
老人は重い腰を上げた。久々に使った体だか、なぜか疲れが気持ちよくも感じた。
「さぁ、小屋に戻ろう」
少年達に手を差し伸べた。
しかし中央に座っていた黒い髪の少年はその手を掴み、思い切り引っ張った。
勢いに負けて、老人は先ほどの位置に腰を下ろしてしまった。
驚いて少年を見据える。無礼な行為を叱ってやろうとも思った――はずたった。
「なぁ、グー爺。もっと話してよ!子供相手の御伽噺じゃなくて。本当に詳しい神伝をさ」
そう言う少年の瞳は本当に綺麗だった。
体の疲れなど吹き飛ばすように。
「まったく……今日は本当に星の綺麗な夜だ」
こんなに輝きをもった光を見るのは久しぶりだった。
彼等はこの星の希望になるかもしれない。
その時、老人はそう予感した。