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銀龍の操獣士  作者: 裕裕
7/20

実戦

 炎に包まれた建物が崩れ落ちた。

 中から這い出してきた火だるまの男を黒龍が踏み潰した。

 裂けた腹部から、内蔵が飛び出してくる。

 空からは複数の黒龍が放った光弾が雨のように降り注いでいき、住民の肉片を撒き散らしていった。

 地上に降りたった黒龍は石造りの教会に突進して、壁に穴を開けると、穴から巨大な口を突っ込んで、中で寄り添いあっていた子供たちを喰らい尽くしていった。

 業務用の一角獣に乗り込んだ操獣士たちが、ドラゴンに向かって後ろから突進するも、しっぽのひと振りだけで全身の骨をぐちゃぐちゃに砕かれて殺害された。

 黒龍がこの街を襲撃してから5分足らずで、あたりは瓦礫と肉片だらけになっていた。

 黒龍たちは獲物のいなくなった街から興味を失い、燃え盛る建物を尻目に次の獲物を目指して飛び立っていた。



 撃墜……撃墜……撃墜……

 爆散していく黒い巨大な鳥たちの肉片の近くを、海斗が操る銀龍が通り過ぎていった。

 背後をとろうした黒い鳥を宙返りでやり過ごし、逆に背後を取って、光弾を放った。

 空を闇に染めていた巨大な黒鳥たちは、為すすべもなく肉片と化していった。

 谷間に逃げ出した黒鳥たちを、銀龍は容赦なく追跡する。

 翼を巧みに曲げ伸ばしして、複雑に隆起した岩石の間を、最小限の動きですり抜けていく。

 追跡の途中で、岩石に激突した黒鳥たちが何羽か勝手に死んでいった。

 残った黒鳥たちも谷間をジグザグに飛び回って逃げるも、一瞬でも障害物から姿を現せば、銀龍の青白い光弾を受けて肉塊に変わっていった。

 信号弾が空に上がり、演習終了の合図が出ると、銀龍は黒鳥たちの追跡をやめて、引き返していった。

 近くを飛んでいたほかのドラゴンたちも軌道を変えて、下降していく。

 海斗たちが養成学校に入学してから三ヶ月、害獣たちによる襲撃の頻度が以前にもまして増加してきており、慢性的に人手不足に陥っている。

 そのため訓練生である海斗たちも、演習をかねて、比較的弱い害獣を駆除するために実戦に駆り出されることもあった。

 今日の演習では、海斗たちの他に上級生を含めた成績優秀者だけで、谷に住み着いた黒鳥の群れを駆除することになっていた。

 谷間を抜けて、地面すれすれに飛んでいると、背後から唸り声のようなものが聞こえた。

 銀色に輝く長い首をめぐらせて、後方を確認すると、遙か向こう側で白龍が一体、黒鳥の群れに取り囲まれながら、弱々しく飛行していた。

 そのすぐ近くを飛行するやや小柄な白龍は、一瞬取り囲まれてるドラゴンに近づこうとしたが、空中でまごついたあと何故か距離をとってしまった。

 あの小柄なドラゴンには確か怜香が乗っていたはずだ。

 彼女の技量なら、別のドラゴンに意識を取られている黒鳥たちをなぎ払うぐらいわけもなくできるはずなのに、一向に助けに行く様子がない。

 放置しておくわけにも行かないので、代わりに海斗が助けに入ることにした。

 この状況で光弾を放てば、黒鳥ごとドラゴンを巻き込む恐れがあるので、宙返りして海斗は引き返そうとしたが、彼が助けに入る前に、別のドラゴンが黒鳥を追い払った。

 あれは確か神宮寺教官が乗っているドラゴンだ。

 黒鳥たちに痛めつけられていたドラゴンは、不時着し、教官の乗っているドラゴンに抱きかかえられたまま帰路に着いた。

 校庭に着くと、海斗たちはドラゴンから降りた。

 神宮寺のドラゴンに抱えられていたドラゴンから、上級生が体を震わせながら出てきた。

 その様子を黒いつなぎを着た怜香が冷たい目で見ている。

「氷室さん、今日の演習どうだった?」

 海斗が声をかけると、怜香は引きつった笑みを浮かべた。

「うーん、ぼちぼちだったかな。海斗はどうだった?」

「50は撃墜したかな?」

「そっか。流石だね」

 怜香は明るい声で言ったがその顔はどこか上の空だった。


 海斗たちが演習に参加してる間、通常授業を受けていた生徒に更衣室で今日の武勇伝を聞かれた。

 既に教官から、今日の海斗の活躍について聞かされているらしく、海斗がほとんど喋らなくても、周りは勝手に盛り上がっていた。

 自分の活躍を大げさに語られるのは気恥しかったが、ヒーロー扱いされるのも悪くないと思う。

 つなぎから制服に着替えて、更衣室から出ると、廊下で神宮寺にあった。

「今日の演習、お前がダントツだったな」

「ありがとうございます。みんなにも褒められました。蒼炎の銀龍なんていう通り名までつけられちゃって……」

 海斗は満面の笑みを浮かべると照れくさそうに頭を掻いた。

 一見無骨に見える神宮寺だが、自分を気遣ってくれていることが伝わって来るので、海斗は彼にはある程度心を開くようにしていた。 

「初めて会ったときより、いくらか明るくなったな」

「ええ、おかげさまです」

「嬉しそうだな」

「僕、運動神経が悪くて、あんなふうに男友達にヒーロー扱いされたの初めてなんです」

「なるほど……な。私がこんなことを言うのも変かもしれないが、あまり喜びすぎるなよ」

「え……どうしてですか?」

 海斗はきょとんとして小首をかしげた。

 神宮寺は窓の方に体を向け、ぼんやりと外を眺めた。

「ヒーローの取り巻きなんて、気まぐれなもんだ。その場の空気に流されて、持ち上げるだけ持ち上げても、誰かがそのヒーローの悪口を言えば、あっさり手の平を返す。いつ裏切られるかわかったものじゃない」

 神宮寺は海斗の方に向き直ると穏やかに微笑んだ。 

「変なことを言ったな。忘れてくれ」 

 片手を上げて、神宮寺は立ち去っていった。


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