墓場
パジャマを脱いで、ボタンダウンの白いシャツと茶色のズボンに着替え、海斗は寮の部屋を出た。
寮を出た海斗は、神宮寺と鉢合わせた。
「おはようございます。神宮寺さ……教官」
「おはよう。こんな朝早くにどうしたんだ?」
「知人のお墓参りです。明日から訓練が始まって外出に制限がかかりますから」
「そうか。この辺りは比較的安全だが、最近襲撃も増えている。気をつけていけよ」
「はい」
海斗は軽く頭を下げてから、再び歩き出した。
墓場に着いた海斗は、怜奈たちが眠る墓の前で腰を下ろした。
持ってきた花を供えて、高さ一センチほどの円柱状の物体を見つめた。
「水沢くん……だったっけ?」
不意に後ろから声をかけられて、海斗は飛び上がりそうなほど驚きながら、円柱状の物体をポケットにしまった。
振り返った先にいたのは、怜香だった。
丈が腿の途中まである短パンとTシャツを着ている。
短パンから伸びたスラリとした形のいい足は白く色艶がよく、引き締まった腹とは対照的に、とても豊かに実った両胸はTシャツの下からでも存在感を主張している。
姉の怜奈同様、スタイルが抜群によく、服装に派手さはないがそれでも十分すぎるほど扇情的だった。
海斗は立ち上がって、彼女に頭を下げた。
「氷室さんもお墓参りに来たの?」
「うん。そこにね、お母さんとお姉ちゃんが眠ってるんだ」
そういった怜香の視線は明らかに怜奈の墓に向けられていた。
「氷室さんは、怜奈の妹なの?」
「そうだよ。と言っても、お姉ちゃんとはほとんど会ったことがないけど。お姉ちゃんが亡くなったのを知ったのも、葬式の後だったし」
彼女は墓石のほうを向いたまま遠い目をした。
一度言葉を切ってから、海斗に顔を向ける。
「水沢くんは、お姉ちゃんの友達?」
「うん」
「水沢くんって海斗って言うんだよね? もしかして、カイ君?」
彼女に尋ねられた瞬間、ドキッとした。
怜香は怜奈にどこまで聞かされてるのだろう。
「違うよ」
海斗は小さな声で嘘をついた。
言ってから、嘘のつき方が下手だったと思う。
怜香はなにか言いたそうに口を小さく開いたが「そっか」と小さな声で言っただけで、それ以上何も聞いてこなかった。
彼女は海斗の嘘に気がついているかもしれない。
しかし、海斗は彼女に怜奈とのことを話す勇気がなかった。
「僕、もう帰るね」
海斗は静かにそう言うと、逃げるようにしてその場を去った。