学校
テーブル越しに大柄な男-神宮寺というらしい-と向き合い、海斗はゆっくりと言葉を紡いだ。
「……それで、ドラゴンがやってきて……その襲撃で義理の親を亡くしたんです」
「……すまなかったな」
神宮寺はボソリと独り言のように言った。
「え?」と聞き返すと、神宮寺は一瞬海斗から目をそらし「いや……私たちがちゃんと戦っていれば、民間人にまで被害は出なかっただろうからな……気にしないでくれ」と戸惑った様子で言った。
不審に思いながらも、海斗は話を続けた。
「生きていても、他に行くあてもありませんし、僕が死んでも、もう悲しむ人はいません。だけど、自殺を決意したのは、ほかにも理由があるんです」
「というと?」
「ごめんなさい……やっぱり、話したくないです。ただ、ひとつ言えるのは、僕には生きる資格が無いということです。自分が嫌いで、今すぐにでも殺してやりたいんです。でも、いざとなると怖くなって……首吊りで意識が飛んだこともあるんです。それまでに何度も何度も失敗したのに、途中で意識が戻ってしまって、自殺しようとしたことも忘れて、縄をほどいてしまいました。もうどうすればいいのか、分からなくて」
「さっき行くあてがないといったな? 君は確か15歳だろう? うちの養成学校に入学しないか?」
「え?」
「うちは衣食住を完備してるからな。生活には困らないし、操獣士の資格も取れる……いや、君はすでに操獣士だったな……だが、何より、卒業後は死と隣り合わせになれる」
「どういう意味ですか?」
「君は今、生きている心地がしないんだろう? 人は死にそうになることで、ときに素晴らしい活力を得ることができる。自殺志願者だった少年が、一度死にかけただけで、明るくなった例を私は知っているよ。それに……ただ意味もなく死ぬのはもったいないだろう? 今日の戦闘でも私の教え子が一人亡くなった。彼は生きることに夢中だったよ。だからこそ君には無駄に命を投げ捨てるようなことはして欲しくないんだ。押し付けがましいかもしれないがな……入学検査はもう間近だ。少しでも気になるなら、考えておいてくれ」
その後、海斗は神宮寺に学校の資料を渡された。
家をなくしてから、宿を渡り歩いていたせいで資金が底をつきかけていた海斗は、神宮寺のつてで学校の施設に泊めてもらえることになった。
布団の中で、海斗は神宮寺に言われたことを思い出した。
「ただ死ぬのはもったいない……か」
自分には自殺する勇気はもうない。
少なくともしばらくは無理だ。
戦場に出れば、いつか死ねるかも死ねない。
海斗は大きくため息をついて、ランプの灯りを消した。