人間
ドラゴンに乗り込んだ海斗たちが、現場に駆けつけた時には、あたりは火の海になっていた。
本来なら、今日、海斗たちが飛行訓練をするはずだった場所だ。
島の外から上陸してきた黒龍たちの数があまりに多いため、海斗たち訓練生まで駆り出されて、黒龍たちの対処にあたったが、時すでに遅く、上陸した黒龍たちのほとんどを逃してしまった。
逃げた黒龍たちはそのまま島のどこかに住み着いて、繁殖を始めるだろう。
これ以上、島に黒龍たちが住み着いてしまったら、人類に及ぶ被害は甚大なものとなる。
多少、無理をしてでも、上陸したばかり黒龍たちの体力が落ちてるうちに、掃討作戦が決行されることは海斗たち訓練生にとっても明らかだった。
建物の消火活動はひとまず終了しても、あたりは白龍と黒龍の死骸だらけだった。
白龍の死骸の中にいた操獣士たちも、無残な姿に変わり果てている。
「あたしたちは、命拾いしたって、喜ぶべき……なのかな?」
白龍からおりた怜香が、海斗の隣で表情を曇らせた。
「黒龍たちが上陸してきたときに、ここに居合わせたら僕たちも無事ではすまなかっただろうからね」
自分たちが現場に居合わせなかった理由はただ一つ。
神宮寺が学校側に無理を言って急に授業の予定を変更してしまったためだ。
でなければ、飛行訓練中に数百の黒龍たちと戦う羽目になっただろう。
「伏せろ」
突然、背後から叫び声が聞こえ、一瞬遅れて、突風が海斗たちを襲った。
飛ばされそうになって、慌てて近くの白龍にしがみつく。
風にあおられながら、海斗が目にしたのは、自分の頭上を通り過ぎていく黒龍だった。
なぜか金属光沢のようなものを放っている。
「あの黒龍光ってる? まさか……奴を逃がすな。撃墜しろ」
指揮官の男がそう叫ぶと、海斗たちは近くにいた白龍に乗り込んだ。
操獣士が乗り込んだままだった白龍たちが、一足先に飛び立ち、海上に逃げようとする黒龍の後を追いながら、光の玉を放った。
黒龍は後ろに目がついているのかように、宙返りして光の玉をやり過ごし、背後を取って白龍を撃墜した。
「速すぎる……旋回能力も異常だ」
誰かが絶望に満ちた声でそういうのを耳にしながら、海斗の乗り込んだドラゴンは飛び立った。
銀色の矢となって、前方を飛んでいたドラゴンたちを凄まじいスピードで追い抜いていく。
金属光沢のような輝きを放つ黒龍は逃げようとしていたが、海斗の銀龍を振り切れないと判断したらしく、急に連続して直角に曲がり、海斗のサイドを取ろうとした。
黒龍が光弾を放とうとしたが、海斗は旋回しながら急下降して、体を仰向けにし、自分の上を飛ぶ黒龍めがけて、光弾を放った。
黒龍は異常な速度で飛んでいたので、慣性で体を制御しきれないかと海斗は思っていたが、翼や尻尾を器用に動かして、重心を変え、紙一重のところで黒龍は光弾をかわした。
無理な体勢で光弾を放ったため、海斗が操る銀龍の体勢が崩れかけるも、首をひねって光弾を背中側に発し、その反動で体勢を整えた。
体勢を整えたばかりの海斗に追い打ちをかけようとして、黒龍が追跡してくる。
海斗は銀龍の体を回転させながら、複雑な軌道で飛び回り、黒龍の追跡を振り切ろうとしたが、それでもしつこくついてきた。
海斗は慣性を無視したような動きで銀龍を反転させると光弾を連続して放ちながら、向かってくる黒龍に正面から突っ込んでいった。
黒龍も光弾を放ち、二体のドラゴンで光弾同士がぶつかり爆発が起きた。
それでも二体のドラゴンは光弾を放ったまま接近していく。
ほとんど爆発に巻き込まれそうになりながら、海斗はとっさに上昇して、銀龍の体を前方宙返りさせた。
自分の真下を通過しようとした黒龍に長い尻尾を叩きつける。
あまりの衝撃で、黒龍は海面すれすれまで高度を下げた。
下降して海斗は追い討ちをかけようとしたが、進路を帰るときにスピードを出しすぎてしまったためか、大きめにカーブしてしまい、背後を取り返される。
海面に銀龍の後ろ足をこすらせながら飛んでいた海斗は急に海中に潜って、水しぶきを上げた。
水しぶきで視界が悪くなったであろう黒龍めがけ、仲間が操る白龍たちが一斉に光弾を放った。
水しぶきと、海面に光弾が直撃したことにより発生した水蒸気が晴れて視界が戻ると、左の翼を大きく損傷した黒龍がフラフラと飛んでいるのが見えた。
弱った黒龍に向かって、白龍たちが一斉に群がり、鋭い爪と牙で、黒龍の肉を抉っていった。
白龍たちは、ぼろぼろになった黒龍の体をくわえて、陸地まで連れて行った。
「解体してくれ。中身に充分気をつけてな」
指揮官の男がそう言うと、白龍たちは頷き、鋭い爪を黒龍の体に突き立てていった。
背中がパックリ裂けると、中で小さくなって震えている初老の男が見つかった。
「殺せ。お前らみたいな悪魔につかまるぐらいなら、死んだほうがましだ」
ドラゴンにくわえられ引きずり出された初老の男は震えながらもそう叫んだ。
白龍から降りてきた男たちが、初老の男の叫び声を無視して、手早く拘束した。
初老の男が馬車の荷台に押し込まれて連れて行かれるのを、海斗は銀龍の目を通して見守った。
今回の襲撃はあの男が先導したものなのだろうか。
この襲撃で仲間を失った海斗の上官たちは怒りに染まった瞳を初老の男に向けていたが、海斗はその怒りを自分に向けられているような気がして、いたたまれない気持ちになった。
村で行われていた子供に対してクレドスを用いた無理な操獣士養成計画。
あと何年かあの計画で死人が出るのが遅れていたら、海斗が初老の男と同じ立場になっていたのかもしれないのだ。
テロリストとしては実戦配備される前で訓練しかしてこなかったとは言え、実際に理不尽に人間が殺されていくのを見て海斗はやりきれない罪悪感を覚えていた。
自分の親や慕っていた大人たちが、こんなふうに何人殺したのか想像もつかない。
自分が大人たちのやっていることに疑問を持つことができれば、飛行訓練中に脱走するなり、夜中に逃げ出すなりして、軍や保安庁に相談できたはずだ。
そうしなかったのは、大人たちから見捨てられ嫌われるのが怖かったから、自分の頭で何も考えようとせず、現実から目を背けていたせいかもしれない。
直接、手にかけた人間がいないとは言え、自分が全く罪を背負っていないとは言えないのだ。
テロ活動だけじゃない。
怜奈のこともそうだ。
自分は逃げることで、いつも屍を築いてきた。
逃げ続けるのは終わりにしないといけないのかもしれない。




