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銀龍の操獣士  作者: 裕裕
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予兆

 机に広げた地図帳をペンで指し示しながら、海斗は隣に座る怜香に説明した。

「……今のが、登竜門事件。この襲撃の後、ここに住み着いたドラゴン達の卵が孵って、南川県の山岳地帯が一気に占領されたんだ。もともとこの辺りには重要な施設がほとんどなかったから、そのまま、ろくに奪還作戦も決行されず放置されてる。山中県の北市にやって来るドラゴンたちの8割はここからやってきたものとされて問題になってるね。今まで説明した15箇所が現在害獣に占領されてる主な地域だよ。これらの地域のほとんどが過去2年以内に占領された場所だっていうのは、さっき説明したよね? そして、その中でもこの北都は……」

「ちょっと待って。そんなに一気に覚えれないよ」

「でも、あんまりゆっくりやってたら、小テストまで間に合わないと思うよ?」

「だって、今日は飛行訓練の予定だったのに、神宮寺教官が急に授業の予定変えちゃうんだもん……おかげで、座学のテスト範囲増えちゃったじゃない。大体、なんで最近になって、こんなに大事件ばかり起きるのかな? ドラゴンたちもこんなちょこちょこ襲撃しないで、やるなら一気にやればいいのに……」

 怜香はさらりとおっかないことを言いいながら、頭の後ろで手を組んで背もたれにもたれかかって、ホットパンツから伸びた長い足を組んだ。

 ちょうど膝のあたりにふくらはぎの筋肉が押し付けられ横に広がっているさまが色っぽい。

 怜香は天井を向いたまま、視線だけを海斗に向けた。

「海斗は頭いいからいいよね? あたしなんて、運動神経ぐらいしか取り柄ないもん」

「僕だって、運動神経いいのは羨ましいよ。運動できないせいで、同世代の男友達に結構バカにされてきたし」

 海斗は怜香に視線さえ向けずに、教科書をパラパラとめくった。

「運動神経の良し悪しなんて、どうでもいいじゃない? 飛龍操獣科じゃ、そんなのほとんど関係ないんだから」

「怜香は女の子だからわからないだろうけれど、結構コンプレックスなんだよ……無駄話してないで、早く続きやるよ?」

「はいはい……分かりましたよ」

 怜香は組んでいた手足を下ろして、再びペンを握った。

 その時、ベルの音が鳴り響いた。

「なにこれ? 今から、訓練でもするの?」

 怜香が辺りを見回しながら、心底めんどくさそうに言った。

「とにかく、早く行こ。この間、無断外泊がバレて評価さがってるんだし」

「早く帰ろって言ったのに、海斗が抱きついたまま離れないからでしょ?」

 文句を言いながら怜香は勉強道具を片付けていった。

 体育館に移動すると、整列させられた。

 並べられた者のうち、海斗や怜香を含めた何人かが名前を呼ばれ、あとのものは解散させられた。

 いずれも飛行訓練での成績優秀者ばかりだ。

 この前の黒鳥狩りの演習の時のメンバーに数人が加わってる。

 怜香が上級生たちの一人に冷たい視線を向けると、怜香と目を合わせた少女が顔を青くしてそっぽを向いた。

 海斗は複雑な気持ちで隣に立っている怜香を見た。

 あの夜、海斗が怜香を激しく求めたあと、布団の上でぐったりとしている海斗に、怜香が話しかけてきた。

「あたしね。犯人見つけたよ」 

 急激な睡魔に襲われていた海斗の意識が一瞬ではっきりとした。 

「お姉ちゃんが亡くなったあと、犯人のうち何人かは見つかったけど、全員じゃなかった。だから、養成学校に入って、犯人を探しに来たんだ」

「そう……」

 なんと言っていいか分からず、海斗はか細い声でそう言った。

「それで、お姉ちゃんをいじめてた人たち……あたしと目が会うと、一瞬、すごい怯えた顔するんだよ……まるで、お姉ちゃんの幽霊が復讐しに来たと思ってるみたいに……でも、同じ立場だったら、あたしも驚いちゃうかもね。お姉ちゃん自殺する前に、教室の黒板に血文字を遺したみたいだし……そうやって、少しでも反応した人を調べてとうとう全員見つけたんだ。鞄の中にネズミの死体入れたぐらいであんなにびびっちゃってバカみたい。お姉ちゃんには、あんなにひどいことしたのにね……あの馬鹿女ったらそれでパニックになって階段から転げ落ちて、半身不随なんてホント冗談みたいだよね? それで、もっとおもしろいのがさ、飛行訓練の間、あたしが近くを飛んでただけで、勝手に驚いて、墜落したブスもいたんだ。お姉ちゃん、あたしに似てすごく美人だからきっと嫉妬していじめちゃったんだろうけど。墜落しそうになったときに、下手に空中で脱出しようとしてさ。案の定、失敗して、かろうじて人間に見えてた顔が完全に化物になっちゃった。それでね、ここからがもっと面白くて……あたし、あのブスの病室に行ったんだけど……」

 怜香は時折乾いた笑い声を上げながら、妙に明るい声でしゃべっていたが、次第に涙声になっていった。

「なんで、こんなことになっちゃったんだろ?」

 そういった怜香の気持ちは痛いほどよくわかった。

 別の誰かを呪うことで、彼女は姉を救えなかったことに対する罪悪感から目を背けてきたのだろう。

 海斗は穏やかな表情を浮かべて怜香を抱き寄せた。

「大丈夫だよ。怜香が一緒にいてくれるなら……僕なんだってするから。僕も怜香に依存するから、怜香も僕に依存して。約束だよ?」

 そう言うと、海斗は怜香と指切りをした。

 自分は卑怯者だ。

 怜香が自分に依存したら、怜香はもう自分から離れられなくなる。

 そうすれば自分の居場所が無くならずに済むのだ。

 


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