依存
布団に横になった海斗はぼんやりと宿の天井を見つめながら、昔のことを思い出した。
子供の頃、海斗にとって大人の言うことが絶対的な真理だった。
だから、この島に害獣を呼び寄せて、人間を大量虐殺することも正しいことだと思っていた。
海斗の実の両親はテロリストだった。
なぜ、彼らがテロリストになったのかまでは知らないが、彼らは海斗に愛情を注ぐとともに、海斗を殺戮兵器に仕立て上げていった。
純粋に家族サービスとして休日にハイキングに行くこともあれば、いかに効率よくテロ活動をするかを考えるために、島の重要施設の見学に連れて行かれることもあった。
海斗は彼らの思想に疑問も持たず、幼くしてクレドスを体内に宿し、操獣士として訓練を受けた。
吸収能力の高い子供のうちにクレドスをその身に宿すにことで、特に才能に恵まれていないものでも操獣士としてドラゴンの力を限界まで引き出すことができるようになるが、あまり幼いうちにクレドスを体内に宿すことは適性があっても拒絶反応を起こすことがあり最悪の場合死に至る可能性があるため、法律で禁止されていた。
しかし、テロリストだった海斗の両親にとって、法律などと言うものは破るために存在するものであり、村ぐるみで法律を破っていたため、海斗にとってもそれが普通のことだった。
村の近くのほこらに違法に隠し持っていた白龍を使って、両親は熱心に海斗を教育し、その努力のかいあって、海斗は銀龍の力に目覚めた。
大人のエースパイロットでも銀龍の力を持つ者はほとんどいないため、海斗はテロリストの切り札として、将来を期待された。
海斗が銀龍の力に目覚めた一年後、幼馴染の怜奈もまた銀龍の力に目覚めた。
子供のうちに教育することの大切さを実感し、村の大人たちは子供たちをテロリストに仕立て上げるための教育にますます力を入れるようになった。
そして、数年の月日が流れ、ついに死者がでた。
クレドスを体内に宿した子供の一人が拒絶反応を起こしたのである。
村ぐるみで死人が出た事実を隠していたが、子供を死なせてしまった親が発狂して、ドラゴンに乗り込んで村を焼いた。
事件当時、たまたま、ほこらの近くにいた海斗は、ほこらに隠されているドラゴンに乗り込もうかと考えたが、抵抗を試みた村人たちの悲鳴を聞いて、戦意を喪失し、両親や友人を見捨てて逃げ出してしまった。
それまで、訓練で飛びまわることがあっても、実際に命のやり取りをしたことがなかったし、ただ大人たちの言うことを盲目的に信じていただけの彼には、そもそも戦う覚悟と使命感もなかった。
ほこらの近くで小さくなって震えていると、代わりに怜奈がドラゴンに乗り込んだらしく、銀色に輝くドラゴンが空に飛び上がり、村で殺戮を続けるドラゴンをあっという間に沈めてしまった。
その後、廃墟と化した村に騒ぎを聞きつけた軍がやってきた。
軍は村の大人たちを逮捕し、隠し持っていたドラゴンやその他危険物を押収した。
子供の怜奈も銀龍から出てくるところを見られ、軍部に連れて行かれることになった。
軍はこの村の周辺で、銀龍らしきものが出現するのを観測しており、ずっと前から目をつけていたらしい。
そして、銀龍の力の持ち主が更正の余地ある子供だと知った途端、自分たちの手駒にするため、彼女に取引をもちかけた。
普通なら年齢による免責規定のため裁かれないはずの子供たちを、国家安全法の名のもとに死刑にすると脅し、怜奈が養成学校に入学すれば、子供たちの罪の一切を免除すると言ったのである。
怜奈は養成学校に入学することを承諾し、軍部もそれで満足した。
軍部が海斗の力を知っていれば、海斗にも取引を持ちかけていただろうが、まさか銀龍の力の持ち主が二人もいるとは想像もしていなかったようだ。
「これね、ライトって言うんだよ。太陽の光をこっち側で吸収して、ここを押せば反対側がこんなふうに光るんだよ」
養成学校に連れて行かれる前日、怜奈は海斗に高さ一センチほどの円柱状の物体を見せた。
「お母さんが、島の外に出た時に見つけてきたんだって。これ、カイ君にあげる」
「でも、これは形見みたいなものじゃないの?」
「あたしが持ってても没収されるかもしれないから……カイ君に持ってて欲しいんだ」
「そう、大事にするね」
海斗はうつむいてライトを握り締めた
「そんな暗い顔しないでよ? 死ぬわけじゃないんだから。むしろ将来のエースとして厚遇されるぐらいだよ」
「軍部が目をつけていた銀龍だってきっと僕のことだよ……軍が銀龍を観測した日は、君は地上で訓練してたから……なのに怜奈だけが連れてかれるなんて……」
「気にしないで。あの時、あたしがたまたまほこらの近くにいたから、あたしが戦ったけど……カイ君だって、あたしと同じ立場だったら戦ってこうなってたかもしれないでしょ?」
一点の疑いもない純粋そうな怜奈の視線が、海斗の胸を貫いた。
違うよ……違う……僕は君より先に来てたのに、逃げたんだ。
心の中で否定するも、海斗はそれを口に出すことができなかった。
そうして、海斗が本当のことを言えないまま、怜奈は連れて行かれた。
今、思えばそれが悲劇の始まりだったのかもしれない……
海斗は布団をかぶって、すすり泣いた。
「泣いてるの?」
隣の布団で浴衣姿の怜香が体を起こした。
「泣いてないよ」
「嘘つき」
怜香に布団を捲り上げられ、後ろから彼女に頭を撫でられた。
「全く繊細なんだから」
「怜奈と同じ声で……僕に優しくしないで」
「なにそれ?」
不服そうに彼女はそう言うと、海斗の顔をつかんで振り向かせた。
「あたしは怜香だよ?」
そう言った彼女の表情はいつもより優しかった。
海斗は小さな顔を怜香の肩に押し当てた。
もう限界だった。
自分に殺意を抱いたまま、一人で何もかも抱え込んでいるのは……
怜香に優しくされると、罪悪感を感じるとともに、怜奈に自分の罪を許してもらっているような感じがした。
海斗はいきなり体を起こすと、怜香の両手首をつかんだ。
「どうしたの? 海斗。ちょっと……怖いよ?」
「手つないでよ」
海斗は普段より低い声でそう言うと、怜香の指に強引に自分の指を絡ませた。
彼女の上でぐったりとして、涙で彼女の髪を濡らした。
怜香は海斗が泣き止むまでじっとしていてくれた。




