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銀龍の操獣士  作者: 裕裕
10/20

投身

 怜奈の眠る墓石が月明かりに照らされていた。

 海斗は膝をつくと、手をついて頭を下げた。

「ごめんなさい。ごめんなさい」

 涙を流しながら、ひたすら謝罪の言葉を口にする。

「怜香さんまで騙すつもりはないから……本当のことは言えないけど……ごめんなさい」

「あ、無断外出。それに門限過ぎちゃったよ」

 後ろから怜香の声がした。

 海斗は目元を拭って、慌てて立ち上がると、彼女の方に振り向いた。

 ホットパンツとタンクトップを着ており、昼間に比べて涼しいためか、薄手のパーカーを羽織っている。

「氷室さん」

「ごめんね。海斗……寮からふらふら出て行くところが部屋の窓から見えて、勝手につけてきたんだ」

「そう……僕、もう帰るね」

 海斗はいつかと同じセリフを言って立ち去ろうとしたが、怜香に手首をつかまれた。

「ちょっと話さない……かな?」

 二人は川の上にかけられている橋に移動した。

 かなり大きな橋で昼間は、操獣士が操る様々な動物が行き来しているのだが、この時間にはほとんど人気がない。

 怜香は手すりによりかかるようにして、数メートル下を流れる川を見下ろしていた。

 さらさらとした髪と、パーカーを風になびかせながら、彼女は前を向いたまま口を開いた。

 「初めての飛行訓練で、墜落しそうになったあたしを助けてくれたあと、海斗さ、寝言で誰かに謝っていたよね?」

「うん」 

 海斗は前を向いたまま、頷いた。

「怜奈には、本当に申し訳ないことをしてしまったから」

「お姉ちゃんと……何かあったの?」

 怜香の口調には抑揚がほとんどなかった。

 必死に感情を抑え込んでいるようだ。

 海斗は口を開きかけて、ためらった。

 怜香の潤んだ瞳を見ると、本当のことを話すのが怖くなったのだ。

 しかし、何も言わなければ彼女を騙してるようで、罪悪感で押しつぶされそうだった。

 海斗は乾いた唇を開くと、震える声で喋り始めた。

「怜奈を死なせたのは……僕だよ」

 彼がそう告げると、怜香は一瞬目を見開いてから、目を細めた。

「どういう意味?」

「僕はずっと怜奈を騙してたんだ。僕なんかがいなければ、怜奈が養成学校に入ることもなかったんだ」

「……何があったか知らないけれど、海斗の勘違いなんじゃないかな?」

 しばらく間を置いたあと、そう言った怜香の声は上ずっていた。

 海斗にわけのわからないことを言われて動揺しているのだろうが、それでも、海斗を気遣っているのが伝わってくるせいで、海斗の心が痛んだ。

 泣きそうになっているのに気づかれたくなかったので、怜香から顔を背ける。

「勘違いしてたのはきっと怜奈の方だよ」

 海斗は自嘲気味に笑うと、投げ遣りに言って立ち去ろうとした。

「ねぇ、何があったかあたしに話してくれないかな?」 

「ごめん、できない。卑怯だってわかってるけど」

「逃げないでよ」

 それまで、穏やかに話していた怜香が声を荒らげた。

 肩をつかんで無理やり振り向かせ海斗の胸ぐらをつかんだ。

 いつもは優しそうな大きな目には、殺気とも呼べるほどの冷たい光が宿っていた。

「あたしだって、お姉ちゃんがあんなことになって、罪悪感を感じてるし、自分自身を恨んでる……あたしじゃなくて、お姉ちゃんがお父さんに引き取られてたら、あたしたちの立場が全部入れ替わってたんだから。だけど、あたしはそれ以上にお姉ちゃんをあんな目に合わせたやつが……お姉ちゃんを自殺に追い込んだやつが許せない。そいつらに同じ目にあわせてやりたいと半分以上本気で思ってる」

 同じ目にあわせてやりたい。

 その言葉が、海斗の心に響き渡った。

 全身の力が抜けていくようなそんな感じがした。

 まるで、この世に蘇った怜奈にそう言われているような気がした。、

「わかった。僕が死ねばいいんだね?」

 沈んだ声でそう言うと、海斗は怜香の手をふりほどくと手すりをまたいで川に飛び降りた。 

 怜香の悲鳴を耳にしながら、海斗は水しぶきをあげて川に沈んでいった。

 死の恐怖を感じ、海斗は本能的に手足をばたつかせたが、衣類が水を吸っているせいで思い通りに手足を動かせないし、そもそも彼には泳力がない。

 水面から顔を出していられなくなり、水が肺に入って、水中でむせた。

 自分の死を確信したそのとき、近くで水しぶきが上がった。

 水中で誰かに後ろ襟をつかまれ、強引に引き上げられる。

 水面に引き上げられた海斗は咳き込みながら、川岸まで後ろ向きに引っ張られていった。

 川辺で仰向けになってむせている海斗のとなりで、びしょ濡れになった怜香が四つん這いで息を切らしていた。

「いきなり飛び込むことないでしょ? びっくりしたじゃない?」

「ごめんなさい」

 怜香はため息をついた。

「……あたしだって言いすぎたよ。でも、さっき言ったことは少なくとも海斗に向けていったわけじゃないから……海斗みたいな繊細なのがお姉ちゃんを自殺に追い込んだなんて、あたしには思えないしね」

「でも、僕は……」

「話せないなら、話さなくていいよ。中途半端なこと言われると気になるだけだし……今日はもう帰ろ。このままこの格好でいたら風邪ひいちゃう」

 二人は寮に引き返したが、門限を過ぎていたため、寮の門は閉ざされていた。

 普段なら柵をよじ登って鍵が開けっ放しのトイレの窓から侵入することができたが、今日に限って、トイレの窓は閉じられていた。

「女子寮はどうだった?」

 女子寮の様子を見に行っていた怜香が戻ってくると、海斗は尋ねた。

「ダメだった。なんで、こんな日に限って窓閉め切ってるのかな」

「そう……教官に頼んでみる?」

「怒鳴られたうえ、罰として一晩放置されるのがオチだと思うよ。あたしの友達がそうだったから。あーあ、こんなことなら素っ裸になってから飛び込めばよかった」

「ごめんね、僕のせいで」

「もう、そうやっていつも自分を責めるのはよくないよ。お金ちょっとは持ってきたし、今日はどこかの宿に泊まろ? 明日は休みだから、適当に時間を見つけて戻れば、多分無断外出もバレないし。抜き打ちで点呼があったら、終わりだけど……」


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