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銀龍の操獣士  作者: 裕裕
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銀翼

 大昔、人は人間同士の争いに動物を使っていたという。

 馬で戦場を駆け抜け、象で敵を踏み潰し、鳥で情報を伝達していたそうだ。

 やがて、文明が発達すると、それらは機械にとって変わられ、戦場を駆け回る生物はほとんど人間だけになった。

 しかし、再び人間以外の生物が戦場で活躍する時代がやってきた……

 

 空では死闘が繰り広げられていた。

 白いドラゴンたちと黒いドラゴンたちが口から光の玉を放ちながら、目まぐるしく宙を舞っている。

 黒龍が放った光の玉が、一体の白龍の翼をかすめた。

 翼がかけた白龍は弱々しく、下降していく。

 それに追い打ちをかけようとして、黒龍が再び光の玉を発し、それが直撃した白龍の土手っ腹に風穴があいた。

 その直後、光の玉を放ったばかりの黒龍も爆散した。

 別の白龍たちに集中砲火を受けたのだ。

 それぞれが思い思いに行動する黒龍たちと異なり、白龍たちは連携して攻撃を仕掛けていった。

 何より数もこちらのほうが大きい。

 瞬く間に黒龍たちは撃ち落とされていき、地面には黒龍の肉片が残った。

 空に残った白龍たちが勝利の咆哮を上げる。

 撤退の合図だろうか。

 空の彼方に飛び去っていくドラゴンたちを、海斗はただ一人でぼんやりと見送った。

 あたりには、ほかに人影はない。

 戦闘が始まってからみんな逃げ出してしまったのだ。

 今回の襲撃では、比較的被害は小規模ですんだようだが、害獣たちの襲撃で民間人が命を落とすことも珍しくない。

 逃げ出さないのは、軍人か海斗のような自殺志願者だけだろう。

 海斗は虚ろな目で空を見たまま、とぼとぼと歩いて、崖に近づいた。

 崖から数十メートル下を見下ろす。

 ここから飛び降りれば、まず助からないだろう。

 だが、それでいい。

 自分はこれ以上生きていくことに疲れた。

 目を閉じて、深呼吸をする。

 左手をポケットに突っ込み中に入っているものを握り締めると、幼馴染の怜奈が書き残した日記の内容が思い出された。

『あれから三日経つのに、まだ痛い。色も変なまま……病院に行ったほうがいいかな? カイ君には嘘ついちゃったけれど、カイ君にバレたらきっと喧嘩になっちゃうし、仕方ないよね……ごめんね、カイ君』

 自分は罪の意識を感じているのだろうか。

 だが、今更、自分に罪悪感を持つ資格はない。

 自分は真実を知っていて逃げたのだから。

 罪悪感を持って、罪滅ぼしした気になるのはただの卑怯者だ。

 海斗は目を閉じたまま震える足を動かして、少しずつ前に出た。

 このまま前に出続ければ、いずれ崖から真っ逆さまだ。

 しかし、あと何歩で死ぬかわからない分、目を開けたまま飛び降りるより、ずっと気楽だった。

 自分は最後の最後まで、逃げ続けるつもりらしい。

 15年の人生を振り返っても、自分はずっと逃げていた。

 逃げるのはこれで最後にしよう。

 これで全てが終わる。

 そう思った瞬間、海斗は足を踏み外した。

 崖から落下していく。

 それまで、押し殺していた恐怖心が一気に押し寄せ、海斗は泣き叫んだ。

 地面を見る海斗の視界に白い影がうつる。

 次の瞬間、下方から突風を受け、落下速度が急激に落ちていった。

 白いドラゴンが海斗に向かって、巨大な翼を振って風を起こしているのだ。

 落下速度が弱まった海斗の華奢な体を白いドラゴンが巨大な前足で優しく抱きとめる。

 白いドラゴンは海斗を抱えたまま、ゆっくりと地上に降りていった。

 地上に下ろされた海斗は地面にへたりこんですすり泣いた。

 寒くもないのに体の震えが止まらない。

 震える海斗の近くで石像のように静止している白いドラゴンの翼の間が左右に裂けて、中から大柄な男性が出てきた。

「怪我はないか?」

 大柄な男性は片膝をついて、地面にへたりこんでいる海斗に視線を合わせた。

 海斗は無言のまま頷くと、男性から目をそらした。

「あんなところで、何をやっていたんだ?」

「その……生きてるのが嫌になって」

 自分がものすごく恥ずかしいことをしてしまったような気になって、海斗はか細い声で答えた。

「余計なことをしてしまったかな?」

「いえ……ありがとう……ございます」

「何があったかは知らないが、こんな怖い思いをしたら、しばらく自殺なんてできないだろ? この近くに私が勤めている学校があるから、とりあえず一緒に来てくれないか? 着替えも必要だしな」

 そう言って、大柄な男性は、びしょ濡れになっている海斗の股間に目を向けた。

 海斗は股間を手で隠しながら立ち上がった。

 大柄な男が苦笑を浮かべながら、海斗に背を向ける。

「あ……」

 おもむろに空を見上げた海斗の目に、三つの黒い影が映った。

 危ないと口にする前に、三つの黒い影から飛んできた光弾が海斗たちの近くに着弾した。

 着弾点からかなり離れているのに、凄まじい風圧だった。

 海斗は両腕で顔をかばいながら、数メートル吹っ飛ばされた。

 痛む全身に鞭打って海斗は上体を起こした。

 大柄な男は頭から血を流して倒れている。気を失っているようだ。 

 黒い影は立て続けに光弾を放ってくる。

 着弾点はさっきよりも海斗たちから離れたところだったが、これだけ連発されれば、いつか命中するだろう。

 海斗は気を失った男を置いて逃げようとしたが、怜奈の笑顔が頭の中でちらつき歯を食いしばって足を止めた。

 静止したままぴくりともしない白龍に視線を向ける。

 

 意識を取り戻した神宮寺は、目を見開いた。  

 さっきまで自分が乗っていた白龍が、突然銀色に染まりだしたのだ。

 日の光を浴びた鱗が金属のような光沢を放つ。

 銀龍は長大な翼を広げると、咆哮をあげ飛び立った。

 瞬く間に空高く舞い上がり、宙を飛ぶ3体の黒龍と対峙する。

 銀龍は空で翼を激しく振り加速すると、翼をたたみ体を錐揉み状に回転させながら複雑な軌道で飛び回った。

 黒龍から放たれる光弾を全て最小限の動きでかわしていく。

 凄まじいスピードだった。

 あまりの速さで、サファイアのような目が放つ青い光が一筋の線のようにさえ見えた。

 そういえば先ほど自分が助け出した少年の姿が見当たらない。

 まさか、あれに乗っているのは彼なのだろうか?

 光弾の嵐をくぐり抜けた銀龍が鋭い牙が生え揃った大きな口を開く。

 青い光の玉が銀龍の口から放たれ、次の瞬間には、数十メートル向こう側を飛行していた黒龍を爆散させていた。

 光弾の威力も凄まじいものだった。

 とてもさっきまで自分が乗っていたドラゴンと同じものだとは思えない。

 落下していく黒い影の肉片をかすめるように飛んで行き、銀龍は連続して光弾を放った。

 放たれた二つの光弾は、高速で飛行する目標に命中し、残りの黒龍たちも一撃で沈めていった。

 






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