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クレハ伝説

作者: 百目木
掲載日:2013/11/30

パラレルワールドか、それとも白昼夢なのか。歴史は改変されないのか。

          挿絵(By みてみん)


 僕はいつもの店でベッドに俯せになり、のんびりオイルマッサージを受けていた。サービスは無愛想だったが、彼女が使うカレンデュラの香りと絶妙なドレイニングの施術、そして唐突に始まって帰結のないまま終わる会話が気に入っていた。たぶん彼女に恋をしていたのかもしれない。


「ねぇ、春と秋だったらどっちが好き?」

「春かな。葉っぱのない真っ黒な枝からいきなり淡い色の花が咲き出てくる感じって、いいと思う」

「お花のほうが好きなのね。私は繁っている葉っぱがだんだん紅葉していく秋が好き」

 オイルで滑る指先が両側の腋窩奥の節を揉みほぐすと、脊椎に沿って腰のほうに下がって行った。

「栄養たっぷりの樹が花を咲かすのは当たり前すぎるだろう。万全な環境がなくても才能だけでブレークするみたいでいいんじゃない。それに──」

「仰向けになって。こんどは鼠蹊部のリンパだから少し我慢してね」

 紙のショーツを寄せると、オイルで濡れた指が股間に滑り込んで来た。

 会話をしたい気分は失せてしまった。


「どうかした? もっと先を続けてもいいのよ」

「う、うん。それに短い期間しか楽しめないとしても、その潔さが逆にたまらなかったりして」

「用がすんだからって引き際まで絶賛するわけ? それってずいぶん都合の良い言い分に聞こえるけど」

 いつになく苛立ちを押し殺した声に、思わず彼女を真顔で仰ぎ見てしまった。

「儚さと言い換えたらいいかな? でも養分が無くなって干からびて枯れ落ちる葉っぱよりはましさ」


「ふむ、セルライト溜まり過ぎね。じゃ、ちょっと痛いけど覚悟して」

 そう言うと、彼女は曲げた肘の側面を鼠蹊部にぴったり当てがい、思いっきり体重を乗せてきた。

「あっ、いたたたっ」

 下半身に激痛が走り脳天まで痺れた──、これではエルボードロップではないか。


「ここが詰まるとリンパの流れが悪くなり、足腰が浮腫み、全身の健康が失われていくの。

 樹々が秋に紅葉していくのもそれと似たような原理だわ」

 彼女の吐く息が時々下腹部に当たる心地よさのためか、僕は妙に眠気を催してきた。


 ──遠くから彼女が説明している声がぼんやり響いていた。


 日が短くなり気温が下がってくると、葉と枝の付け根には根から上がってくる水分を遮断する離層が形成される。そのため葉が作った糖は行き場を失い、葉の中にたくさん蓄積されてしまう。そして酵素の作用によって、葉脈の中の糖が次第に赤や黄色の色素に変化していくのだそうだ。


「だから、養分が無くなって干からびて褐色になるわけじゃない。葉で作られた養分は赤く輝きながら、樹々の枝を離れて大地に還って行く──、そして形のない腐葉土になって、樹が春に芽吹くのにじっと備える。それが紅葉の姿よ」

「秋の葉が蓄えていた養分が、冬の間は土中に潜んでいて、春先なると花を咲かせるというわけなんだ」

「そう、きれいな花よりも紅葉の方が生命力があるという証なの。でもそれを知っている人は少ないわ」

 彼女はちょっと残念そうに呟いた。


「友野さん。下の名前はなんて言うのかな? 良かったら今度の週末にドライブで紅葉狩りしない?」

 紅葉の話を聞いているうちに、遠い昔からの知己であるような懐かしい気持ちがわいてきたのだ。

「クレハ。ほんとは伴の呉葉だけど、友野クレハでいいわ。そういう平さんは?」

「コレモチ。平維茂だと硬すぎるから、仲間はへいちゃんとか平助って呼んでいるから、君もそうして」

「ずいぶん奇妙ね、クレハとコレモチか」

 クレハの虹彩が一瞬細くなった。

「蕎麦も食べたいから、戸隠はどうかな。日本三大そばの一つで、味に間違いはないし」

「乗ったわ、その話。ちょうど行きたい所があるの。だから帰りはキナサにも寄ってね」

 急にはしゃぎ出す彼女を見ていると、僕自身も嬉しくなっていった。

「キナサ? ひょっとしてあの鬼無里かな?」 


 *


 紅葉した裾野の森林から鋭角で岩肌が切立っている戸隠山系の景観は壮大だった。この人界を離れた神秘的で厳しい自然環境は、大昔から修験者の聖地として知られている。僕とクレハはバードラインという山岳道路で紅葉を楽しみ、戸隠神社の門前で蕎麦の味を堪能した。


「田舎には年老いた両親がいるの。なかなか子どもに恵まれなくて、しまいには魔王にまで願いを立ててようやく私が生まれたそうなの。ちょっと遠いけどいつかあなたを連れていって紹介したいわ」

「このアウディR8ならどんなに遠くても簡単さ」

 中古とはいえ4.2リットルエンジンで420馬力をたたき出す市販車のモンスターは、その気になれば毎時250kmで巡航が可能だ。つまり90リットルのタンクを満たしておけば、2時間半で600km先の目標地点に到達できる。


 日もすっかり暮れかかっていたので、今夜は長野駅前のシティホテルに宿を取り、明日の昼遅くには上信越自動車道路から関越道に抜けてのんびり東京に戻る予定だった。


「キナサに寄るのを忘れてはだめよ」

「了解。この県道36号をまっすぐ行って、国道406号とぶつかるところが鬼無里の交差点さ。距離にして15キロもないし、一本道だから目をつぶっていてもあと10分ぐらいで部落に入れる。ところで、誰かそこに知り合いでもいるの?」

 急に霧が立ちこめて視界が悪くなってきた。

 彼女は押し黙ったまま、しきりに何かを考えているようだった。


 ──小1時間経った。まだ鬼無里の部落には到着していない。どうやら霧のせいで時間感覚が麻痺したらしい。さらに2時間近く経った。いくらなんでもガソリンの残量が心配になってきた。ゲージを見ると針はemptyを指している。

 霧が晴れ急に視界が開けてきた。車は峠の自動車道を時速200kmに達するほど高速で走行していた。こんなんじゃ燃料が持つわけがない。ほんとうなら尋常ならざる異変に気づくべきなのだが、辻褄の合った燃費計算で妙に納得している自分がいた。


「あの橋の手前で車を止めて」 彼女が叫んだ。

 見ると前方の闇の中には大きな山と湖に架かった白い斜張橋が浮かんでいた。

「ちょっと待って、ここは鬼無里じゃないと思うけど」 

「鬼無里はだいぶ前に寄ったでしょう。あなたは私の田舎に行きたいと言い出したから、ここまで案内したんじゃない。覚えていないの?」


 彼女の口から予想もしていない言葉が返ってきた。その時アウディのV8エンジンは、不等間隔爆発の嫌な排気音を立て、身震いしながら速度を失っていった。きっとガス欠だ。この近所には深夜営業の給油場はあるのだろうか、ちょっと嫌な予感がした。


 路肩に停車させると、彼女は峠の崖の上に建てられた古い庵に向かって平然と昇り始めた。いつの間にか彼女はドレスから見慣れない十二単に着替えているではないか。

「クレハ、ちょっと教えてくれないか。ここは何処で、君は何をしようとしているんだ?」


「ここは私の生地、猪苗代の里。そしてあれがいわはしやま(石梯山=磐梯山)。承平7年(937年)、会津には子供に恵まれなかった伴笹丸と菊世という夫婦が住んでいた。2人は第六天の魔王に祈って女児を得、呉葉(クレハ)と名付けた。それが私なの。


 才色兼備の呉葉は豪農の息子に強引に結婚を迫られたけど、秘術によって自分そっくりの美女を生み出し、身代わりに結婚させたわ。そして私は紅葉という名前で京に上って行った。長かったけど、やっとここに帰ってこれたんだわ」


          挿絵(By みてみん)


「もしかして君のクレハっていう名前は、紅の葉ということかい?」


「やっと気がついたようね。私は戸隠鬼無里の紅葉伝説に登場する鬼女のクレハ。そしてあなたは冷泉天皇の命を受け、安和2年(969年)の秋、33歳だった私の首を降魔の剣の一撃で跳ねた憎き宿敵の平維茂。今さらそれを忘れたとは言わせまいぞ」


 柔和なクレハの顔がみるみるうちに能面の鬼女のそれに変った。湖面から吹き上がってくる夜風が急に生臭くなり、周囲の草原はざわざわと生き物のようにうねり出した。

 僕は急いでその場から逃れようとしたが、脚が痺れて一歩も動けなくなっていた。


「待ってくれ紅葉、じゃなくてクレハ。君は腕のいいリンパドレイニングのセラピストで、僕は君にとって馴染みのクライエントだったじゃないか。どうしてこんな面倒な因縁に巻き込まれてしまうのか、お願いだからその事情を僕に教えて欲しい」


「それは私にもわからない。確かなことは私が伴呉葉(トモノクレハ)で、あなたが平維茂(タイラノコレモチ)だという事実。そして、私が生まれる以前から、蝦夷の国と境を接したこのあたりには鬼がたくさん住んでいたという事。


 たとえば神亀丙寅の年(726年)、ここから東に10里遠方にある安達が原の黒塚では、紀州からの旅の僧・東光坊祐慶が河岸の岩屋に棲む老いた鬼女と遭遇した。


 時はまさに陸奥国から独立した石背国が、再び陸奥に編入されようとしている乱世のころ。祐慶の法力で黒塚の鬼婆は消されてしまい、爾来この地には白河軍団が駐屯することになったが、鬼の系譜はその後も途絶えることなく連綿と続き現在に至っている。

 なぜか。黒塚から4里ほど上流に鬼生田という土地があり、そこがわれら鬼族の隠里だったためだ。鬼族の娘たちは一点の瑕疵もない器量良しが多かったため、氏の悟られにくい京に上ることが多かったという。そして都で鬼の子らを産んだ。


 わらわもその末裔で、16歳の時に清和源氏の祖・源経基に請われて側室となり、18歳で一粒種の経若丸を産んだ。しかしその直後から経基正室の嫉妬に遭い、19歳の年には都を追われあの鬼無里に幽閉された」

 クレハはイタコが口寄するように、自分の運命を滔々と語り続けた。


「ちょっと待って。冷泉天皇はどうして僕を遣ってキミを殺させなければいけなかったのか、そこだけがどうしてもわからないんだ」


「経若丸は、病弱だった正室に代わって私が生んだ源経基の嫡男、第56代清和天皇の孫にあたる血統。そして第57代の陽成天皇は経若丸の伯父。第63代の冷泉天皇としては、この際に徹底して清和の命脈を断とうとしたとしても不思議はないわ。


 私は再び京に戻って、経若丸を父の源経基公に会わせたかっただけ。でも冷泉天皇や都の貴族たちは、私が鬼無里で盗賊をして京に出兵する軍資金を稼いでいると風評を流したの。そこにあなたの出番があっただけ、ということだと思う」


「ではやっぱり、平維茂はあの鬼無里で君を殺めてしまったんだ。知らないとはいえ、まったく何ということをしてしまったんだろう」

 僕は彼女に向かって深々とこうべを垂れるしかなかった。一介の武官の立場では天皇の御命に逆らうことなどできるはずもなかったが、僕は先祖たちの非礼を憎むと同時にそのことを深く詫びた。すると不思議なことに、それまで夜叉の形相をしていたクレハが、次第に温和な表情に戻っていくのがわかった。


「神刀の一太刀で首を跳ねてくれたから、私には全く痛みはなかったわ。それにあなたが知らないのは無理もないけど、私たち一族は不死身なの。切り捨てられた私の骸は、すぐに落ち葉に覆われて土中深く隠され、紅葉の葉が持つエリクサー(仙薬)の力で蘇生されたのよ」

 そういってクレハは嫣然と微笑んだ。


 切れた雲間から満月が顔を出し、紅葉した山麓一帯を闇の中に浮かび上がらせ、一条の強い光線が、山間の中腹にあるさびれた庵を昼のように煌々と照らし出した。

 遠目にはクレハの生家跡に見えていたのだが、あらためて良く見直すと、あれはどうみても能の舞台ではないだろうか。それが証拠に、美しく着飾った女性たちが低く響く鼓の音に合わせ、緩やかに円舞するのが見てとれた。


「クレハ、教えて欲しい。僕たちはどうしてここにいるんだい。

 そしてあの舞台では、いったい何が起ころうとしているんだろうか」


「お能の演目よ。《紅葉狩》がどうしても観たいと言いだしたのはあなたのほうでしょう?

 あそこで舞っているのは私のツレたち。みんな鬼族の女たちだけど、いずれ劣らぬ美女ぞろい。あの中の半分は歌手や女優として芸能活動もしているから、TVドラマでお馴染みの顔ぶればかりだと思うけど、平助さん気がつかないかな?」


 眼を凝らすと、確かに剛力○やめや小嶋○るな、吉高○里子に似た顔が見えていた。

「彼女たちって、みんな鬼族の女性だったのか。あ、あそこに引退当時の山口○恵もいる」


「そう。ちょっと解りにくいと思うけど、今夜はあの出雲阿国も来ている。

 私の生地で《紅葉狩》の故事を再演しないって呼びかけたら、みんな快く同意してくれたわ。

 ──そろそろ準備が整ったようね」

「・・・・」

「さぁいらっしゃい、私たちもあの舞台に参加しないと。このままではいつまでたってもお話が進まないから」


 振り向いたクレハは、微笑みながら僕の手を取った。

 しかし僕の両脚はさっきからすっかり萎えてしまっていて、どうにも立ち上がることが不可能だった。あの時彼女は不思議な法力を使って、僕の足の力を吸い取っていたではないか。

「あら、そうだったわよね、気がつかなくてごめんなさい」

 僕が横たわった草むらに横座りすると、彼女は慣れた手つきでチャクラへ施術を始めた。おそらくこの下半身を封じている気の流れを解除しているのだろう。全身が弛緩してきてゾッとするほど心地よかった。


「もう気づいていると思うけど、私たちがこれから演じるのは歴史改変の物語なのよ」

 遠ざかる意識の中で、彼女の声だけが明瞭に脳裏に響き渡っていた。


 ──もしもあの時、私と経若丸が歴史の舞台から追い出されてさえいなかったら、清和天皇の末裔が武士に身をやつすこともなかった筈。そしてあの源義朝の三男、鬼武丸を世に出す必要もなかった。


 ──鬼武丸は鬼族の力を歴史に復活させるために、私たちが送り込んだレプリカントなの。鬼武丸は長じて源頼朝になり、鎌倉幕府を開いて貴族の政治を終焉させた。そして結果的に時が進むべき流れを悪い方に変えてしまった。


 ──鎌倉、室町、戦国と武力で混乱した時代が続き、それが徳川一族の長期の治世を容認することになった。でも、もしもあそこで経若丸の命が断たれなかったら、天皇家の命脈に私たち一族の血を送り込むことができたはずだ。


 ──鬼族の知恵と力は歴史の中で開花することもなく、秋の真っ赤に染まった紅の葉のように土中深く堆積して、地上に艶やかな花を咲かせるシャドーワークに専念しながら、ただ復活の日を待つしかなかった。


「私たちはずっとこの日が来るのを待っていたわ。あの時の平維茂が、再び私の前に現れるのを。安和2年(969年)の秋、あなたは33歳だった私の首を跳ねた。もちろん私は死ななかった。

 しかしあなたはそのことによって、武士が力を頼って生きる忌まわしい時の流れを解放してしまった。だからいまここで、歴史の流れを元に戻さなくてはならないの──」

 僕はクレハの声に操られるようにすくっと立ち上がり、能舞台に駆け上がっていた。


          挿絵(By みてみん)


「あの山陰に当たって人影の 見えて候は。いかなる者ぞ名を尋ねて 来たり候え」

 不思議なことに、僕の口からは謡曲≪紅葉狩≫のワキの台詞が澱みなく流れ出てきたではないか。いつのまにか着ているものも、中世の武士のようないでたちになって、舞台中央に立ってる。そしてクレハの周囲で舞う美しいシテツレたちの誘いにのり、円坐した酒宴に参加した。


「げにや数ならぬ身ほどの山の奥に来て。人は知らじと打ち解けて。独り眺めるもみじ葉の。色見えけるかいかにせん」

 すっかり上機嫌になったクレハが酒器を差しだすので、僕は浴びるように盃をあけ続けた。

 僕はこのあと紅葉狩の物語で、いったい何を演じればいいのだろうか? 気になって尋ねても、クレハはそれには取りあわず、ただ笑みを浮かべて舞い続けているだけだった。

「私に聞いてもダメよ。それはあなたが自分ひとりで出さなければならない答なんだから」


 謡曲《紅葉狩》では、このへんで平維茂は酔い潰れてしまい、夢の中に現れた八幡宮の神から降魔の剣を授かり、それを使って美しいクレハの首を跳ねることになっている。しかしそのことは、この先の歴史を歪めることにもなることを、今の僕は知ってしまった。


 したたかに酩酊し、だんだん頭が真っ白になって行く──。そして目の前では、月明かりに照らし出された美しい紅葉が、万華鏡の世界のように煌びやかに舞っていた。このまま眼を覚まさずに眠っていたほうがいい。そうすれば愛おしいクレハを殺めずにすむ…

 遠くの方で紅葉になったクレハがにこやかに笑っている気配だけが感じられた──。


 **


「平助さん、平助さん。もうそろそろ起きたほうがいいんじゃないかな?」


 施術台の上に横になっている自分に気がついた。どうやら鼠蹊部リンパ節のドレイニングを受けながら、不覚にも寝てしまったようだ。体の上には紅葉柄の薄いタオルケットがかけられていた。しかも体に塗られたオイルは丁寧に拭きとられていて、新しい下着までつけられていた。おそらくクレハが気遣ってくれたのだろう。

 重かった下半身もすっかり軽くなっている。


「なんだ、今のって夢だったんだ。あんまり長いから吃驚した」

「ずっとそこで眠っていたのよ。時々うなされて何か言ったりして、可笑しかったけど」


 リンパにたまった毒素をデトックスをしていると、一時的に大昔の記憶が蘇ってしまう事がよくあるそうだ。クレハはなにもかも知りつくした顔で、含み笑いをした。

「どうやら夢の中で紅葉狩りをしていたみたいね。楽しかった?」

「うん、クレハと長い旅をしながら紅葉伝説を歴訪してきたんだけど、詳しく聞きたい?」

「やめておく。どうせエッチな話なんでしょう。あそこもずいぶん大きくなっていたし」


「ひどいなぁ、ひとが眠っているのをいいことに、体をじろじろ見たりして」

「──合格よ。ぜんぶチェックしておいたから、これからは自由に生きればいいわ」

 僕は数ヶ月前の自動車事故で大怪我を負ってしまい、そのリハビリ中だったのだ。


「ありがとう。じゃさっそくお祝いを兼ねて、車で紅葉狩りにでも行かないかな?」

「つきあってあげてもいいけど、どこか行きたいところがあるの?」

「蕎麦も食べたいから、戸隠はどうかな。日本三大そばの一つで、味に間違いはないし」

「またか──、懲りていないんだ。けっきょく何も解っていないのね」


                  クレハ伝説 Fin


初出 ニコッとタウン2013年11月 1050877島:百目木




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