闇のなかに光る、ふたつ目
「誰?」
ジオモは震えた声で聞いた。闇のなかの目が動いた。まばたきをして闇に隠れては、ふたたび黄色く光る。そのふたつの目が近づいてきた。そして、ジオモを真ん中にぐるぐる周り始めた。
不意に、体に柔らかいものが押しつけられた感触がした。ジオモは怖くなり、ただじっとしていた。そうするより他はなかった。
ようやく自由になったので、柔らかいものの正体を見極めようと、目を凝らした。それは黄色いふたつ目の鼻のあたまだった。
目が合った。ジオモよりは大きな目に身がすくんだ。
「君に頼みがあるの」
ふたつ目は可愛らしい声でそう言った。ジオモは目を白黒させて、言葉にならない声をあげた。
「驚いているの?」
ころころとふたつ目は笑った。
「わたしの名前はクロ。黒い毛なみから、そう名付けられたの」
夜闇でよく見えなかったのは、体が黒いせいだったんだ。じっと見ると、黒い毛が見えなくもない。
「ぼ、ぼくはジオモ」
ジオモはつまりながらも、ようやく返事ができた。案外恐ろしい生き物ではないみたい。少しづつ、ジオモの緊張もほぐれていった。
「明るい場所に移動しましょ。話は後でいいかしら」
断ることもできないまま、ジオモはクロについていった。クロはここらの地理をよく知っているようだ。すいすいと、闇のなかを進んでいく。
ジオモはクロに連れられて、ある家の前に来た。街灯で少し明るかった。クロは振り返って、ジオモを見た。
「話すよりも、見てもらう方ががいいと思うの」