遠ざかる雲、彼は孤独になった
不意に鼓膜が破れそうなくらい大きな音がして、アオガミの手の感覚がなくなった。短い叫び声。ほぼ同時にジオモは手にピリリと痛みを感じた。
「アオガミっ」
勇気を出して、まぶたを開く。すぐに自分がどこにいるか分からなかった。色のない透明な空間。隣にいるはずのアオガミを必死に捜した。彼はどこにもいなかった。
ジオモはひとりで宙に放り出され、不安だった。アオガミに何か異変が起こったのかな。悪いようにならないと、いいのだけれど。
アオガミに言われたことを思い出した。虹色の煙を探さなきゃ。頼りにしていたアオガミはいない。自力でホワイトハイランドに帰らないと。
夢のエネルギーを体に溜めると、自然に体が浮くらしい。そのまま身を任せていれば、無事に帰ることができる。虹色の煙が、エネルギーのある証拠。ジオモは何がなんでも見つけ出さなければならない。アオガミがどうなったのか、不安でたまらない。早く仲間の元に帰ってアオガミの安否を知りたい。トトノイさんなら、きっとアオガミの異変に気づいてくれるだろう。ジオモはアオガミの温もりがまだ残っている小さな拳を握りしめた。
その時、雪が降ってきた。ジオモは上を見上げた。空を埋め尽くすように絶え間なく雪は降り続いている。そのうちのひとつに飛び乗り、下へ下へと向かった。
日はとっくに沈んでいるのだから、虹色の煙はすぐ見つけられるだろうと考えていたが、甘かった。
地上は光で溢れていた。金色に輝く塔や、赤い橋。どれも眩しかった。
輝く街で見つけるのは至難の技だろう。あらゆる色がピカピカに瞬いて、虹色もそこではありふれた色だった。ジオモは光の向こう、はるか遠くを見つめた。そこはまだ暗そう。ふわふわと、一緒に落ちてきた雪は、今や雨滴に変わり、それに伴って速度も増した。地面に衝突しそうになり、慌てて飛び出し、暗闇を目指した。
背の高い建物が減り、人家が大半を占めるようになってきた。家々から溢れる明かりはまちまちだった。しかし、そのくらいの明るさが丁度よかった。薄ぼんやりした世界を体感した。雲の上から見ていたのよりずっと、温かい光だった。
しばらく家の間をぬうように飛んでいた。その時だった。物陰から、黒い影が突然現れたのは。
ジオモはあやうく、その鋭い爪に当たりそうになったが、身をよじってかわした。
影はジオモの目の前で止まった。薄暗い闇の中にも、その黄色い目がふたつ光るのが見えた。反射的に身がすくんだ。初めて味わう、恐怖の苦い味。コロップがいなくなった時に激しく揺さぶられたのと、また別の部分が機敏に反応した。荒い息遣いが聞こえる。それはジオモのものだった。