雲の向こうへ、彼は手を伸ばす
ジオモは昼寝をするのが好きだ。陽に当たっていると体が大きくなるような気がする。光を吸いこめ、と祈った。俺は太陽を一番近くで浴びたんだ、ほら俺でっかいだろう。アオガミさんの言葉がよみがえる。ジオモはその言葉を信じて日光浴をしているのだ。
「おーい、ジオモ」
アオガミさんがでっかい手を大きく振りながら走ってきた。
「いい知らせだ。おまえを今日の降下に連れていくことになった」
ジオモは一瞬、どんな表情をすればいいかわからず、ただアオガミを見上げた。
コロップのことは今でも鮮明に憶えている。ある日、彼女は帰って来なかった。
地上でトラブルに巻き込まれたか、雲の間に挟まっているか、のどちらからしい。
すぐに捜索隊が結成され、朝昼晩、小雲車を走らせた。地上の場合、ニンゲンの中に入っていない限り、ハイランダーは仲間を見つけられる。体が白く発光するからだ。だから、見落とすことはない。しかし救助隊が低空飛行で、目を皿にして地上を捜しても見つかられなかった。
雲に引っかかっているなら、誰も気づけない。ハイランダーの体は雲からできている。雲に同化して、見分けられなくなるからだ。
ジオモが怯えていると気づいたのか、アオガミは深い青色にたゆたう海のような瞳をゆらし、気遣うように言った。
「コロップのことは俺たちも全力を尽くした。分かってくれ」
アオガミ達が懸命に捜してくれたことは分かっている。決して責めているんじゃないんだ。
「それとも、ジオモはコロップを見つけに行くか?」
地上に行くのは怖かった。そんな自分がふがいなくて、変わりたくて、ジオモは決意した。
「ジオモ、行くよ。頑張れるんだから」
あっという間に時は過ぎた。ジオモは雲の間に体を横たえ、空をずっと見ていた。夕焼けの赤や黄色が空に吸いこまれていき、闇空へと移り変わった。いなくなった人は空にいるんだ。誰かがそう言っていたのを思い出しながら、空に手をのばした。
「……コロップ。そこにいるの? ジオモ凄いんだよ。ひとりで雲だって動かせるようになったんだ」
白い雲に飲みこまそうな空。けれど、ずっとずっと遠い。こんなにも手を伸ばせば、届きそうなのに。ジオモは意味もなく、コロップの名を呼び続けた。