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虹色の煙  作者: 相花
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夢は留まらず、どこかに去っていく

 トトノイさんの仕事は朝日と共に始まる。それから夕日が沈んで空が真っ暗になるまで休むことはない。以前より体が重くなった気がするけれど、知らんぷり。トトノイさんは自分の仕事に誇りを持っているから、自分の体が動く限り、引退など考えないのだ。


 トトノイさんはこの雲の上にあるホワイトハイランドを守っている。同じ雲に住む仲間の安全が第一なのだ。ハイランダーと呼ばれるここの住民は、皆、一様に白い。だから雲に紛れることができ、危険な鳥たちからの襲来も防げるのだ。

 それでも危険は至るところに転がっている。針のように突き刺す風が雲に穴をあけてしまうことだってあるし、同じ雲でも薄いところでは足を踏みそこねかねない。したがって、トトノイさんの仕事の大半を占めるのが、雲の管理なのである。


 太陽をいっぱいに受けて、夢のように膨らむ雲はトトノイさんの心を浮き立たせる。でも今日は違った。ずっと悩んでいたことに結論を下さなければならない日だったから。


 エネルギーがないと、雲を動かせない。嵐を呼ぶ荒々しい雲がやって来たとき、ホワイトハイランドが嵐に巻き込まれないようにしたり、太陽の当たる場所に行きたいときに自由に雲を操縦できるようにするために。だから定期的にエネルギーを補給しなくてはならないが、そろそろ残りわずかになっている。

 エネルギーは地上に住んでいるニンゲンから貰うのだ。ニンゲンの体に入り、ずっと奥まで進むとある場所に行き当たる。そこはエネルギーが満ち溢れる所で、赤や紫や緑に次々と色を変える光が集まったり、離れたりを繰り返している。トトノイさんは今でも鮮明に覚えている。体中が光に包まれて、とろけそうになった至福の時間を。


 ハイランダーは地上に下りることを「降下」と呼んでいる。出発はたいてい夜中。ちょうどその頃にニンゲンのエネルギーが解放されるからだ。ハイランダーはそれを拝借する。何も貰うばかりではなくて、去り際に自分の体の一部を置いて行く。ニンゲンはそれを夢と呼ぶ。


 「降下」先のニンゲンは毎回違う。ニンゲンによってエネルギーの部屋の作りが違うので、それを楽しみに思うハイランダーがいるくらいだ。

 ニンゲンだって同じ夢を見るのはつまらないに違いない。しかし、空に点在して住んでいるハイランダーの数だけ夢の種類はあるから、そんなことはめったにない。

 トトノイさんが今まで「降下」したニンゲンは皆違った。それぞれに螺旋を描いたり、ジグザグした部屋を持っていた。

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