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ねことゴブリン

「わああああ!!」


ギルが突然大きな声で叫んだのでミーツェは足を止めて振り返りました。


『な、何あれ!?』


ギルの顔面にコールタールのような色をした気味の悪いものがくっついています。

 

『シワシワの汚れたおじいちゃんのお人形みたい……』


お城暮らしのミーツェが森に住むゴブリンのことなんて知るわけもありません。ゴブリンは体長30センチくらいの頭でっかちの妖精で意地悪いのが特徴だとも言われています。大抵は森に住んでいて旅人などに意地悪をしてからかったりします。寂れた町なんかにもたまには現れますが、どちらにしてもミーツェがお城で暮らしていたら一生会わなくてもおかしくない存在です。


「っこの!」


ギルは顔面に張り付いたゴブリンを剥がそうとしましたがなかなか取れないようでもがいていました。ラルフも剣を構えたものの、主人の顔に張り付いたゴブリンには振るえるわけにもいきません。


『今取ってあげる!』


走って戻ってきたミーツェはギルの体に駆け上がるとゴブリンめがけて爪を立てました。


『ギルから離れなさあああああい!』


『ぎゃああああ!何しやがる!』


ゴブリンはポトリとギルの足元に落ちるとミーツェに引っかかれた背中を摩り上げました。


『この!あま!』


『え……。』


猫の姿であまと罵られるとは思わなかったミーツェはビックリしてゴブリンを見ました。


『ふん!アタイにはお見通しさ!あんたも呪いをかけられたくちだろう?』


『そ、そうだけど……。わ、わかるの!?』


『同じ人間に呪われた人間同士は姿を変えられても言葉が通じるんだよ。あ、いててて!何しやがるんだ!このクソ男!』


ギルの足元に落ちたゴブリンはラルフによって縛り上げられてしまいました。そのまま綱の端をもったラルフがゴブリンを吊り上げた状態でぶらぶらとぶら下げています。


「大丈夫ですか?ギル様。」


「大丈夫だ。しかし、こいつ、目をえぐろうとしたぞ。」


「!なんてことを!」


ラルフは縛ったままのゴブリンを剣の鞘で殴りました。


『ぎゃっ!』


ゴブリンは声を上げました。一部始終を見ていたミーツェは痛そうに顔をゆがめるゴブリンに声をかけました。


『もしかして貴方、オリビエに目玉を食べれば元に戻るって言われたんじゃないかしら?』


『何で知ってる?緑だ深緑の目を食べればアタイは戻れるんだ!』


『……。』


『なにか言いたそうだな?』


『多分。それは嘘だと思うわ。オリビエは嘘つきだもの。それに、呪いを解ける方法を教えるなんてありえないと思わない?』


『……。い、痛い!痛い!』


会話もそこそこにラルフによってゴブリンは締め上げられました。


「ギル様、このゴブリンをどうしますか?」


「……捨てておけ。」


ギルは興味がないのかミーツェをひょいと抱き上げてマントに入れるとプイと背を向けてしまいました。ラルフは主人の言う通りにゴブリンを締め上げたまま木の下に転がしました。


『くそ!ほどきやがれ!』


ゴブリンが悪態をついていますがギルたちにはギイギイ聞こえるだけです。


『ギル、待って!彼女と話をさせて!』


ミーツェは暴れてギルの胸から飛び出しました。ギルは自分を助けてくれた猫がどうしてゴブリンのところに戻るのか不思議顔で見ていました。


『彼女も連れて行って。ギル。お願い。話がしたいの。』


もちろん、ミーツェが何を言っているのかはギルにはわかりません。でも彼の愛しい猫が小汚いゴブリンの横でかわいらしく首を傾けて前足でおねだりしているのはわかります。


「ミミはいったいどうしたんだろう?」


「ゴブリンを見捨てるのは止めて欲しいみたいですね。」


「ミミには俺が酷い事をしているように見えるのかな?」


「さあ。どうでしょうか?」


「……。」


「ギル様、行きましょう。」


ラルフはそういいましたが彼の主人はしばらく考えてから


「ラルフ。そのゴブリンも連れて行こう。ただし、縛ったままだ。」


といいました。思い切りしかめ面になった彼の従者は嫌そうに縄の端を持つとゴブリンを持ち上げて主人の後に付いていきました。それを見届けた猫は主人の隣をうれしそうに歩きます。


「……まったく。猫に骨抜きとは。」


従者は深くため息をつきました。



*****



それから森の中を歩き回りましたがギルたちは雪の魔女を見つけることは出来ませんでした。体が冷え切ってきたのでラルフが焚き火をはじめて少しの間休憩する事になりました。二人が地図を見ながら話をしている隙にミーツェはゴブリンの元に向いました。



『いったいどういうつもりだい?これでアタイを助けたつもりかい?』


焚き火から少しはなれたところでゴブリンは転がっていました。


『そんなこと思ってないわ。貴方と話がしたかったのよ。同じ呪いがかけられた者同士のね。』


『……あんたに話せることはないよ。』


『……私、貴方に嫌われちゃったかしら。背中引っかいたし……。』


『まあ、痛かったけど、そうじゃない。アタイはオリビエが言った最後の言葉しか覚えてないのさ。「深緑の目玉をくり貫いて飲めば元に戻れる」って言葉しか。記憶がないんだ。さっぱりね。警備隊の奴らに街中で見つかって捕獲されてから森に放されたんだ。』


『そうだったの。私は王女なの。オリビエがお父様に上手く取り入って王妃になったわ。正体を暴こうとしてこの有様よ。』


『へえ。王女様か。でも猫なんてかわいいじゃないか。』


『お父様が国中から追放するくらい猫嫌いなのよ。オリビエの性格の悪さには頭が下がるわ。』


『それならアタイはきっとすっごい美女だな。こんなゴブリンの姿にするくらいなんだから。』


『きっとそうね。』


ふたりはフフフと笑いました。


『その縄、きつくない?待ってて。緩めてあげる。』


ミーツェはゴブリンの後ろに回って縄を緩めようとしましたがラルフが随分固く絞めたようでびくともしません。


『駄目だわ。ごめんなさい。』


申し訳なさそうにミーツェが言うとゴブリンは目を細めました。


『あんたはいい子だね。わかってる?あんた、アタイのこと初めから「彼女」とか「貴方」って言ってる。こんな小汚いボロゾーキンみたいなのに。』


『そうだったかしら。でも、貴方は貴方よ。そんなことより、聞きたかったのだけど、どうして同じ人からの呪いを受けたもの同士が話せるって知ってるの?他にも居るってこと?』


『ああ。そのことは雪の魔女に聞いたから。』


『え、雪の魔女!?』


『うん。そう。それがどうかした?』


『だって、ギルたちは「雪の魔女」を探してこの森に来たんだもの。貴方は雪の魔女の居場所を知っているの?』


『……。知ってるけど、知らない。』


ミーツェの質問にそう答えたゴブリンは空を見上げました。



ミーツェの必殺技は「みだれ引っかき」。

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