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カナルトの迷いの森

ミーツェが次に目覚めた時そこはカタカタと揺れる馬車の中でした。


『随分眠ってしまったのかしら。お兄様は……?』


目覚めたミーツェに気付いたギルがミーツェを覗き込みます。


「ミミ。やっと目が覚めたんだな。2日も眠っていたんだ。心配したんだぞ。」


そういうとミーツェの背中をそっと撫ぜました。


『2日も……。毒に慣れていると思っていたけど、体が小さいと駄目なのかもしれないわね。』


ぶるりとミーツェが体を震わせました。なんだか寒くなっています。するとギルは自分が被っていたマントの中にミーツェを入れ、膝の上に乗せました。


「寒いだろう。雪山に向っているからな。怪我のお前には辛いかもしれないが置いていくよりマシだろう?」


『雪山……。お兄様と話がしたかったのだけど…。』


怪我をしている上に遠くまで連れられてきているのです。ここはギルに付いていくしかないようです。


『何をしに行くのかしら。住まいがこちらとか?様子を見るしかなさそうね。』


仕方がないとため息がでるものの、ミーツェはギルと一緒にいることが嫌だとは思いませんでした。腕の痛みは随分引いていましたがミーツェは『早く体を治すのが先決だわ。』ともうひと眠りしました。次にミーツェが揺り起こされたのは1時間ほど経ってからでした。


「ミミ!あれが カナルトのウル山だ!見てごらん美しいから。」


ギルの弾む声が聞こえたかと思うとミーツェは馬車の窓のところに顔を出すように抱きかかえられていました。


『カナルト。たしか、迷いの森があるという……すごく、綺麗な山。』


目の前には青銀色に輝くウル山が見えてきました。「鋭い三角錐が胸をすくような美しい姿」世界一美しい神秘の山というのも頷けます。興奮しながら窓の外を見るギルはミーツェに頬刷りしてきます。いつもなら離れようとするミーツェですが、美しい山に見入ってギルの好きにさせていました。御者の隣に座っていた彼の従者は振り返りながら主人のデレデレ具合を見て「新婚旅行のようだ……猫とだけど。」とこぼしていました。



*****




馬車が止まるとギルたちは小さな町の宿に入りました。ギルは部屋で一番暖かい場所……暖炉の傍にミーツェの入ったバスケットを置きました。


「流石に寒いな。防寒用の服を揃えたら明日、迷いの森に出発しよう。」


「雪の魔女に会えるでしょうか。」


「……会えなくては困る。」


それからギルたちは昼食と買い物に出て行ってしまいました。ミーツェにも食事と暖かいミルクが置かれています。


『ああ。元気だったらお買いものについて行きたかったわ。』


ミーツェからは年頃の娘らしい感想がこぼれました。もしミーツェが猫の姿でなかったらすぐさま町娘の格好で買い物に行ったに違いません。なにしろ、好奇心旺盛なミーツェはキジロ国にいたときから時々城下に遊びに出ていたのですから。


『たしか、ギルは雪の魔女って言ったわね。』


ミーツェは「魔女」を調べた時のことを思い出しました。もちろんその時はオリビエを倒すために調べたのです。


『文献には……黒を司るものその身に破れ、白を司るものその身を捧げるとあったかしら。……よくわからなかったけれど。オリビエは「黒」かな?雪っていうなら雪の魔女は「白」かしら?』


そんなことを考えながら食事を終えたミーツェが窓の外を見ると従者を連れたギルがもう宿に戻ってきたようでした。



「ミミ!帰ったよ!寂しくなかったかい?」


ドアを開けたギルは一目散に抱き上げて頬刷りします。


『貴方の猫好きも困ったものね』


苦笑しながらミーツェも好きにさせておきました。


「お前にリボンを買ってきたんだ。野良猫と間違えでもされたら大変だからね。」


そういうとギルはビロードの黒のリボンをミーツェの首に結わえました。こんな上等なリボンを猫に結ぶなんてギルはよほどミーツェが気に入ったのでしょう。


『あなたの髪と同じ色ね。悪くないわ。ありがとう。』


美しいリボンを結ばれた白い猫はリボンに負けないほど美しく見えました。


彼の従者はまたもや「これが猫でなかったら……。」とその様子を見守っていました。



*****



次の朝、ギルは懐にミーツェを入れて迷いの森にでかけました。だんだんと雪深くなる森の中は光が雪に反射して辺りをきらきらと輝かせていました。ひょっこり顔をだしたミーツェは外を見て感嘆の声を上げました。樹氷は風にキラキラとその雫で応え、その奥ではウル山が神々しく太陽を背にその姿を見せています。


『まるで銀色の絹のよう……。雪ってこんなに美しいのね!』


足跡を付けたい衝動に駆られながらミーツェはギルの懐から飛び出さんばかりにキョロキョロしました。


「こら、興奮するな。落ちてしまうぞ?」


ギルが優しく言いますがミーツェはその美しい雪を触りたくて仕方ありません。


「おっと!」


その声とともにミーツェが雪の上に転がりました。


『冷たい!でも!フカフカね!』


面白いように足跡がつく白い雪の上をミーツェは駆け回りました。


「……まったく。」


ギルはその様子を見てそういいましたが困っているようには見えません。あんまり猫が喜んでいるのが可愛くて仕方ないようです。


とはいえ白い猫は大地と同化して判り難くなるので黒いリボンだけが頼りです。


「ミミ!この辺りはゴブリンが多いんだ。もう帰っておいで!」


そうギルが叫んだ時、ギルの頭上の木の上から黒いものが降ってきました。










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