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セルスロイの宝石

『猫にされてからは怪我が耐えないわ……。』


ミーツェの腕から激痛が走ります。

すぐに祭壇の裏に隠れたセルスロイは無事のようです。


「ミミ!」


ギルはビックリしてミーツェを見ました。が、犯人らしき男が逃げるのも見えます。


「セルスロイ!その猫をたのむ!」


ギルはその場を離れて犯人を追いかけていきました。


『ああ。お兄様が無事でよかった。』


ミーツェの国は「ねずみ天国」といわれる国ですから国から出ないと猫と接する事はありません。でも生まれも育ちも「ねずみ天国」のセルスロイは躊躇いもせずにミーツェを抱き上げてくれました。


『やっぱり、セルーお兄様は優しい。』


ミーツェを怒鳴った父親の顔がぎるとミーツェの心は痛みました。


「お前は私を助けてくれたんだね?痛いだろうけど、少し我慢をしておくれ。」


『……!!』


セルスロイはミーツェの腕から矢を抜きました。そしてその腕に口をつけると強く吸い上げました。


『い、痛い!お兄様!!痛い!』


ミーツェは痛みに叫びましたが聞こえていないかのように冷静にセルスロイは何度か黒い血の塊を床に吐くと素早くハンカチを出して腕に巻いて止血してくれました。


「毒を塗っていたか……。どうやら今回の件には何人か貴族も絡んでいるらしいな。」


セルスロイもミーツェも王家の人間です。幼いころから様々な毒には耐性をつけて育てられています。セルスロイには毒の味もわかるのでしょう。


「お前は私の大事な宝石に似ている……。」


セルスロイが以前のように優しくミーツェに微笑みながら頭を撫ぜてきました。体の大きさからなのか、少し入った毒が回ってきたミーツェは意識が朦朧となってきます。


『お兄様が大切にしている宝石って何かしら……。』


そう考えながらミーツェはセルスロイに抱かれるまま眠ってしまいました。



*****



「逃げられた。ここの地理に詳しいらしい。」


ギルは帰ってくると真っ先にセルスロイからミーツェを奪い取りました。


「この猫は貴方の猫なのですか?」


「ああ。俺の猫だ。宿に置いてきたのだが、寂しくなってついてきたんだろう。」


「良い猫ですね。」


「ああ。勇敢だろう?あの魔女にも立ち向かったんだ。すごい猫さ。」


「……譲っていただけません?私の大事な人に似ているのです。」


「駄目だ。」


「ははは。よほどのお気に入りなのですね。大の女嫌いでいらっしゃるという噂の君は大の猫好きだったらしい。」


「ミミは特別なのさ。人間だったらすぐにでも結婚を申し込みたいくらいだ。」


「……そうですか。その猫はミミというのですか。名前までそっくりだとは……。」


一呼吸置いてからセルスロイはミーツェを見ながらそういいました。今はギルの腕の中で白い猫が眠っています。


「そんなことより、忠告はしたんだが、王はオリビエと結婚した。今すぐキジロに戻って策を立てたほうがいいんじゃないか?」


「今は何を言っても王は聞く耳持たないでしょう。下手するとオリビエにすべてを牛耳られてしまう。私がここにいる限りは私の支配下の者には手は出せないでしょう。心配なのは……王女いもうとのことです。あの子は少々行動力がありすぎる。」


「俺が見ていたときは大人しくしていたが……。」


ギルは腕の中の白猫を見てから言葉を濁しました。義妹に異常なまでの執着のあるセルスロイがオリビエの話を鵜呑みにして猫を殺してしまうかもしれないと思ったからです。ギルは関心のないキジロ国のミーツェ姫よりも勇敢な腕の中で眠る白猫のミミの方が大切に思えたのです。


「…キジロのことは貴方とは関係の無い事ですね。つい私事をこぼしてしまいました。すいません。貴方に頼まれて探していた雪の魔女ですが、カナルトの迷いの森にいるという情報が入りました。」


「カナルトか。雪の魔女だけあって随分寒いところにいるな。」


「ご検討を祈ります。」


「そっちこそ。キジロがユーシリアのようにならんようにな。」


マントをひるがえしてギルはセルスロイに手を上げました。そして、そのまま、宿へと帰って行きました。

腕の中にはミーツェ。何も知らずに眠っています。


「教えて差し上げなくて良かったのですか?ギル様」


「教えたらミミが危ない。」


「……まあ。噂では王女の伴侶となるために国を出て神職を選んだといわれていますからね。王女の事を話せば間違いなくその猫は引き渡さなければならなかったでしょうけど。でも、敵に回せばやっかいですよ?いずれ話はセルスロイ殿の所へと行くでしょうから。」


「その時はその時さ。」


心配する従者の話を収めるようにギルはそれからは口を閉ざしました。宿に帰ってバスケットにミーツェを寝かすとギルはその柔らかい頭を撫ぜました。



セルスロイが言う「宝石」はすなわち彼の愛する一人の娘。

彼は彼女を手に入れる為に国から出て聖職者の道を選んだのです。

美しい水色の瞳を持つ少女。彼女こそがセルスロイの希望の光。


そのことを知らないミーツェは痛みに耐えながらバスケットの中で眠っていました。




ミーツェ怪我ばっかり……。

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