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愛しい娘

「……どうして、お前は……。」


セルスロイは泣きそうな声を出しました。ミーツェをまっすぐに見据えてセルスロイは小さかったミーツェを想いました。


どんなに無視しても追いかけてきた小さな女の子。疎ましくしてもセルスロイを美しいと褒め、一緒に遊ぼうと誘いました。セルスロイの前ではすぐ泣く癖に、他の人の前では畏まっていつも平気そうにしていました。けれど、本当に困ったとき、いつだって自分を顧みず助けてくれるのはいつも小さなミーツェでした。


「私が甘えていたのかもしれないな。」


「え…?」


「アルギル様。ミミを連れて行って下さい。薬のせいで足元がまだおぼつかない。……私では抱き上げてやれない。」


「セルスロイ。」


「……私の気が変わらないうちに色々と迅速に進めることです。」


「セルーお兄様?」


「ミミ。テルゼで幸せにおなり。私はキジロを立て直しお前の帰る場所を守ろう。……すこし、一人にしてくれないか。」


ギルは無言でミーツェを抱き上げました。ギルはセルスロイに一礼すると心配そうにしているミーツェを抱えてラルフと教会を出ました。



******



「では、邪神がまた出てきてミーツェを攫って行ったのですか。セルスロイが気付いて追いかけたと。」


「そう言うことですね。」


ギルはすました顔でキジロ王に報告しました。セルスロイは邪神の瘴気に当てられたらしく部屋に籠っていました。話が済むと王はイソイソとギルとミーツェとの縁談を進めました。ギルは少し寂しそうなミーツェの腰を引き寄せました。


「一度、テルゼに向かおう。母も本物の「ミミ」を待ってる。」


「そうね。私もレイラ様に会いたいわ。でも……」


「大丈夫だ。セルスロイはきっと素晴らしい王になる。」



「ええ。」


憂いの取れないミーツェを心配してギルは広間のバルコニーに誘いました。ここはキジロ国が見渡せます。大きな河が城を囲み。運河に広がっています。


「……ギル、私の事、幻滅してない?」


「どうして?」


「……お父様の事とか、城で昔疎まれてたこととか。」


「そんなこと。気にしないよ。俺はミミが好きなんだ。もしミミが侍女だったら掻っ攫って逃げるつもりだったんだ。俺は、そんなこわーい男なんだよ?」


「ふふふ。……ギルは私を知らないから。ーー話を聞いて嫌だと思ったら……結婚は止めにしてくれていいの。テルゼの刻印が無ければ結婚は成立しないわ。」


「そんなこと、俺がすると?」


「わからない……。こんなこと人に話すのは初めてだもの。キジロの王  ……お父様とお母様は本当に愛し合っていたんですって。でも、周りはそれだけでは許してくれなかったの。後継ぎが出来ないと婚姻の意味がないって。だから、お父様は十数年もの間、何人も女の人を宛がわれていて、お母様はそのせいで心が病んでいったそうよ。でも、結局子供は一人も出来なかった。お父様の方が子供が望めないお体だったの。事情を知らない人はお母様のせいで子供が授からないと思っていてお母様は随分と責められたそうよ。そのうち、皆、気付き始めたの。子供が出来ないのはお父様のせいじゃないかって。その頃にはお父様もお母様以外の女性を受け付けなくなったと聞いたわ。そこで、優秀な貴族の子を選りすぐり、セルーお兄様という後継者を立てた。後継ぎの話しはこれで終りの筈……でも皮肉にもセルーお兄様のお母様はかつてお父様との世継の相手として選ばれていた人だったの。」


「それで……。」


「野心もある人だった。だから、お母様を貶めようとした。お母様がお父様の子供を身籠るしか妃の地位を守る方法が無かったくらいに。」


「ミミがキジロ王の子ではないというのは……。」


「そう。私はお母様とお父様の血縁者の子なの。お母様はご自分の為にそうしたのではないわ。お父様の為だったと思う。このことはキジロの秘密事項。私はこの国の王女だけど、本当は王女じゃないの。キジロっていう小国な上に……。」


「さっき俺が言ったこと聞いてた?侍女でもミミは攫って行ったって。正直、ミミの出生よりもセルスロイの事をミミがどう思っているかの方が気になってる。」


「……セルーお兄様を初めて見た時、私、天使様かと思ったわ。そのくらい、綺麗だった。私のせいでお母様が死んでしまって私はお母様の幼馴染だったという侍女に酷く疎まれてたの。お母様の優秀な侍女ってことで城に残って私の教育係をしていたのだけどセルーお兄様もその侍女に「愛人の子」って陰で罵られていたわ。今思えば彼女はお母様を愛していてお母様のお体を壊した私とお母様の幸せを奪おうとした女の人の子を憎んだのでしょうね。見えないところでは絶えず私たちを聞くも堪えない言葉で罵って、言い返そうものなら打たれたりしたわ。子供の頃は本当に怖かった。」


「セイレーン様はミミを庇ってくれなかったの?」


「つい先日までお母様にも疎まれていたと思ってたのだけど……お母様はお父様に罪悪感を感じて私を避けてらっしゃったみたい。一度も私は抱きしめられたことは無いわ。」


「……そう。」


「お母様が亡くなってからは一層体罰も酷くなった。私はお母様を殺してしまったから仕方ないと誰にも言えなかったの。でも、セルーお兄様は気付いてくれて助けてくれた。そうしてお兄様が成人されたとき、私の教育係はお兄様が郷へ帰してくれたの。きっと上手く遠ざけてくれたのね。お兄様が居なかったら毎日が地獄だったのかもしれない。本物の天使様みたいにお兄様が私を助けてくれていたの。お兄様は……そう私の本当の肉親みたいな大切な存在なの。」


「とっても妬けるけど。ミミにとってどれだけ大切な人かは分かったよ。」


「ギ、ギルが妬くなんて、と、とんでもないわ!」


「これからは俺にミミを守らせてくれないか?だから……。」


ギルは急にミーツェの前に膝待づきました。


「どうか、私と結婚して下さい。」


「あ、あの……。」


突然のことでミーツェは耳まで真っ赤になりました。でも、息をすうっと吸うと誰もが息を飲みそうな気高さで微笑みました。


「喜んで。」


少しその姿に見惚れてしまっていたギルは嬉しい答えにめいっぱいミーツェを抱きしめました。






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