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従者付きの掃除係

『……同じ名前なだけかもしれない。でも、掃除係のギルが従者を連れてフルハップに行くのも考えたらおかしい。…もしかしたら。』


よくよく観察すると掃除係にしてはギルの手は剣だこがあります。その晩、強引なギルの手によって同じベットに寝かされたミーツェはギルが寝息を立てたのを確認してからその腕からすり抜けました。ミーツェは考えます。


『お兄様が国を案じて誰かに調べさせていたとしたら……。』


ミーツェが「お兄様」と呼ぶ人物、セルスロイとはミーツェより8つ年上で天童と呼ばれ育った聡明な人物です。20歳で結婚した王が13年経ってもミーツェの母親と子供が出来なかったために近し貴族から優秀な子供を養子にしたのです。でも、そのわずか2年後にミーツェが産まれてしまいました。女の子だった事もあって色々と憶測が飛び交いましたがミーツェ自身はお兄様と慕って育ちました。王もそのまま後継者として育てていましたが、20歳の時、セルスロイは聖職者になると言い出し、この隣国に神官として籍を置いたのです。


『ギルがお兄様の命令で動いていたとすれば…。』


そうであれば十分納得がいきます。ともあれ、明日になればミーツェの兄かどうかわかることです。ミーツェは眠っているギルを見つめました。


『無邪気に寝てる。ふふ。』


端整な顔立ちです。片方は義眼ですが、もう片方の目は吸い込まれそうな深い緑色でまるで宝石のようでした。普段はつんけんしているのにミーツェと二人になると途端に緩んだ顔になってミーツェを抱きしめたり、キスしたりしました。


『この、柔らかい唇が……。』


額に、頬に、そして唇に降ってくるのです。


『なに、私、しっかりするのよ!ほ、ほんと、ぶ、無礼なんだから!……でも、猫が好きなんだわ。ものすごく。』


赤面しながらミーツェは不思議な気持ちになりました。もう一度キスをしたくなるような気持ちに。


「ん~。」


そのとき、ギルが寝返りを打ちました。はっと我に帰ったミーツェは飛び上がりました。バスケットに戻るつもりで枕元から離れようとしたとき……


『きゃあ!』


少しだけ目を開けたギルは腕を伸ばしてミーツェを再び腕に抱え込みます。


『え、だから、ねえ!は、離して……。』


ミーツェはもがきましたがギルは離してくれそうもありません。諦めたミーツェはギルの腕の中、眠れない夜を過ごしました。



*****



「ミミ。俺はこれから用事があるからここで待ってるんだ。」


早朝、ギルは丸くなって寝ていたミーツェにそういいました。


『あ、あなたは朝からご機嫌さんね…。』


恨めしく思うミーツェからは皮肉の言葉が。でもミーツェは猫ですからギルにはそんな恨み言わかりません。


「必ず帰ってくるから、待っているんだよ。」


ちょこんとベットの上で座り直したミーツェはギルの顔を見上げました。


ギルは当然の様にミーツェにキスをしようとしましたがミーツェにプイと避けられます。


『も、もう駄目なんだから!断固拒否!』


するとギルは心底悲しそうにミーツェを見ました。


「ミミ。必ず迎えにくるから。拗ねないでくれよ。」


『……。』


恨めしく思いながらミーツェは仕方ないとギルの頬にキスをしてあとはベットで丸まりました。



*****



角をまがる二人をミーツェは塀の上から追っていました。


『こうしていると猫の姿って便利だわ。』


自分が猫になってからは随分猫が可愛く思えます。


『お父様がどうしてあんなに毛嫌いするかわからないわ。魔女を退治したらもう「ねずみ天国」なんて言わせないわ。ふふふ……ふふふふふ。』


寝不足からかミーツェから不気味な笑いが漏れました。


『あ、古い教会に入るわ。』


教会……。ますますセルスロイの可能性が高まります。ミーツェは窓の隙間からするりと中に入ると祭壇の傍で話をする3人を見つけました。


『やっぱり……。』


薄い水色にも見える美しい銀髪を後ろに結わえ、今は黒の普段着の聖衣を身に纏っています。香り立つ美貌の持ち主と国で女性にも評判の自慢のミーツェの兄でした。


『お兄様でもあんな顔するのね。』


ギルの話を聞くセルスロイは触れたら切れてしまうのではないかと思うくらい冷たい表情です。ミーツェは優しい兄の顔しか知りません。


『もっと話が聞けるところは無いかしら……。』


話の内容が聞こえないのでミーツェは周りを見渡しました。すると、キラリと光るものが目に映ります。


『……あれは?』


それが何か判ったとき、ミーツェの体が考えるよりも先に動きました。


『危ない!』


驚いたセルスロイに突然、猫が思い切り突進してきました。


「ね、猫!?」


セルスロイが慌てて声を出しました。


そこには


腕に矢が刺さった猫が足元に転がっていました。



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