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通じ合う気持ち

「おいおい。どういうことだ!」


「デイ。悪いけどミミは諦めてくれ。」


そう、晴れやかに言うギルの目はもうミーツェしか映っていませんでした。やっと見つけた愛しい娘を彼は誰にも渡すつもりは有りません。


「はあ?」


「デイ、私、白猫の「ミミ」なの。魔女に猫にされていたの。貴方のお砂糖入りのミルクにお魚の揚げ物はなかなかのごちそうだったわ。」


ニッコリとミーツェはデイにそう言いました。もともとここに来たら正体をばらすつもりだったミーツェはビックリしているデイに笑ってしまいました。


「もちろん、港に沢山いる恋人たちの事も覚えてるわよ。」


悪戯を諭すように言えばデイは固まっています。


「……。いや、しかし、『ミミ』はロゼフォートなんだろ?」


「え?ロゼフォート様?」


その言葉にミーツェはハッとしてギルの腕を抜けだそうとしました。ですが、ギルは腕に力を籠めるばかり。


「……。わたし、あなたに買ってもらったリボンも大切な指輪も無くしてしまったの。……ごめんなさい。」


「そのこと、セルスロイに話した?」


「お兄様に?……ええ。お兄様も探してくれたけど隠していた場所にはもうなくて。」


「そう……。ねえ、ミミ。堪らないんだけど、キスしてもいい?」


「ええっ!?」


「猫の時は毎日俺としたじゃないか。」


「あ、あれは猫だし!そ、それに鼻にしかされてないわ!」


ミーツェが近づいてくるギルにそう言うと、ギルは満足そうに拒むミーツェの鼻の頭にキスを落としました。


「どうなってんだ。」


目の前に広がる光景にデイはただ口を開けて呆れていました。




*****



ギルとミーツェは会えなかった時間を埋めるようにいろいろな話をしました。ギルが投げかける質問にミーツェが答えます。どんな小さな掛け合いもミーツェの答えは新鮮だったり機転が利いていたりとギルを喜ばせました。


「ミミ、膝に乗ってよ。女の子は腰を冷やしちゃいけないって聞いたぞ。猫の時は乗ってたろ?」


木の下に座って話し込んでいたミーツェにギルが提案します。ギルはミーツェが可愛くて仕方ないようです。


「わ、私を猫扱いしないで!ギル。そんなはしたないこと出来ないわ!あ、ちょっと!」


ミーツェの抗議も聞き入れず、ギルはミーツェを膝に乗せてしまいます。


「ミミ。俺のかわいいミミ。テルゼに一緒に来てくれないか?」


ミーツェを膝に乗せてギルは耳元でそう告げます。息がかかってブルリと体を震わせたミーツェの顔は真っ赤になりました。


「それは……。」


「妻は君ひとり。母上も喜ぶよ。城に帰ってキジロ王の承諾を得よう。明日にでもミミを連れて帰りたい。」


情熱的なギルにミーツェもタジタジです。


「でも、ギルにはロゼフォート様という婚約者があるのでしょう?」


ミーツェが暗い顔をしてそう言うとギルはミーツェのお腹に回した手にギュッと力を入れました。


「ミミ。ロゼはね。俺と旅した白猫の『ミミ』だと言ってリボンと指輪をもって俺の前に現れたんだ。母上は『ミミ』と俺を結婚させたかったからロゼを俺に押し付けたけど、俺が駄目だったんだ。」


「え……。」


「君が母上に書いた手紙は一枚も届いていない。」


「まさか……。」


「誰かが俺たちを会わせまいと仕組んだんだよ。」


「……。」


誰か、とギルは言いました。それをセルスロイだというのは簡単ですが証拠もないのにミーツェの兄、次期キジロの王を悪く言うことはできません。無言になるギルをミーツェは見つめていました。


それから、ギルは一緒に城に帰ろうと言いましたが町娘の変装のままではまずいと後で会うことを約束しました。気の早いギルはすぐにキジロ王に面会を頼んでミーツェとの結婚の承諾を貰うと言ってくれました。日が暮れるまでのひと時、潮風が頬を撫ぜるこの丘で二人は時間を惜しむ様に寄り添いました。



「ミミ。それじゃあ、後で。気を付けて帰るんだよ。」


「嫌だわ、ギル。城の塀まで送ってもらって危険も何にもないわ。」


「それじゃ。」


「ええ。後で。」


名残惜しく別れる二人。秘密の通路を通ってミーツェは自室へと急ぎます。胸がドキドキして先ほどまでの事が夢のように思われました。ギルは猫だったときと変わらずミーツェに優しくしてくれました。そして、何よりミーツェにプロポーズしてくれたのです。


「夢みたい、夢みたい、夢みたい!」


早くドレスに着替えて父王の元へと急がなければとミーツェは心躍りました。こっそりと自室に戻るともう一度部屋のカギをかけて町娘の服を着替えようとミーツェはワンピースに手をかけました。しかしその手はボタンを掴むことはできません。



「そのままでいいんだ。」



聞いたことのないくらい低い声でそう言った声の主はそのままミーツェの腕を後ろで束ねてしまいます。



「え……。」



急にミーツェの背筋に冷たい何かが走りました。戸惑うミーツェに気も止めもせず、そのまま布のようなものでミーツェの腕はしばられてしまいました。


「セ、セルーお兄様……?」


唇から言葉がやっとこぼれても何かを嗅がされてミーツェの意識は遠退きました。



「私はお前が居ればそれでいい。」



……暗闇に消えていくセルスロイの声がミーツェに届いたのかはわかりませんでした。

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