求婚者
目の前が開けて来てからミーツェはデイの腕を離しました。潮風の匂いが香るこの丘はデイの船と港が見渡せます。ギルとの思い出の場所です。
「ここまでくれば大丈夫でしょう。」
一応、とミーツェはカツラを付けようとしましたが逞しい腕にそれを遮られました。
「え、と……。何か?」
首を傾げるとミーツェはデイを見上げます。
「あ、いや、すまん!」
ぱっと手を離すとデイの顔は湯気が出そうに真っ赤になっています。
不思議そうにカツラとデイを代わる代わる見つめるミーツェはどうしたものか分かりません。
「う、噂には聞いていたが、こんなに綺麗なお姫様だとは思ってなかった。あんた……いや、貴方はレイラのように美しい。」
「テルゼの王妃様に?」
「いや、見た目じゃない。その、何ていうか先ほどのまとめ方と言い、気持ちいい性格が……。」
正直失礼なことを言ったようなするデイはそれでもにっこりとしているミーツェに視線が釘漬けでした。
「ふふふ。レイラ様に似ているなんて光栄ですわ。」
デイは何とかミーツェをその場に引き止めたい感情に駆り立てられました。しかし、ミーツェは何か別に用事があるようでそわそわしています。
「すいません。助けて頂いてありがとうございます。私はこれで失礼いたします。」
栗色のカツラをサッとかぶり直すとミーツェはデイの腕をするりと抜けて走り去っていきました。
*****
その日は渋々城に戻ったミーツェですが翌日から驚くことが起きました。
「ちょっと、これは?」
ミーツェの私室に運び込まれる 花花花……。
「まるで国中の花を掻き集めたみたい。」
ミーツェが驚いてそう言うと侍女はイソイソと花束を花瓶に挿して行きました。
「どうもこうも、突然大量のお花がミーツェ様にと。まったく、ハモイの王弟ともなるとスケールが違いますね。なにやら昨日のお礼だとか。」
「御礼って……。私の方がすることなのに。」
「ミーツェ様、いつの間にゴーデイト様にお会いなさったのですか?まあ、姫様を見初められるのも無理もないですがね。」
そう言って侍女は蝋付けされた手紙を恭しくミーツェに渡しました。ペーパーナイフでそっと封を開けたミーツェは武骨で男らしいその文字を追ってため息をつきました。
私は昨日花の妖精に出会いました。
それが現実とするなら
私と会って頂きたい。
貴方の心優しい礼状に心打たれて
ゴーデイト
きっとこんなに大量の花を掻き集めたとなれば相当の労力と費用を要したはずです。テルゼの王子のお供のような形での来賓ですが、ハモイの王弟にここまでさせて会わないわけにもいきません。それと、ミーツェは手紙の裏にある暗号に気づいて笑ってしまいました。ミーツェを試しているのか、楽しんでいるのか。そこには古い詩が書きこまれていました。
「それにしても花の妖精……。ただの行き遅れの私には過ぎる言葉だわ。」
ことごとく縁談がつぶれてしまうミーツェです。ギルを想うには好都合だと思っていても自分を卑下してしまうのも仕方ありません。
「これを、ゴーデイト様に。」
昨日のうちにミーツェは丁寧なお礼状をデイに送っていましたがそのお返しこの大量の花束だと大げさすぎると思いました。この騒ぎはきっとキジロ王の耳にも届いていることでしょう。ミーツェは新たに書いた手紙に蝋付けすると侍女に渡しました。
「お父様はどうなさるかしら。」
もう一度ミーツェはため息をつきました。きっと父王は手放しで喜ぶに違いありません。どこへも嫁ぎ先が決まらない娘がハモイの王弟に申し込まれたのですから。
「デイがどうしてしまったのか分からないけれど……。とにかくギルに……。」
昨日デイにギルの面影を追ったミーツェは胸を痛めました。
一目、ギルに会いたいと。




