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ねこと少年

次にミーツェが目を覚ましたのは薄明かりの中でした。どうやらバスケットに入れられているようで鍵がかかっていて出られません。


『もしかしてつかまってしまったのかしら、私。』


カリカリと爪でバスケットを引っかいてみましたが開きそうもありません。しばらくすると外から声が聞こえてきました。


「通行証を見せるんだ。おっと、鞄は全部開けて見せるんだぞ。」


どうやら外では検問が行なわれているようです。王様がミーツェの敵の白い猫を探しているとすれば当然のことでしょう。


「おい、そのバスケットも開けろ!」


ミーツェの入っているバスケットも当然開けるように言われたようです。


「これは私のお弁当を包んでいた布しか入っていませんので…。」


少年はバスケットを開けないように頑張ってくれているようです。


『どうしよう。見つかったら親切な掃除係の人まで罰を受けるわ。』


籠が揺れてミーツェも揺れます。


「ダメだ、全部開けろ!」


役人は無理やり少年から籠を取り上げました。中のミーツェは必死に布に捕まって息を殺していました。


「ふん。もったいぶりやがって。」


バスケットを開けた役人は小さな猫が布の下に隠れている事には気付かなかったようです。

再び閉じられたバスケットが少年の歩幅に合わせて揺れました。




*****




「お前はなんて賢い猫なんだろうね。」


小高い丘に着いた少年はバスケットを空けてミーツェを外に出しました。ミーツェは少年に頬擦りされてしまいます。


『貴方は異国の人かしら…。肌の色が少し違うし、何と言っても猫がこんなに好きなのだもの。』


少年に愛情たっぷりに見つめられ、大事に抱えられては悪い気はしません。

それから少年にミルクを与えられました。しばらくすると草むらからカサカサと人が出てきました。


「ギル様!」


男の人が少年に声をかけました。ミーツェは飛び上がって少年の後ろに隠れます。


「ああ。怖がらなくっていいよ。俺の仲間だから。」


少年はミーツェを腕に抱き上げました。ミーツェは不安そうに少年を見上げました。


「その猫は?もしや今国中で血眼になって探されている…。」


「そうだよ。あの猫。勇敢な子だよ。」


「今すぐ手放された方が無難です。こんなことで見つかったら今までの苦労は水の泡です。」


「あの魔女と戦った猫を見殺しには出来ないさ。見つかったら目をくりぬかれて殺されてしまう。」


その言葉でミーツェの体はびくりと震えました。


『あのまま捕まっていたらお父様に憎まれて殺されていたでしょうね。』


そしてオリビエは高々に笑ったに違いありません。ミーツェは悲しい気持ちになりました。

縮こまったミーツェを抱き上げて少年はまたミーツェの鼻の頭にちゅっとキスをします。


「大丈夫。逃がしてやるから。」


優しい声で少年は言いました。


『鼻にキスされるのは慣れないけど、仕方ないわ。私は今猫なんだし。2度も助けてくれてありがとう。』


ミーツェは抵抗する事を諦めて少年の膝の上で丸くなりました。


「ギル様が猫好きだなんて知りませんでしたよ。」


「ふふ。どうしてかな。この猫は特別なんだ。こんな可愛い見たことないからかな。」


「確かに。真っ白で素晴らしいブルーの瞳をしていますね。」


少年と同じような浅黒い肌を持った男がミーツェに手を伸ばしてきました。ビックリしてミーツェは跳ねて逃げました。


「おやおや、相思相愛ですな。私には触らせてくれないらしい。」


「よしよし。ラルフになんかに触らすんじゃないぞ。俺が可愛がってやるからな。」


「ちょっとぐらい良いじゃ有りませんか。」


「冗談だよ。でも、怪我をしているんだ。今はそっとしてやってくれ。」


「随分とお優しいんですね……猫には。」


「うるさい。」


バスケットの布の上に戻されたミーツェは丸まって耳だけ立てていました。


「フルパップ行きの船のチケットは手に入れたのか?」


「抜かりなく。あと半時で出港です。」


「わかった。」


どうやら二人は国を離れるようです。ミーツェは迷いました。このまま国に留まるかどうか。でも人間に戻れないままこの国に留まれば見つかり次第殺されてしまいます。


『フルパップはお母様のご実家が。それに、お兄様がいるから…。』


決心したミーツェは少年に付いて行くことにしましたが、本当はそれしか手段はありませんでした。

ミーツェは心にも体にも傷を負っていてバスケットの布の上でもう目を瞑る事しか出来なかったのですから。










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