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水色の瞳

一連の事件が落ち着いてキジロの王が謁見できるようになってギルは一番に功績を労ってもらいました。


「さすがテルゼの王子だ。勇敢でそれにすこぶる美男子ではないか。」


「恐れ入ります。」


「どうだろう。うちのミーツェとの結婚も考えてくれまいか。」


「……今はまだそう言うことは考えていませんので。」


「はっはっは。惜しいなあ。しかし、その時は候補の一人として考えて欲しい。私が言うのもなんだが、ミーツェほど可愛い娘はいないぞ?」


王様の言葉にギルはタジタジでした。ミーツェ姫と言えばあのセルスロイの想い人。恐ろしいあの男を相手にしてまで結婚式の日に一度だけ見た大人しそうな姫を何が嬉しくて娶るというのでしょう。それよりもギルはあの王の寝室で共に戦った勇敢な少女が気になっていました。


「まあいい。それより魔女オリビエを倒し、この国を救ってくれたアルギル様にはなにか礼がしたい。私が出来ることなら出来る限りのものは用意させましょう。」


「それなら、勇敢な国王様の侍女とお話がしたいのです。」


「なに、私の侍女と? 侍女に貴方の目に留まった者がおりましたか。」


「いえ。私はただ話がしたくて……。」


「気に入った者がいればテルゼまで遣わしましょう。」


そう言って王様は侍女を呼んでギルの前に並べました。当然ギルはすぐにあの輝く水色の瞳の少女に会えると思っていました。しかし、目の前に並ぶ8人の侍女には見当たりませんでした。


「……。ここにはいないようです。」


「ふむ。」


その後国王は城に務める女の人を全部集めましたがギルは首を振るばかりでした。


「水色の輝くような瞳で……茶色の髪の人でした。」


「ほう、うちのミーツェも輝く水色の瞳なのだが。」


とんだ藪蛇になりそうでギルは急いで王様に頭を下げました。


「無理なことをいって申し訳ありません。どうやらこの城に務めるものではなかったようです。」


「そうか。残念であったな。しかし、水色の瞳が好みであれば……。」


「いえ。もう結構です。」


これ以上王様がミーツェ姫を押し付けてくる前にギルは退散しようと思いました。王様はギルに宝石と高価なタペストリーを渡してお礼を言いました。もうギルがキジロにいる理由は無くなってしまいました。


「ミミ……。」


彼の愛しい白い猫はどこにも居ません。代わりにギルの頭によぎるのはあの日の少女でした。


「あの子がミミだったら……俺はどんなところに居てもかっさらってテルゼに帰る。」


ギルは深いため息をつきました。


もしも彼女が彼の大切な白い猫なら。


きっともう一度会いに来てくれる。そう思ってギルは城下町に下りて猫と少女を探しました。




*****



「アルギル様はもうお帰りになるのかしら……。」


心配そうにミーツェはセルスロイに尋ねました。


「そうだね。もう瞳は取り返したのだから。」


「そう。」


「どうしたの?ミミ。浮かない顔だね。私に全部話してごらんよ。」


「……。」


ミーツェはずっとセルスロイに付き添っていました。彼は回復したとはいえ、ベッドの上で不自由な暮らしです。車いすに乗せようとしてもとても痛がるのでミーツェは悲しくなってしまいました。セルスロイはミーツェに傍に居てくれと懇願します。弱り切っているセルスロイを無下にも出来ないのでミーツェはギルに会いに行きたい気持ちを押さえてセルスロイのそばに居ました。


「この前の口ぶりでは猫になった時にミミはアルギル様にお世話になったのだろう?」


「……セルーお兄様にはなんでも御見通しね。」


「アルギル様が好きなの?」


その質問にセルスロイは自身の胸が焼け落ちるようでした。でもミーツェはそれには気づけません。頬を赤らめてミーツェはそっと頷きます。


「そう。」


「アルギル様は素晴らしい方なの。勇敢で優しくて……。」


「ずっと一緒に居たのだろう?その時の話を詳しく教えてくれないか?ほら、私はずっとベットの上で退屈だし。ミミが居なかった間どうしてたかに興味があるんだ。それにミミはアルギル様のお妃候補でもあるのだから私が味方になってあげるよ。」


「……そうね。お兄様に話したらすっきりするかも。」


そう言ってミーツェは旅の全貌をセルスロイに事細かに話しました。相槌を打ちながらセルスロイはミーツェの話すことに集中していました。


その後も暫らくはギルが城に滞在して水色の瞳の猫と少女を探していることも。セルスロイの妨害でミーツェと会わせない様になっていることも。ミーツェはまったく知らなかったのです。

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