瓦礫の下で
雪の魔女を見送るとミーツェはオリビエが残した指輪を手に取り、ギルに渡しました。
「壊せば、元に戻るはずです。」
「ありがとう」
ギルは受け取ると指輪を床にたたきつけて壊しました。すると壊れた指輪から何かが抜けて行ったと思うとギルの目から義眼が転がり落ちました。
「……戻った。」
ギルは満面の笑みで嬉しそうに言いました。ミーツェの前に来るとギルはミーツェの顔を伺う様に言いました。
「君のお蔭だよ。ありがとう。君みたいに勇敢な女の子を見たことないよ。」
ミーツェは紅くなってモジモジしてしまいます。
「いえ……。」
「君の名前を教えてくれないか?俺……いや、僕は本当はもう一匹君と同じに勇敢な猫を知っているんだ。もしかして、君は……ミミ……?」
その言葉にミーツェはビックリして顔を上げました。急いでギルに返事をしようとミーツェが顔を上げた時、扉の向こうから大臣たちがやってきました。
「大変です!大広間でセルスロイ様が瓦礫の下敷きに!」
その声を聞いてミーツェの頭の中は真っ白になりました。
「助けに行く。」
すっと顔を大臣の方に合わせたギルが言いました。ミーツェもローランドと王様のことを大臣達に頼むとギルの声に押し出されるように王の寝室を出ました。
*****
ギルが到着した時、セルスロイは倒れた柱の上に座っていました。自力で這い出したようですが折れた両足がだらりと垂れさがっていました。
「すぐに駆けつけれなくて悪かった。」
「いや、私がアルギル様に先に行くよう勧めたのです。……オリビエは?」
「倒した。」
そこでセルスロイは顔を赤くしてギルの後ろに立つミーツェを見つけました。セルスロイは一瞬嫌な顔をしましたがすぐにミーツェに向かって微笑みました。
「足が折れてしまったのですが足を板に固定するまで支えてもらえませんか?」
「えっ!?も、もちろん!」
ミーツェに支えられてセルスロイは足の手当てをし始めました。ギルはミーツェと別れるのは名残惜しい気もしましたが同時にラルフの手当てもしなくてはと思い当たりました。それに、きっとこの国の侍女であればまたすぐ会えると思ったのです。
「また後で。君とはゆっくりと話がしたいよ。」
そうギルに言われてミーツェも名残惜しそうにギルを見上げました。
「ええ。」
ドキドキしたミーツェはそれ以上の言葉を発することは出来ませんでした。ミーツェの瞳は揺れていました。それは恋をする娘の瞳です。ふわふわした気持ちになってミーツェはまたギルに会えるのだと胸が締め付けられました。
……そんなミーツェを
セルスロイが凍った瞳で見つめていました。
*****
「セルーお兄様。大丈夫?」
「ああ。しくじったよ。」
思っていたよりセルスロイは酷く足を痛めたようでした。
「テレジオ様は?」
「先ほどポルトレートが来て正気を取り戻したって言ってたわ。大臣たちもオリビエに軽い暗示をかけられていたみたいね。ローランドも気を失っていただけで大丈夫だって言っていたわ。」
「ミミ。酷く痛いよ。私の傍に居てくれるかい?」
「……セルーお兄様が弱音なんて……。大丈夫よ!私が付いてるわ。」
「そう言ってくれると心強い。」
ミーツェは精一杯微笑みました。セルスロイには言えないと医者はミーツェに言いました「セルスロイ様の足はもう動く見込みは無いかもしれません。」と。こんなに弱気になったセルスロイをミーツェは見たこともありません。そう思うとミーツェは悲しくなりました。
「私が出来ることは何でもするわ。」
「……ミミ。」
その言葉にセルスロイの胸は震えました。
青白く血色を無くした美しいセルスロイを見て誰もが同情しました。もちろんミーツェも。
セルスロイは思いました。
ミーツェを手に入れることができるなら両足を失っても構わないと。
セルスロイが黒い手袋を口で脱ぐ人みたいになっています。