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影の正体


くくっ。



暗闇の中から湧き出てきた地獄の水の様に恐ろしい声色でオリビエが笑い出しました。


「様子が変だ。」


ギルが呟きました。オリビエは下を向いたままですが異様な雰囲気です。


「影が……。」


今度はミーツェの声でギルはオリビエの影を見ました。オリビエの影は恐ろしい蛇の形をしていました。


「邪神……。」


「違う……違うわ。」


「どうした?」


「私たち、オリビエを倒そうとばかり考えていました。でも、本当にしなくてはいけないことは邪神をオリビエの体から追い出すことだったんじゃないかしら?」


「……。」


「アルギル様。影なら……あの聖剣で心臓を刺すこともできると思いませんか?」


「影の心臓を?」


「そうです。」


どうしてだかわかりませんがミーツェは確信して言いました。その力強い声に励まされてギルは聖剣を床から抜き、ミーツェの顔を初めて正面から見ました。その水色の瞳は吸い込まれそうに輝き強い意志を示してキラキラとギルを魅了しました。


「君は……まさか……。」


ギルはその瞳を見たことが有ります。ギルをどうしようもなく魅了したあの猫と同じ瞳の色……。


「アルギル様!」


ギルがミーツェに問いかけようとしたその時、オリビエの体がゆらりと動きました。


「っ……話は後だ!」


オリビエは頭を垂れたままミーツェたちの方へ手のひらを向けました。途端、黒く不気味なものが鞭のように飛んできました。


「危ない!」


ギルはミーツェを抱えて床に転がります。


「私がオリビエを引き付けます。アルギル様は邪神の心臓に!」


ギルが頷くとミーツェとギルは二手に分かれました。




  何をごちゃごちゃと…。小賢しい奴等だ……しかし、もう逃げられんぞ。



その声は明らかにオリビエのものではありません。それでもミーツェは気づかなかったように言葉を続けました。


「もうやめて!オリビエ=マートン!」


ミーツェが叫んだのでオリビエの体はミーツェの方に向かいました。


「今です!アルギル様!」


ミーツェは王の寝室のカーテンを力いっぱい引きました。


 


 光!!……



窓からは光がさしていました。そうすることでオリビエの影は……



ぐ、ぐえぇええええええぇえええ



ギルがオリビエの影の心臓辺りを聖剣で刺すと大蛇の影は痛みに悶えるように揺れ始めました。悲痛な叫びは部屋に轟きます。



……人間ごときが……


我を……


ぎぃいいいいいいいい



やがて影はもう一度叫び声を上げながらオリビエの体から離れて行きます。




愚かな人間ども……誰しも悪の感情を持ちそれは我の糧となる


我は永遠に糧を失うことはない……




黒い影はまっすぐにギルに向かいます。ミーツェは両手を胸で組むと必死に祈りました。




  どうか、ギルを助けて!!




   お願い!!



ーーーバシン


その時、何かが撥ねるような音がしました。

何かがミーツェの頬に当たります。



「冷たい。」



見上げると部屋の中にキラキラと光が乱射していました。部屋中が光に包まれています。



「雪の魔女!」


そこでギルの声もしました。ギルはどうやら無事のようです。



聖なる光か……。


忌々しい。



恐ろしい声はそう言い残して窓からすっと消えて行きました。




*****



雪の魔女は部屋の中の光を氷の塊で増幅して邪神を追い払いました。闇の邪神は光を嫌うのです。床に落ちたオリビエの体は見る間に灰になってしまいました。とっくにオリビエの体は朽ちていたのかもしれません。雪の魔女はその灰を残らず袋に入れました。


「一緒にお墓に入れてあげるのですね。」


そう、ミーツェが言うと雪の魔女は泣いているように笑って大事そうに袋を胸にしまいました。



ありがとう……



雪の魔女がそう言ったように聞こえました。


「貴方に私の祈りが届いたなら……。明日から毎日貴方の為に祈るわ。」


ミーツェがそう言うと雪の魔女はクシャクシャの顔をしました。そして感謝を込めてミーツェの頬にキスを落とすと日の光と共に消えて行ってしまいました。

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