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オリビエと聖剣

「オリビエ!」


ドカドカという足音と共にやってきたのは大臣ではなく、ギルとラルフでした。どうやらラルフは負傷したようで肩と左の太ももから血が流れていました。ギルはラルフを壁に寄りかけて座らせるとオリビエに向かいました。


「くそっ!死ななかったのか!」


恐ろしい形相でオリビエが言いました。その一瞬、ミーツェの首を絞めていた王様の手の力が緩みました。それを見たローランドは王様に飛びかかりました。王様の手から逃れるとミーツェは体を捻って自身のポケットの中から瓶を出しました。


「飲んで!」


ミーツェは王様の口に小瓶を押し付けるとその液体を無理やり流し込みました。大半は口の端から流れ、ガウンに滲みこんでいきましたが何とか口には入ったようでした。暴れる王様に跳ね飛ばされたローランドは窓際に勢いよく飛ばされて倒れ込んでしまいましたが薬を含ませるが成功したことを見てオリビエの顔は増々歪みます。


「は、図ったな!まったく忌々しい小娘だ!」


予めミーツェはローランドと薬を半分にしていました。どちらかが、王に。その可能性は高い方がいいと話し合った結果でした。オリビエは舌打ちして今度はギルと向かい合いました。


「うう。」


王は薬が体に入ったのか呻きながら喉を押さえて倒れ込みました。ミーツェは王様を抱えながらギルたちを見ました。ギルは聖剣を引きずるように持っています。聖剣は教会の象徴に作られたもので戦闘用のものとは違います。装飾も華美であって切れ味なんてものもありません。


「あれが、聖剣……。」


ミーツェは思っていたものとは随分違う聖剣に思わず声が出ました。それはその場に居た皆が思っていたことのようでした。ギルは重くて扱いにくい聖剣に渋い顔をしています。もともと雪の魔女に直接聞いていないギルとラルフはこの聖剣に強く不信感を抱いていました。


「うおおおおおおおっ」


それでもギルは力の限り聖剣を振りかざしてオリビエに向かいます。


「はははっ!そんな剣で私が倒せると思ったか!瓦礫の下で死んでいた方が良かったと後悔させてやる!」


難なくオリビエはギルの剣を交わすとケラケラと高笑いしました。振りかざした剣は床に突き刺さり、ギルは引き抜くのに力を入れなければなりませんでした。


「あれじゃあ、戦えないわ!」


ミーツェはおろおろしました。雪の魔女は確かにあの聖剣だと言っていました。しかし、あれではギルは……。


ミーツェはオリビエがニタリと笑いながら細身の剣を構えるが見えた途端声を上げました。


「貴方がアルギル様の瞳を奪って指輪にしたのは貴方の最愛の息子コニーの瞳の色と同じだったからでしょう?」


「なにを!」


オリビエは剣を捨てると恐ろしい顔をしたままミーツェに向かって魔法の詠唱を始めました。それを見たギルはオリビエが投げ捨てた剣を拾ってオリビエの腹を刺しました。


「あははははっ!」


刺されたオリビエは笑いながら剣が腹に刺さったままギルの腕を掴みました。ギルの顔が青ざめます。オリビエの体からは一滴の血液さえ流れなかったのです。


「……馬鹿な……。」


ギルの落胆した声を拾ったミーツェは王様をゆっくりと膝から下すと聖剣の刺さっている床へ急ぎました。ミーツェは何としてもギルを助けたかったのです。


「思い出してオリビエ=マートン!コニーもホークもこんなこと望んだりしないわ!あなたが愛してたように二人もあなたを愛していた筈よ!」


「その名前を呼ぶな!」


喚きながらオリビエはギルを軽々と床に転がすとギルの顔を見ない様に背中を蹴り上げました。「ううっ」とギルはうつ伏せたまま唸っています。増々焦るミーツェは頭を巡らしました。明らかにオリビエはミーツェの声に反応しています。ミーツェはギルに駆け寄りたい気持ちでいっぱいでしたがギルはオリビエの向こう側で行けそうも有りませんでした。ミーツェは聖剣に手をかけて考えます。どうしたらこの剣を使えるのかと。


「貴方の復讐はとっくに終わったはずよ!オリビエ=マートン!」


ミーツェがそう叫んだ時、俄かにオリビエの瞳が揺れました。


「これ以上罪を重ねてコニーとホークを悲しませないで!」


そこでガクンとオリビエが突然頭を垂れました。その隙を見てギルは体を反転させて素早くミーツェの元へと滑り込みました。


「王様付きの侍女か?なんて無茶するんだ。オリビエにはむかうなんて!」


ギルはそう言ってミーツェの腕を取って自分の後ろに抱え込みました。


「アルギル様こそ!私はどうなってもいいんです。でも。貴方はあなたの国を背負うお方です!」


ミーツェはギルが自分を庇ってくれることが嬉しく思いました。国王の侍女だと思っているのに助けてくれるとは思っても見なかったからです。


「俺は自分の為にオリビエを倒す。それだけだ。でも、君は違うだろ?」


背中越しに渇望していた声が聞こえてミーツェは涙ぐみました。こんなにもギルは優しい。少しだけ、躊躇ってミーツェはギルの背中に軽く触れました。この人を失いたくない。この人を助けたいと、ミーツェは思いました。















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