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母の想い

『私はお父様の子ではなかったのね……。』


キラキラと月を映しだす水面には白い猫の姿が映りました。ミーツェは城の裏庭にある小さな噴水の前に座っていました。昔からなにか落ち込むとここへ来ます。誰にも見つからずに泣くことができる場所だからです。もっとも猫になってからは初めて訪れました。


『……いろいろと、頷けるわ。でも、お父様も分かっていて子供を宿したのにどうしてお母様はそこまで私を嫌ったのかしら。』


水面に移る白い猫はその答えを知っていそうにも有りません。そのまま水面を見つめていたミーツェはその後ろに揺らぐ影を見つけました。


『しまった!』


誰かに見つかってしまったと思ったミーツェは次の瞬間逞しい腕に掴まれました。


「ミミ。私です。」


逃げようとしてジタバタしていたミーツェは顔を上げました。そこには微笑んだセルスロイが立っていました。


『セルーお兄様。』


セルスロイはミーツェに小さな宝石箱を見せました。


「これは、ミミが結婚するときに渡す様にとローランド様がセーレン様に預かったそうです。」


小さな鍵を開けるとそこにはアクアマリンをあしらった見事なネックレスが現れました。


『これは……。』


それは見事な細工でどれだけ手間がかかっているかが伺えました。留め金の裏には「わが娘ミーツェに愛を」と有りました。


「……ほかには何も入っていないようですね。」


セルスロイが小箱を調べましたが宝石箱には他には何も入っていませんでした。


『……貴方の呪いは許す気持ちから解かれる……。』


ミーツェの頭には雪の魔女に貰った言葉が甦りました。そして、恋を知ったミーツェには理解できたのです。母の想いが。


『そう……。そうだったのね……。お母様は……ローランドを愛してしまったのね。』


父王の瞳の色を表すならばきっと青いエメラルドを使ったはずでした。淡い水色はきっとローランドの瞳の色。セーレン王妃はローランドを愛し、そしてきっとローランドも……。


『ローランドが独身を貫いたのは……。』


ミーツェの瞳から涙が落ちて行きました。


キラキラ……


キラキラ……


『お母様は私を愛していなかったんじゃない……愛してると伝えられなかったんだわ……。』


猫はふわりと光に包まれると徐々に人の形へと変化していきました。


人間に戻ったミーツェは嗚咽をくりかえしながらセルスロイに抱きついていました。


セルスロイはミーツェの頭のてっぺんに頬をつけながら愛しそうに彼女を抱き留めていました。




******



人間に戻ったミーツェは急いで侍女の服に着替えました。ギルの母親と違ってミーツェは「替え玉の人形」が塔に閉じ込められているので見つかると騒ぎになります。昔、城を抜け出すのに使っていた栗毛のカツラをかぶるとそこにはどこから見ても年若い侍女にしか見えなくなりました。


「呆れてるでしょう?セルーお兄様。」


「いや、それじゃあ、見つからないはずだと感心しているんだよ。」


ミーツェの恰好を見てセルスロイは噴き出しそうになっています。ちょっと膨れたミーツェはその姿を見て一緒に笑いました。


「私はローランドを元に戻すわ。きっと……戻るはずだから。お兄様はギルたちと一緒にオリビエを倒して。」


「ギル?アルギル様の事ですか?随分親しそうに呼ぶんですね。」


「えっ。ああ。猫好きだったから……とってもよくしてくださったの。あ、アルギル様は。」


ミーツェが真っ赤な顔になったのでセルスロイは渋い顔をしました。


「私はローランドとお父様を説得するわ。きっと目覚めの薬もどこかに落ちているはずだもの。」


「分かりました。では、私はアルギル様と共に聖剣の力を信じて。」


「雪の魔女が言ってたの。だから大丈夫。きっとギルも自分の目を取り返せるわ。」


ミーツェはギルの元へ飛んでいきたい気持ちを押さえてそう、言いました。……ミーツェは怖かったのです。人間に戻った自分にギルががっかりするんじゃないかと。そして思いました。もう、猫の時のように愛されることは無いのだと。





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