ネズミのローランド
『ローランドが心に抱えてるものってなんだろう。』
ミーツェは見回りに出たローランドの背中を思い出して考えました。
宰相ローランドは父親の従兄にあたる男で顔つきも王にとても良く似ていました。いざとなれば影武者になることも暗黙の了解だった人です。その為か家族も持たず独身を通していました。一時は王から家族を持つようにと進言も有りましたがミーツェが産まれてからはそんな話もいつの間にか立ち消えていました。
『昔から穏やかで優しくて……。後ろ暗いところもないと思うんだけど。』
確かに王の影のような存在でしたが、臣下にも慕われていて目立ちたいような性格でもありません。小さいころは本の虫と呼ばれていて人付き合いも苦手だったと聞きます。
『お父様に憧れていたというのは聞いたことがあるけれど、そういう劣等感とかなのかしら……。でも、お父様とは違った形で十分認められていたし……。』
王は剣術に優れていましたがローランドは勉学に優れていました。姿は似ていましたがそれぞれ違う分野で認められていた筈です。
『さっきの様子ではローランドから話してくれそうもないわ。』
取り敢えずローランドが自信を持てるように褒めて見ればどうだろうとミーツェは考えていました。
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『ネズミにされてからずっとオリビエを見張っていたのですが、最近では週末の出し物として悪趣味な戦いが続いています。そろそろ国の重鎮たちが危険です。この間は二人を逃がしたからいいものの、どんなことを言いつけて戦わすかはわかりません。』
『ギルたちは聖剣を持っているわ。聖剣をどうにか普通の剣に見せかけることが出来たら堂々と剣を従えて大広間のオリビエの前に立つことができるんじゃないかしら。』
『その、テルゼのアルギル様が隠れているのは西の外れの灯台なのですね。私が行って打ち合わせいたしましょう。』
『私も一緒に行くわ。』
『ミーツェ様はここに。レーモン親子を逃したことでオリビエは少し警戒しています。それに、この国では猫は見つかったら国外追放……実は裏で処分されています。貴方様のお姿は危険極まりない。幸いここには私が訓練したネズミが居ます。……少々臭いますがミーツェ様を守ってくれるでしょう。』
『確かに猫には皆、過敏だから……足手まといにならない様にここでオリビエを見張ってるわ。これを持って行って、ギルにあなたが私の使いだってわかるように。』
そう言うとミーツェはローランドに大切な指輪のついたリボンを取るように頭を下げて首を伸ばしました。
『ネズミの手は猫ほど扱いの悪いものではございません。それに、文字の書いた紙を使えば簡単な会話が出来ると思いませんか?私はずっと味方になってくれる人間と接触するために色々と用意してきたのです。』
ローランドはミーツェが不安にならない様に優しく言いながらリボンを器用に外しました。
『ローランドがネズミ軍隊の指揮官になってたなんてびっくりしたわ。この子たち、猫を知らなくて助かるわ。知っていたら守ってくれないで逃げ出しちゃうものね。』
ミーツェもおどけて答えました。ローランドがミーツェの為に言い出したことは絶対に覆さないと知っているからです。いつだってローランドは十分すぎるくらい守ってくれます。ギルの元に走って行きたい気持ちを押さえて、ミーツェはローランドに任せることにしました。
『では、後で報告に来ます。待っていてください。』
『気を付けてローランド。』
何とも言えない気持ちになってミーツェはローランドに声をかけました。