再会
『何て事を……。』
大広間をこっそり覗いたミーツェは思わず唇を噛みしめました。戦っていたのは総隊長のレーモン。対するのはその息子のアリアです。どちらも涙目で疲労困憊している様子でした。ギラギラと光る剣と似合わず服は軽装で二人の体にはたくさんの刀傷が出来ていました。周りには貴族たちがクスクスと談笑しながら思い思いに侍っています。
「御願いです。こんな無駄な戦いは……。」
レーモンが玉座の方を向いて懇願します。ですが、そこに座っている者は平気な顔で答えました。
「私に忠誠を誓うと言うならその反逆者を仕留めるなんてたやすいことであろう。」
『お、お父様!』
声を聞いてミーツェは耳を疑いました。あの心優しい父がそんなことをさせているなんて。
「ぐずぐずしてないで早く始末してしまいなさい。」
王の隣で美しく着飾ったオリビエがつまらなさそうにワインを持ちながら言いました。
『アリアが反逆者だなんて、嘘よ。』
その時、何か手は無いかと広間を見まわしたミーツェの耳に何かが軋む音が聞こえてきました。
ギ…
ギギギ……
「危ない!柱が倒れるぞ!」
誰かのその声で大広間は騒然としました。叫び声とと主にその場にいた人々は慌てふためいてそれぞれ逃げて行きました。
ドオオン……
砂煙と共に柱はちょうどレーモンとアリアの間に倒れ込みました。他の誰にも見えなかったかも知れませんが二人は上手くその場を逃れ、崩れた柱の元には数匹のネズミが見えました。
『あれは、きっとローランドだわ!二人を救うために柱を倒したに違いない!』
ミーツェは素早く体を広間に滑り込ませると物陰をぬって柱の元へと急ぎました。
『ローランド!』
すると突進してくる猫を恐れることもなく、驚いたように佇む一匹のネズミがこちらを見ていました。
*****
『踊りや詩、軽業師などに飽きたオリビエは王様をそそのかして自分に不信を抱いている家臣たちに難癖をつけては毎晩殺し合いをさせているのです。今までにもう、10人ほどの犠牲者が出ています。』
『悪趣味だわ。どこまで酷いことをすれば気が済むのかしら。』
ローランドネズミに誘導されながらミーツェはいくつもの狭い通路を通って物置部屋の屋根裏に行きました。そこはローランドがネズミになってから一番安全な場所でした。
『しかし……ミーツェ様がご無事で何よりです。心配したのですよ。』
『この姿ではここに居るのは危険だったの。だから、親切な人に助けてもらってテルゼまで行ったのよ?』
『!!あんなに遠くまでですか!』
目の前のネズミは酷く狼狽していました。
『平気よ?ローランド、私は元気だもの!ローランドだってネズミに変えられてしまったのだから気にすることは無いわ。それより、オリビエを早く何とかしなくっちゃ。』
『……あなたはお強い。その強さがセーレン様に少しでもあれば……。』
『ローランド?お母様が何?』
『いいえ……。何とかこの体だけでも元に戻れないものか……。』
『上手く行けばローランドは戻れるかも。戻れる方法は知っているの。』
『本当ですか?』
『ええ、でも簡単なようで難しいの。貴方の中にある劣等感か罪悪感……きっと大きく心を占めているものが解消されたら元に戻れる筈なの。』
ミーツェがそう言うとひと時沈黙が流れました。
『ローランド?』
『……それなら……私は…戻れそうもありません……。』
やっとのことで声を絞り出したローランドはそう言うとそのままミーツェの視線を外してしまいました。