セルスロイと猫
「……。」
「先日お会いした時に教えて頂きたかったものです。私の義父と慕った王の大切な結婚式で騒動をおこした猫をこっそり逃がしてきたと。」
これにギルは言い逃れできる気はしません。しかし、猫を引き渡せばセルスロイは猫をキジロに引き渡すかもしれません。……猫は殺されてしまうでしょう。
「黙っていたのは悪かった。俺にも恩のある猫だったのだ。言えば、猫嫌いのキジロに引き渡されると思って傷が治るとフルハップで逃がした。」
「……。」
ギルはそう、ミミの為に嘘をつきました。少し考え込んだセルスロイでしたが、やがて
「そうですか。私のせいで怪我を負った猫をどうこうしようとは思っていません。」
そういうとどの辺りで逃がしたのか、と詳しくギルに問い詰めました。ギルはそれに適当に答えました。
セルスロイはどうやら本気で猫を探す気でいるようです。教会と聖剣を渡してもらえるよう掛け合うと約束してようやく解放してもらえたギルたちは宿に向かって歩きました。ラルフは眉間にしわを寄せています。
「猫に危害が加えられないのでしたら正直にお話しになった方が良かったのではないですか?」
「う…ん。最初に嘘をついてしまったからな。」
聖剣に協力的な態度のセルスロイにギルは悪い気がしました。しかし、危害を加えないとしてもミミを手放すつもりはこれっぽっちもありません。
「やっぱり、駄目だ。ミミは俺の猫だ。」
そう断言したギルにラルフはそっとため息をついてついて行きました。
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「あの白い猫はミーツェだったに違いない。」
珍しく部屋の中をセルスロイが落ち着きなく歩き回りました。そうであれば自分を庇ったことにも納得がいきます。
「私に助けを求めて会いに来ていたんだ。」
オリビエに父親の嫌う猫の姿に変えられてひどい扱いをされて逃げて来たに違いありません。
「ああ、あの時、わかっていれば!」
セルスロイは悔しくて堪りませんでした。でも、今は猫を探すことの方が大切です。
「今すぐ探さなくては。」
そう言うとセルスロイは腕の良い絵師にすぐ来るようにと連絡を取りました。
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一方何も知らないミーツェはディーに入れてもらったミルクを堪能していました。
『セルーお兄様に会いに行こうかしら……。でもその隙にギルたちがキジロに向かってしまったらキジロへ帰れなくなるし。』
ミーツェは自分の国の民を心配していました。オリビエに牛耳られている今、酷い目にあっているに違いません。
『オリビエはきっとギルが倒してくれる。そうしたら……ローランドを見つけて、お父様を目覚め指して……。』
そこまで考えてミーツェは深くため息をつきました。肝心の人間に戻る方法は曖昧なのです。
「『呪いは許す気持ちから解かれる。』っていったいどういうことなのかしら……。』
器の白い波紋を目で追いながらミーツェは暗い気持ちになりました。
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「ミミ!」
その声が聞こえるとミーツェの体はふわりと浮きます。
『まあ、ギル。』
「大人しくしてたかい?デイは君に意地悪しなかった?」
「おいおい、恋人扱いだな。特別待遇で世話してやったのに。」
ギルはチラリとデイを見ると白猫の鼻の頭にキスしながら言いました。
「ありがとうデイ。」
「やれやれ。」
ギルの溺愛ぶりにはデイも溜息しか出ません。
『ギル、恥ずかしいから、もう勘弁して。』
ミーツェは真っ赤になってもがくのですがギルは離してくれません。
『元に戻ってもこうやって大事にしてくれるかしら……。』
淡い期待でミーツェの胸はいっぱいです。王妃からもらった約束の言葉と額へのキスがミーツェにその自信を与えてくれていました。