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誓いの白い花

王とギルが晩餐に出席してデイを説得している頃、ミーツェはシマ猫を探していました。ミーツェがデイを説得する必要もなさそうですし、一人で悩んでいるよりシマ猫に話を聞いてもらって相談しようと思ったからです。


『シマさん、どこ行っちゃったのかしら。』


ギルの部屋にも帰っていないようです。ミーツェは急に心細くなりました。


『体調も悪かったのに……いったいどこへ。』


部屋の中を探し回っていると本棚の所にあった突起を押してしまいました。するとガラガラと音がしながら本棚の後ろから隠し部屋が出てきました。


『これは?』


どうやらギルの秘密の部屋のようです。そこには小さな机と沢山積み重なった本が所狭しと並べられていました。その多くは魔法に関するもので、呪いを解く方法やオリビエに関する調査票なども置いてありました。その中でミーツェが目を引いたのは机の上に会った美しい刺繍の柄が入った小さな赤い本です。


『これだけ他の本とは違うみたい。』


ミーツェは器用に前足でパラパラと本をめくりました。



〇月〇日


作法と国の歴史の勉強。言葉遣いを直す授業があった。

発音がおかしいと教師に何度も注意された。

今日はイーサンも執務が忙しくて来ないらしい。



〇月〇日


大臣に嫌味を言われる。

先月のパーティにイーサンが私を同伴しなかったのは私が

「恥ずかしい王妃」だからだと言っていた。

ムカつく。



〇月〇日

イーサンにドレスを贈ってもらった。

大臣の娘に「肌の色が合わない」と言われて部屋からでてすぐに

着替えた。



『これって王妃様の日記?』


内容からすると王妃のもので間違いないようです。ミーツェは読み進めるとため息をつきました。


『どうやら王妃様は異国に来て色々とご苦労されたみたいね。イーサンって言うのが王様のことだとしたら……。王様の話しと合わせると、彼女は王様に愛されていないと思っていたのではないかしら。』


ミーツェは考えつくとなんとか王妃の眠る部屋にいけないかと思案しました。


『王妃様に王様が愛してることを話してあげれば目覚めることができるのではないかしら。』


しかし、王妃の部屋は3つの扉の奥にあり、おいそれと入れる筈もありません。


『そうだわ、シマさんも探さないと……。どこかで倒れたりしていたらどうしよう。』


ミーツェはシマ猫が居そうなところを探しました。けれどなかなか見つかりません。がっかりと肩を落として歩いていると門番の部屋から声が聞こえてきました。


「……それが生ごみが乗ってるのかと思ったら具合の悪そうな猫でよ。」


その言葉で立ち止まったミーツェは会話の内容にますます耳を傾けます。


「取り敢えず後で死んだかどうかみてくるさ。」


「中庭の東屋の屋根の上だろ?庭番にさせたらいいじゃないか。」


「あそこは王妃様のお気に入りの場所だったんだ。猫なんて入れたのを知られたら俺が咎められねえか?」


「じゃあ、こっそり始末するんだな。」


「ああ。」


その会話を聞いたミーツェは顏が青くなりました。


『シマさんに何かあったらどうしよう!』


ミーツェは胸を締め付けられながら東屋に急ぎます。


『どうか、シマさんが無事でありますように。』




******




ミーツェが東屋に近づくと東屋の屋根の上にぐったりと倒れているシマ猫がいました。


『シマさん!』


ミーツェが揺らしてもシマ猫は目を開けません。


『シマさん!お願い!目を開けて!』


ミーツェの目から溜まっていた涙の粒が次々と落ちました。すると……


『ん……?』


シマ猫がようやく目を開けてくれました。


『ミミ、あんた、どうしたんだい?』


『シマさん!シマさん!シマさん!』


のっそりと立ち上がったシマ猫にミーツェは堪らず抱きつきました。


『ミミ、泣いているのかい?』


『だって、シマさんが目を覚まさないから……どうしようかと!』


興奮したミーツェは涙が止まりそうにありません。シマ猫は困った顔をして、でも嬉しそうにミーツェの背中をトントンと優しく手で撫でました。


『ごめんよ、ミミ。ここで日向ぼっこしてたら寝てしまったんだ。なんだかここは落ち着いてね。』


『お体は大丈夫なんですか?』


その質問にシマ猫は苦笑して答えます。


『実は城の中に入ると頭がズキズキするんだ。もしかしたらゴブリンの姿にもどってしまうかもしれない。そうなったら、私は森に帰るよ。』


『そんな……せっかくギルのお母様の悩みの元が掴めそうだったのに。まだ帰るなんて言わないでください。シマさんがいると心強いんです……。』


『……ふうん。それが解決すればギルの母親は呪いが解けるのかな?』


『雪の魔女の言っていたことがそうなら、解けるはずです。』


『いったいどんな負の気持ちが呪いに影響していたんだい?』


『私の推測でしかないのですが、ギルのお母様は王様に愛されていないと思っていたのではないかしら。元々貴族ではない方だったようですし、ここで居場所がないと感じていたのかもしれません。意地悪を言う方も多かったようですし、言葉にも苦労されたみたいです。』


『……。』


話しながらミーツェがシマ猫を見るとシマ猫が頭を抱えていました。


『シマさん!どうしたの!?』


『あ……頭が……。』


『大変!どうしよう!横になりますか?』


慌てたミーツェがシマ猫に駆け寄ると大丈夫だと立ち上がろうとしたシマ猫が足を滑らして下に落ちてしまいました。


『シマさん!!』


ミーツェは急いで下に降りるとシマ猫が満開の小さな白い花の上に落ちていました。


『シマさん?』


『この……この花は「レイラ」……私の祖国の花。イーサンが決して枯らせないと誓った私と同じ名前の花……。』


見るとふかふかの花の上のシマ猫の体は異常がなさそうでした。でも、シマ猫の目からはぽろぽろと涙が落ちていました。




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