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ねこと告白

ミーツェは頭を巡らせます。


『なにか、見落としているんじゃないかしら。』


デイはギルの叔父だというのも納得で浅黒い日に焼けた肌に漆黒の髪をしていました。王妃と似ています。


『私はオリビエにお父様が最も嫌いな猫に姿を変えられたわ。』


ギルの母親はいったいどんな呪いをかけられているのでしょう。それ以上思いつかないミーツェはふと王様が気になって寝室の窓辺に行って様子を伺いました。王は寝室のベットの上で天井を見つめていました。


『王様には外の騒ぎは内緒なのかしら。』


大きな鐘の音がしたのです。内緒にしていたとしてもハモイの船が来たことは気づいているかもしれません。寂しそうな王の顔を見つめていると不意にミーツェは王と目が合いました。すると王はゆっくりと起き上がると窓辺に立ち、窓を開けてミーツェを部屋に招き入れました。


「お前はアルギルがかわいがってる猫の……ミミだったかな。」


まだ体が重いのか王はミーツェを抱き上げるとベットに腰掛けました。ミーツェは驚きましたが王の問いに頷きました。


「ハモイの船が来たようだね。レイラを連れ戻しに……。」


『やっぱり気づいていらっしゃったのね。』


ミーツェの声を聞くと頷いた王は遠い目をしながらミーツェの頭を撫ぜ、話し出しました。


「なにかと他の連中には話せないからな。レイラを愛していると言えばそれを利用しようとする者もいるし、消そうとする者もいる。私がレイラに執着すればするほど……レイラが危うい。皆は知らないが本当はレイラとの結婚は政略結婚に持ち込んだ私の片思いなのだよ。ずっとレイラは私の憧れだった。」


国が大きくなるほど問題も複雑です。テルゼの王が王妃を娶った頃は国の中で二つの派閥が対立していました。


「昔、私がまだ10歳だった頃、ハモイの隣国のアートンに視察に行った時のことだ。ハモイとの国境近くの港町で私は従者を巻いて船を見に行ったんだ。なに、一度大きな船を見てみたくてね。そこには海賊船が止まっていて甲板で子供たちが遊んでいて、その中に美しい漆黒の髪をした少女が居たんだ。私はその娘に見とれてしまって、もっと見ようと身を乗り出して海に落ちてね。……初めて深い海に落ちて気が動転してしまってジタバタしていたら「落ち着け!」って耳元で声がして、振り向いたらさっきの少女が私を助けに海に飛び込んで来てくれていたんだ。当然その娘もびしょ濡れで、でも恨み言ひとつ言わずに陸に上げてくれてからも「大丈夫か?」って声をかけてくれた。……その笑顔が忘れられなくてね。その後ハモイが内部紛争の末に悪評だったそれまでの王族が一掃されて海賊呼ばわれされていた現王になった時、私を救った少女が王女となっていたのを知ったんだ。それがレイラ。私が初恋を実らせるために何とか頑張っていたなんて誰も知らないだろうがね。」


王は目を細めて悲しそうにしていました。


「レイラはここに来てからすっかり元気が無くなってしまった。私の我が儘で王妃にしたばっかりに。ハモイが返せと言うなら仕方ないのかもしれない……けれど……誰にも渡したくないのだ。」


ミーツェを撫ぜる手が震えていました。誰にも打ち明けることのない告白。今まで弱音を吐くことも出来なかったのでしょう。


『王妃様を深く愛していらっしゃるのね。何とかゴーデイト様が帰ってくれないかしら……。王様、私、ゴーデイト様になんとか帰ってもらえるように頼んできます!』


ミーツェはそう言うと王の膝の上から床に降りて勇ましく王を見据えました。


「お前が何とかしてくれるのかい?」


キョトンとしている王にミーツェは頷きました。少しでも王の気持ちが報えないかと思いながら。


「ふふ。お前は可愛いな。アルギルが気に入るわけだ。じゃあ、頼んだよ。」


王は猫が何とかしてくれるなんてこれぽっちも思っていなかったでしょう。ミーツェが人間だなんて思ってもないんですから。でも、ミーツェの姿に少し元気づけられたようでゆっくりとベットから起き上がると鈴を鳴らし、従者を呼びました。


「レイラを連れていかれるわけにはいかないからな。」


王はミーツェにウインクすると晩餐に出席するために着替えを始めました。




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