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ねこと海軍王

「ゴーデイト様がやってこられたそうよ!」


あわただしく廊下を急ぐ侍女たちが話していました。ミーツェは耳を澄まします。


「王妃様を国に連れて帰るおつもりかしら……。」


「ゴーデイト様は王妃様をそれはそれは慕っていたそうよ。王妃様を娶るために王様はゴーデイト様に決闘を申し込まれたくらいだもの。」


「はあ~。さすが海賊王。」


「こら!」


「……口が過ぎました。さすが海軍王です。」


どうやら大きな船でやってきたのは王妃の弟のようです。侍女たちは王妃様が連れていかれたらどうしようと心配事を口にしていました。


『王広間に行ったら様子が分かるわね。』


ミーツェは広間に向かう廊下を急ぎました。ところが大きな男の声が王妃の部屋の前から聞こえてきます。


『まさか、王様に会わないで王妃様を連れていく気なのかしら!』


方向転換をしたミーツェは軽やかに壁を蹴って王妃の部屋の方へ向かいます。すると侍女長らしき夫人が大きな男の人の前で両手を広げて王妃の部屋の前で立ちはだかっていました。


「お通しできません!」


「こんな事になるから嫁がせたくなかったんだ!そこを退くんだ!レイラは連れて帰る。」


「せめて、王様に許可を……。」


「今更、許可など!」


今にもドアを蹴破って行きそうな男に焦ったミーツェが飛び出しました。


フー


ミーツェは猫ですから体で威嚇するしかできません。でも、男が一歩でも踏み出そうなら爪を出す覚悟でいました。じっと男を見つめていると男は急にフニャッとした顔になりました。


「おい、なんだ、この可愛いのは。」


屈強そうな大きな男から思わずこんな言葉がこぼれました。ミーツェはその言葉とともに簡単に男に首根っこを掴まれてしまいました。手足をジタバタしてもどうしようもありません。そのとき男の後ろから息の弾んだ声が聞こえてきました。ギルが走ってきたのです。


「デイ!」


その声を聞くと男はそのまま体を反転させてミーツェを摘まんだままもう片方の手でギルの頭をクシャクシャと撫ぜました。


「アルギル。でっかくなったな。ますますレイラに似てきた。」


「デイ、母上を連れて行かないでくれ。必ず俺が目覚めさせてみせるから。」


「……。アルギル。俺はもう見ていられないんだよ。あんなにハツラツとして生きていたレイラがまるで死んだ魚の目をしていた。体裁の為に毎日部屋に閉じ込められて。あんなのはレイラじゃない。こんなことになったのはあの男のせいだ。海の魚を水槽で飼おうとしたんだ。」


「父上は母上を愛しているよ。」


「愛しているなら手放すべきだ。」


「デイ!」


『ギル!取り敢えず助けて!』


会話を聞きながらジタバタしていたミーツェは訴えました。


「ミミ?」


「アルギル、お前こいつを知ってるのか?俺も沢山猫を飼ってるがこんな毛並みの綺麗なのは初めてだ。なんだ?この可愛いのは!」


「デイ、それは俺の猫だよ。リボンもついてるだろう?」


「エラく立派な宝石までつけてるな。瞳もブルーでどこかのお姫さんみたいだ。」


リボンの先の指輪を指でつつかれてミーツェは目を白黒させてしまいます。


「デイ、返して。」


「……。くれない?」


「駄目!」


デイとギルに呼ばれている男は名残惜しそうにミーツェをギルの腕の中に落としました。ギルはミーツェを抱き直すと鼻先にチュッとキスをします。なんとかデイから逃れたミーツェはホッとしました。


「お前が母上を守ってくれたんだな。」


ギルは優しい目でミーツェを見ます。ミーツェはドキドキしてしまいました。


「いっぱしに俺に向かって威嚇してたぞ。」


「よしよし。いい子だ。」


「……。随分気に入ったもんだな。まあ、めちゃくちゃかわいいが。」


「デイ。父上と話をして。いきなり来て母上を連れて帰るなんて酷いよ。」


「話すことなんてないだろ?」


「とにかく時間が欲しいんだ。」


「……レイラが呪われてから随分待った。兄上たちももう限界だと言っているんだ。レイラを大切にしてこその同盟だろう?」


「デイ。お願いだよ。せめて食事だけでも。」


「……はあ。レイラと同じ顔には弱い。」


「!ありがとう。」


「ただし、明日までだ。明日にはレイラを連れて帰る。」


なんとかギルが話をしますがデイは頑としてそう言い放つとそれからは黙ってしまいました。ミーツェはオロオロとその様子を見ているばかり。


『この人が侍女さんたちが言っていたゴーデイト様ね。そうだわ、思い出した!たしかテルゼの王は海軍強化の為に海の王者と言われるハモイと同盟を結ぶために政略結婚したのだわ。でも、王妃様は皆に愛されて幸せだったのではなかったのかしら……。』


そこに王妃の呪いを解くカギがある。ミーツェはそう確信しました。

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