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ねこである幸せ

『もしも私の呪いが解ける方法があるとすればお母様が生き返ることしかないわ。だって私はお母様を殺してしまったんだもの。』


王の部屋をギルと出たミーツェはギルの胸で揺られながらそう、つぶやきました。

ミーツェの母親はミーツェが3歳の時に亡くなっています。元々丈夫な体の人ではありませんでしたが医師が止めるのも聞かずにミーツェを出産したことで病床に臥せってしまいました。キジロ王は子が望めなくていいと貴族の中から優秀な子を自分の養子にしていました。しかし、今か今かと期待されていたのも事実。国民は王の子を期待します。中には「何のための王妃か」と不満の声を上げる者もいました。側室を、との声が上がる中、子供を産まないことには針のムシロの上の生活だった王妃が無理をして出産を決意してもおかしくありません。


『無理をしてやっと生まれたら女の子なんて、お母様はがっかりしたでしょうね。』


ミーツェがどんなにダダをこねても母親は月に一度、数分しかミーツェに会ってはくれませんでした。抱きしめてもらった記憶もミーツェにはありません。


『私のせいで肩身が狭い思いをしていたんだもの、嫌われてもしかたないわ。……きっとオリビエもこのことを知っていたでしょうね。』


ふう、とため息をつくとミーツェはギルの胸に寄り添うようにしました。



*****



まっすぐ部屋に戻らなかったギルはミーツェを中庭に連れて行きました。

ミーツェをマントから出すと再び胸の上にのせて芝生の上にゴロンと寝ころびます。


「ミミ、気持ちいいだろ?俺の秘密の場所だ。」


いつからかギルに抱っこされることが当然のようになってミーツェはギルの胸の上でその鼓動を聞いていました。


「そうだ。これをやるよ。これは俺の猫だっていう印。外さないようにな。」


少し起き上がるとギルはポケットの中から指輪を取り出しました。スルスルとギルは黒いリボンに指輪を通してミーツェの首にリボンを巻き直しました。そのままギルの指はミーツェの喉を鳴らすように優しくなでます。


『ギル…私、貴方のことが好きだわ。』


少し泣きそうになったミーツェは指の動きに合わせるよう目を細めました。


『猫でいる方が幸せだなんておかしなものね。』


それでもミーツェは人間に戻って父親と哀れなローランドを……そして大切な民を守らなければなりません。


『今だけはあなただけの猫でいさせてね。』


何も知らないギルはミーツェの鼻の頭にキスをして抱きしめてくれました。


「お前にだけ後で俺の母親に会わせてやるよ。」


ギルはそう言ってミーツェを抱え込むと目を閉じて眠ってしまいました。ミーツェはこの暖かさを忘れまいとギルに寄り添うと甘えるように体を預けました。



*****



「母上、これが俺の大事な子猫。ミミだよ。」


厳重に警護された扉を3枚も抜けるとその美しい天蓋の中で眠るギルの母親に会うことが出来ました。


『これが、ギルのお母様。ギルはお母様似なのね。』


その美しい女の人は黒い髪に少し浅黒い肌をしていました。髪と同じ色のつややかな長い睫毛が頬に影を落としています。


『少し遠い国から嫁いでこられたのかしら。』


ミーツェはギルは南方の人間だと思っていました。雪深いカナルトに隣接する大国テルゼの人間は色白で色素の薄い髪の色が特徴です。ですからギルのことをテルゼの王子であると外見で想像のつく人はまずいないでしょう。ミーツェが見た噂の王子の肖像画も画家の思い込みか辛うじて黒髪だった気はしますが色白の王子に仕上げられていた気がします。


『綺麗な人だわ。』


ずっと眠っているのもかかわらず王妃は美しい衣装を身に着け、髪も綺麗に梳かれていました。


『王様に愛されているのね。こんなに大切にされているんだもの。』


「オリビエの呪いで眠りについたまま、もう半年ですね…母上が元に戻らないと本当に父上がご病気になってもおかしくないですよ。どんなに父上が貴方を愛しているか……。」


ギルが悲しそうに母親の顔をのぞきこむのにミーツェは切なくなりました。



******




『遅かったじゃないか。待ちくたびれたよ。』


ギルの部屋につくとシマ猫がミーツェを待っていました。


『ごめんなさい!ちょっと……。』


『ま、いいよ。あいつと一緒だったんだろう?楽しかったかい?』


『そ、そんなんじゃあ……。え、と、ギルのご両親に会ってたのよ。』


『ふ~ん。』


『ギルはこの国の王子様だったみたいね。』


『ミミもお姫様だろ?人間に戻ったらアタックできるじゃないか。』


『ダメよ!ギルは女の人が苦手って有名なの。私は猫だからかわいがってくれるけど……もし戻れたとししたら見向きもされないわ。』


『そんなものかな。あいつは骨のあるやつだと思うけど?』


『シマさんはギルのこと悪く思ってないの?』


『別に……。ミミとの態度の違いにはむかつくけど、なんか、こう……』


ミーツェの質問にシマ猫は考え込んでしまいました。


『ミミ、アタイ何だかここにきて頭が変なんだ。時々、胸も苦しくなる。』


『ずっと寒かったから体調が悪くなったのかしら……』


『……少し、眠るよ。』


『わかったわ。』


具合が悪そうなシマ猫が心配なミーツェはせめてシマ猫に寄り添うことにしました。





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