ねこと王子
ギルが国に帰るというのでミーツェはどうしようかと思っていましたが
「ミミ。ついて来てくれるよな。」
とギルに言われてしまうと大人しくギルに抱かれて馬車に乗り込みました。ニャーニャーと訴えたシマ猫も無事に馬車に乗せてもらいます。
『ギルのお父様がもしもご病気ならギルがかわいそうだわ。私に何かできないかしら……。』
『お~お~。恋する乙女だねぇ~。』
シマ猫にからかわれて真っ赤になりながら俯いたミーツェがシマ猫に『シマさんが一緒だと心強いわ。』
というとシマ猫の方も真っ赤になってしまいました。
『どうせ記憶もないんだ。取り敢えずはミミについて行くさ』
心強い仲間を得たミーツェはうれしくなりました。
*****
辺りが暗くなった頃馬車が止まりました。
「ミミ、着いたよ。」
ギルはバスケットを覗き込むとシマ猫と丸まって寝ていたミーツェを見て眉間にしわを寄せるとミーツェをそっと抱き上げて懐に入れました。
「ラルフ。シマはお前に任せる。後で部屋に運んでくれ。」
「あの……ミミは?」
「俺が連れて行く。」
ギルのマントの中に入れられてしまったミーツェは真っ暗です。
『どこについたのかしら?』
顔を出そうともがいてやっと外の空気を吸うとそこには初めて見る白髪交じりの太った男が立っていました。ギルの方に駆け寄って来たのか額には汗をかいています。ぎらぎらした身なりは上級貴族だと言わんばかり。
「フェリエ=ロアノア=ステラヅティ=テルゼ=アルギル様! よくお戻りになられました!お疲れでしょうからまずはあちらでお茶でも……。」
目の前の男は手を揉みながらミーツェのことなんか視界に入っていないようです。でもミーツェも彼のことなんかかまってられません。
『フェリエ=ロアノア!?』
その男が言った名前には憶えがありました。なんたって16の誕生日に真っ先にミーツェの父親が自分の釣書と肖像画を送った大国の王子の名前です。まったく関心のなかったミーツェは長い名前さえおぼろげでしたが一国の姫なら皆憧れる縁談です。
『ギルはテルゼの王子だったの!?』
仕草や持ち物などで気品は感じていたものの大国の王子だとはいくらミーツェでもわかりません。
「今、帰った。が、ゆっくりするつもりはない。父上を見舞うのが先だ。それともお前が呼び出したのには他に訳があるというのか?」
「……い、いえ。」
ギルは男の横をスッと通り過ぎて王宮の奥へと迷いなく踏み出して行きました。
*****
「アルギル……戻ったのか。」
「父上。大丈夫なのですか?」
テルゼ国の王の寝所でお抱えの医師に囲まれた彼の父は口開きました。同時に人払いをして息子を招き入れます。
「大したことはないのだ。眩暈がして倒れただけだ。アントンが騒いでこの有様だがな。」
息子に支えてもらいながらテルゼの国王は体を起こしました。
「アントンなら宮に戻って真っ先に会いましたよ。騒いだ割にはお茶に誘われましたが。」
「ふふ、奴はお前に帰ってきてもらって娘を娶ってほしいんだよ。」
「あの、ガチョウみたいな?冗談じゃありませんよ。俺は当分結婚はごめんです。父上には元気でいてもらわないと。」
「キジロ国はどうだった?」
「……忠告はしたのですが、遅かったようで……オリビエは王妃に収まりました。」
「そうか。キジロには申し訳ないがオリビエはそこに留まるということだな。キジロが滅びる前になんとかあの女を仕留める方法を考えないと。」
「キジロにはセルスロイがついています。滅びることはないでしょう。」
「ああ。あの男か。確かにあの男ならばな。小国にはもったいない逸材だ……。そういえばキジロの姫は見たのか?美姫と有名だぞ。」
「大人しそうな姫でしたよ?遠目でしか見ていませんが。興味もありません。」
「はあ。お前の女嫌いは治らんな。」
「……わずらわしいのですよ、父上。母上のような人がいれば結婚も考えますがね。」
「ふん、レイラのようないい女は滅多におらんからな。」
「……雪の魔女はカナルトの迷いの森にいるらしいのです。」
「だとしたら灯台下暗しだな。何人か腕の立つものを回そう。」
「母上は眠ったままなのですね。」
「あの時、雪の魔女の忠告を聞き入れておればこんなことにはならなかったのだ。すべて……わしのせいだ。」
「父上、お気になさいますな。俺が必ず母上を元に戻して見せます。」
「アルギル……。」
黙って親子の会話を聞いていたミーツェは自分の名前が出てびっくりして、少しがっかりしました。
『でも…女嫌いで有名な王子だもの、ギルが小国の姫に興味を持つわけがないわ。きっと人間に戻ったら見向きもされないわね……。』
それでも、ミーツェはギルの役に立ちたいと思いました。
『今の会話だとギルのお母様は眠ったままなのね。お母様…か……。』
母親……そう聞いてミーツェは悲しい過去が甦り鼻の奥がつんとしました。
ギルは王子様です(笑)王道ですよね。