雪の魔女とその呪い
『あ、貴方が雪の魔女なの?』
ミーツェが質問すると雪の魔女は美しい顔をミーツェに向けました。
『そうですよ。』
そう答えてくれましたが、それからしばらくは沈黙が続きました。
『無駄だよ、お嬢ちゃん。雪の魔女はいつもこうなんだ。前にアタイが会った時も自分から何にも話もしないし。』
『……そうなんだ。』
ミーツェは考え込みました。せっかく会えた雪の魔女と話をしたかったのにどうやらそれも難しそうです。でも、諦めるという選択はミーツェにはありません。
『貴方もオリビエの呪いがかかっているの?』
『そうです。』
『ギルという男の子が貴方を探していたのだけれどもしかして知り合いなの?』
『いいえ。』
なんとか色々と聞いてみるものの、雪の魔女は答えてはくれますがゴブリンが言ったようにそれ以上は話をしようとしませんでした。ミーツェは頭をめぐらせましたが質問する内容も終いには出てきませんでした。そんな様子をゴブリンはあきれたように見ていました。
『だから、言ったろ?お嬢ちゃん。そろそろ諦めて暖かいところに移動しなくっちゃ。』
その言葉でミーツェは焦りました。何か質問しなくてはせっかく会えた雪の魔女とお別れしなくてはなりません。
『どんな呪いなの?』
頭を捻った結果ミーツェは自分でも情けないような質問をしました。でもそう聞いたミーツェに雪の魔女は少しうれしそうに顔を輝かせました。
『雪の降っている時にしか出現できない呪いと質問にしか答えられない呪いです。』
『『えっ!』』
二人は驚いて顔を見合わせました。
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『お嬢ちゃんが言ってたようにオリビエはとんでもなく性悪だね。』
『そうよ。私が調べただけでも東の国が滅ぼされていたし、たくさんの行方不明者が出ていたもの。でも驚いたわ。二つも呪いをかけられていたのね。』
『きっと同じ魔女だから余計な事しゃべんないようにしたんだよ。』
ミーツェたちは三人(?)で輪を囲むようにして氷の長椅子に座っていました。雪の魔女は魔法で暖かい氷の部屋を作り吹雪から守ってくれました。中央には火がくべられて外からはキラキラと輝いて見えたに違いありません。ミーツェは雪の魔女の顔を覗きこむようにして尋ねました。
『……だとしたら色々知っているってことよね?雪の魔女、貴方はどこの国にいたの?』
『テルゼ国です。』
『テルゼ国ってここの近くの大国よね。確か鉱物の資源が豊富で軍事力も高いって聞いたわ。迷いの森のあるカナルトは誰の手にも入らない中立の土地だけど実質はテルゼが担っているし。貴方はテルゼで何をしていたの?』
『オ…リ…………。古い友人を止めに……。』
『貴方はオリビエに関することも話せないのね?』
『はい。』
『貴方の呪いを解く方法はある?』
『いいえ。』
『じゃあ。アタイたちの呪いも解けないのかよ!』
『いいえ。』
黙って聞いていたゴブリンが溜まらず声を上げると思っていたものと違う答えが帰ってきました。ミーツェとゴブリンは顔を見合わせました。
『え……っとお。アタイたちの呪いの解ける方法教えてくれ』
『呪いは特定の心の負の想いを無くすと解けます。』
『「ふ」?なんだよ、それ?』
『多くは劣等感や罪悪感です。』
『!それを克服すれば解けるってことなの?』
『そうです。』
『どういうことだい?呪いは呪いじゃないのか?』
『呪いと「負」の感情はどう関係があるの?』
『呪いは一方的なものだからかける側にもダメージがあります。でも、その人の劣等感や罪悪感といった「負」の感情にくっつけることで少ない魔力で呪う事が出来ます。』
『……だったらオリビエは事前に私たちの心の弱い所を知っていて呪いをかけたのね。』
雪の魔女はミーツェを見て頷きました。
『そして……貴方の「負」の感情は消えそうもないってことね。』
再びのミーツェの問いかけに雪の魔女は寂しそうにもう一度頷きました。