雪の魔女
『雪の魔女は雪が降る日にしか現れないんだ。』
『ふうん。だから雪の魔女なの?』
『いや。雪の魔女も呪いをかけられているんだよ。』
『それって、もしかして……。』
ゴブリンは頷きました。
『そう。アタイたちと同じオリビエにね……。』
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「ミミ!なにをしてるんだ。」
もっとゴブリンと話がしたかったミーツェでしたがギルによってふわりと体を持ち上げられました。
『ギル、せめて彼女をもう少し火の傍まで寄せて上げれないかしら。』
言っても仕方ないとミーツェはギルを見上げましたが意外なことにギルはゴブリンの縄を持ってゴブリンを火の傍へとやりました。
「森の住人ゴブリン。どういう理由で俺を狙ったかは知らないがこの森はお前たちの森。入り込んだ俺が攻撃されてても仕方ない事。しかし俺たちが森を出るまでは縄は解けない。」
『あのね!ギルは雪の魔女を探してるの!だから雪の魔女が見つかったらあなたの縄を解いてくれるんじゃないかしら?』
『お嬢ちゃん、上手く会えたって言葉は通じないんだ。それより本当にこいつの目玉を飲んでも呪いが解けないか確かめた方が良いと思わないか?』
『だ、駄目よ!それでなくてもギルは片目しかないのよ。お願い。それだけは止めて。』
ミーツェの言葉を聞きながらゴブリンはギルを見つめていました。
『確かに、両方なくなると気の毒だな。……こいつ……何処かで見たことがあるような……。』
ゴブリンはギルの顔を覗きました。覗き込まれたギルもゴブリンを見つめました。
「あと半刻で出発する……それまでお前も温まればいい。」
そういうとギルはミーツェを懐に入れました。
*****
「ギル様。雲行きが怪しくなってきました。宿へ戻りましょう。」
「なんとか雪の魔女を見つけないと……母上が……。」
「もう日も落ちます。今日はもう……。」
ギルの気落ちした声を聞いてミーツェは胸が締め付けられる気がしました。
『ギルはお母様の為に雪の魔女を探しているのかしら……。』
「もう少しだけ探そう。」
「ギル様……駄目です。」
ラルフはきっぱりと言うと彼の前で膝を着きました。
「……わかった。ラルフ。顔を上げていい。」
自分の身を案じた従者にそう声をかけるとギルは森の出口へと足を向けました。
『!雪の魔女には雪が降らないと会えないわ。今帰っても会えない。ギル!帰っちゃだめよ!』
ミーツェはギルの懐から飛び出して森の奥へとギルを誘導しました。
「ミミ!」
「ギル様!追ってはいけません!お願いです。私の言う事を聞いてください。」
「ラルフ……。」
ラルフはギルの前へ出ると再び膝を着いて懇願しました。その様子と森の奥へと消えていった子猫を見比べてギルは拳を震わせましたが……
「……わかった。」
そういってゴブリンの縄を切ると何度も振り返りながら森を出て行きました。
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『……ギルはついて来なかったわね。でも、仕方ないわ。私は猫なんだもの。』
ミーツェはてっきりギルが着いてきてくれると思っていたのでがっかりしました。その様子をみてゴブリンはニヤニヤします。
『お嬢ちゃんはアイツが好きなんだ?』
『え!?あ、ありえないわ!私は猫なんだもの!』
『アイツにはそうかもしれないけどお嬢ちゃんにとっては違うだろ?ふ、ふ~ん。』
『し、しらない!』
プイとゴブリンにそっぽを向いたミーツェの鼻の頭に何かがふわりと落ちてきました。
『雪が……。』
『森は寒くなるよ。おいでお嬢ちゃん。夜を越せる場所に案内してやるよ。』
『ありがとう。貴方は優しいのね。』
ミーツェの言葉に真っ赤になったゴブリンは鼻の頭を三回かきました。ゴブリンは何も言いませんでしたが、ミーツェが後を追いやすいようにゆっくりと歩いてくれました。
『ね、誰か、歌っていない?』
暗闇の向こう側から僅かに声が聞こえてきたミーツェは足を止めました。雪はもう5センチほど積もっています。
『雪の魔女だ。』
いつの間にかミーツェの隣に来ていたゴブリンは空を見上げました。ミーツェが釣られて見上げたところから金色に輝く雪が落ちてきました。しばらくその美しさに見入っていると輝く雪の粒がクルクルとまわり出してその中央から美しい金髪の女の人が現れました。寂しげに歌っていた女の人はミーツェたちを見ると微笑んでゆっくりと近づいてきました。