魔女とお姫様
むかし
むかし
あるところに
緑豊かな小さな国がありました。
隣の国々からは大きな河に囲まれて河の向こう側から見ればポツリと島のように浮ぶ夢のような国です。
その国の人々は心優しく皆親切でした。
その国の王様もとても人柄が良いとの評判です。
でも、この国には「猫」が一匹もいません。
お小さい頃に戯れて鼻を噛まれた王様が「猫」を嫌いになってしまい、この国から追放してしまったのです。以来この国には猫が入れなくなりました。見つかると…即刻追放。近隣の国の人々は何時しかこの国を「ねずみ天国」と言うようになりました。
さて、そんな「ねずみ天国」の王様には一人娘のミーツェというお姫様がいます。大変おてんばですが賢いお姫様でした。王妃様はお姫様がまだお小さい頃にお亡くなりになっていたのですが、お姫様が結婚の出来る16歳になったことで王様は新しく王妃様を迎えることになりました。
明日は新しい王妃様をお迎えするというその日、物語は始まるのです。
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「ローランド!証拠はそろったの!?お父様が納得されないと意味がないのよ?お父様はあの魔女にメロメロにされているんだから!」
「はっ。大丈夫でございます、証拠も充分揃いました。この薬を飲めば王は正しい心に目覚め、魔女の本来の姿を見れる事でしょう!」
「早く、お父様の所に急がないと!行くわよ!」
金色の髪を揺らしながらさくらんぼのような可愛らしい唇から急かされた言葉が出てきます。そう、彼女が水色の輝く瞳をもったこの国のお姫様ミーツェ。その姿はどんな人でも立ち止まってしまうほど愛らしいと評判です。
「そんなにお急ぎになってどこへ行かれるの?」
長い廊下に艶のある女の声が響きます。
急ぐ宰相ローランドを連れたミーツェが振り向くとそこには今一番遭いたく無かった顔がありました。
「お、オリビエ…ど、どうやってここに。」
ミーツェの顔が青くなりました。オリビエは王宮で明日の結婚式の為に美容マッサージを受けていたはずです。オリビエとは王様の結婚相手、ミーツェの新しい母親になる予定の人です。が、本当のこの女の姿は極東の国からきた悪い魔女で蛇の姿をしています。半年前からこの国に出入りしていた占者を名乗る妖艶な美女がこの国の王のハートを射止めたと巷でも評判でしたが、王に紹介されてから不信感を抱いたミーツェが調べてみるとこの美女が遠い東の国を滅ばしてしまった悪い魔女であることが分ったのです。当然、結婚を止めさせようとミーツェは奮闘しましたが、王様には酷いヤキモチにしか取ってもらえず、空回り。やっとの事で宰相ローランドと真実の姿が見えるという薬を手に入れて数々の魔女の悪い所業の証拠を持って王に会いに行くところだったのです。
「ローランド、走って!早くお父様にその薬を!」
お姫様が叫びましたが、ローランドは目の前でねずみの姿に変えられてしまいました。
カラン、カラン。
苦労して手に入れた薬瓶が待ち散らされた書類と共にころがって行きます。ミーツェはそれを拾いに行こうと手を伸ばしました。
ドカッ
オリビエが冷えた顔のままミーツェのわき腹を蹴り上げました。小さな声と共にミーツェは廊下の窓にぶつかって倒れてしまいました。
「残念だったわねぇ。上手く私に知られずに動いていたつもりでしょうが、お生憎様。」
ぱちぱちと書類が灰になって行きます。もう一度オリビエはミーツェのお腹を蹴り上げると痛みを堪えるのに必死なミーツェの顔を無理やり自分の方に向けました。オリビエはニタリと笑います。
「私の正体を知っているのはお前たち二人だけでしょう?くくっ。これで邪魔者はいなくなったわ。そうねぇ、小賢しいお前には私からささやかなプレゼントを贈ってあげるわ。」
そういうとミーツェの体が光に包まれました。
「ふふふっ。いい姿ですこと、お姫様。」
オリビエが顔を覗き込んで言いました。
しかし、痛みに耐えることしか出来ないミーツェはその場でうずくまる事しか出来ません。
やがて夕暮れだった外の景色は暗闇に変わり、寒さに震えていたミーツェは意識を失いました。