第一話
私たちがワイルドウルフの討伐隊の案内を務めることになった。
私たちは案内するだけで、高ランク冒険者にほとんど護衛もしてもらえるので危険度は小さい。もちろん、足手まといにならないようにちゃんと戦う準備はしている。
「マクローリンだ。よろしく頼む」
「キャサリンです。よろしくお願い致しますわ」
「ワレッツです。よろしく頼んます」
「ディクソンじゃ。わしらも頑張ろう」
Bランクパーティーのスパークリングレモンは剣士のマクローリン、攻撃魔法を得意とするキャサリン、支援系魔法を得意とするワレッツ、闘拳士のディクソンで構成されている。役割の構成バランスがよく、キャラもいい感じにバラけている。
対して、私たちのパーティーはパーティー名はない、よくある若い娘二人組のパーティーである。
「レーナです。よろしくお願いします」
「ロザリンドです。皆さんのファンです!終わったらサインください!」
実は、ロザリンドは彼らのファンで、私は彼らの話を何度も半ば強制的に聞かされていた。ちなみに、彼女の推しはマクローリンである。
マクローリンは目鼻立ちのはっきりした女性で、凛々しい顔をしている。パーティーの中で一番背が高い。髪形は長い黒髪をポニーテールにしている。鉢巻きを巻いている。
キャサリンは丸顔で、よく笑う人だ。笑うたびに扇で口元を隠すから、扇の出番は多い。目が大きくて、パッチリしている。
髪型は金髪をくるくると渦を巻いて上に盛り上がっている。ちょうど巻き貝を下向きに置いたような感じだ。上流階級ではこの髪型が流行っているのだろうか。パーティーの中で背は二番目に高いのだが、マクローリンとの差はかなりある。
ワレッツは面長で背が小さい若い男だった。鼻筋がシュッとしていて、目が細い。スポーツ刈りが精悍な印象を与える。
ディクソンは白髪の優しそうなおじいさんで、大きな杖をついて歩いている。この年齢で冒険者をやっているとはよっぽど手練れの人なんだろう。背は一番低いが、もっとも、かなり背中が曲がっているので、伸ばすと大きくなるかもしれない。
まあ、そんなわけで、私たちはワイルドウルフ討伐に同行していた。そもそも、ワイルドウルフとは何か。ワイルドウルフは体長4-5メートル、体重4-7トン程。狡猾で残忍な種族で人間を含む肉食を好む。草原にのみ出現する。
「今回の任務ではワイルドウルフにいつ出会うかわかりませんわね。常に気を張っていていただかなくてはいけませんわね」
「なんでもええけど、この前みたいに足引っ張らんといてな」
「ええ、わたくしはもうあんなヘマはやらかしませんわ」
「こら、あのことはもう話し合いで決着がついたじゃろうに」
”あんなヘマ”とはなんだろう。というか、キャサリンとワレッツは仲が悪いのかな。
「大丈夫ですか」
「お二方、見苦しいところをお見せした。大したことではない。少し頭を冷やせば落ち着くじゃろうて。なに、いつもあることじゃ。あれでも仕事はこなすから、心配せんでええわい」
「そうですか、緊張感がありますね。これがAランクパーティー昇格間近のBランクパーティー……!さすがです」
そう、スパークリングレモンは現在はBランクだが、そこまですごい勢いで上がってきたらしいのだ。そして、噂ではもうAランク昇格が内々では決まっているとか。……全部ロザリンドの受け売りなのだが。
「見ろ」
一人で前を歩いていたマクローリンが振り返って叫んだ。
「獣の跡だ。警戒しろ」
先ほどまで騒がしくしていたスパークリングレモンは会話を一切止めてあたりを警戒した。
「さすが、マクローリン様……!みんなを黙らせるカリスマ性……!」
「そうだねー」
適当に返事。
「お二方も、辺りを警戒してくだされ。討伐はわしらが担当するが、最低限自分の身は自分で守るのじゃ」
「ロザリンド」
「ええ」
私は両手剣を背中から引き抜き、上段に構えた。ロザリンドと背中合わせで敵襲に備えた。私たちってパーティーを組んで一ヶ月くらいしか経っていないのに、結構相性いいんじゃない。
最初に接敵したのはマクローリンだった。彼女はワイルドウルフの配下のウルフの首をはね、ウルフは死んだ。前方から四、五匹のウルフが現れたが、彼女一人で食い止めていた。一同は加勢しようよしたが、右から二、三匹のウルフが現れた。それにいち早く反応したのはディクソンだった。
ディクソンは杖を茂みに放り出し、ウルフに殴りかかっていた。彼は先ほどとは違い、背筋がシャキッとしていた。
キャサリンは扇を戦闘に使っていた。彼女は扇を閉じ、魔法の杖の代用としていた。”杖”から様々な魔法が放たれ、カラフルな光を放っていた。そこにロザリンドも加勢して魔法を放った。
「絡まれ!木製鎖!」
「凍てつけ!氷結!!」
派手な魔法の連携でウルフを次々倒していく。そして、ワレッツさんは味方にバフをかけて、敵にデバフをかけている。
私?私は奥の手だから。……冗談はさておき、私ってぶっちゃけやることないんだよね。今回はスパークリングレモンが主な戦闘要員で、私たちはこのあたりの地形に詳しいのと、魔物の足跡を目撃したしたからである。私が加勢に行っても邪魔になるしね。ロザリンドは遠距離魔法攻撃だから邪魔にはならない。
うーん、なんていうんだろう。守ってもらってる感がすごい。実際守ってもらってるんだけど。お姫様みたい。
「終わりましたわよ。レーナさん」
と思ったらこっちに本物のお姫さまっぽい人が。ファッションでそれとわかるだけでなく、所作の一つ一つが横着していない。見習いたいものだ。
「ありがとうございます。お師匠」
「……お師匠?」
「なんでもございません。キャサリンさん」
「ボーとしてらっしゃったから、おかしくなったのかと心配しましたのよ。いえ、元からかもしれませんが」
あれ、嫌味言われた?弟子入りは考え直したほうがいいか?
「嬢ちゃんなかなかやるな」
ロザリンドを探すと、ロザリンドがワレッツに褒められていた。
「そうなんですよ。ロザリンドはすごく優秀で私じゃもったいないくらいなんです。クーッ!ロザリンドの優秀さが世界にバレてしまった!」
「な、なんやこの子。面白い子やな」
とにかく何も出番がなかったのでウルフや道中に遭遇した魔物の解体を買って出た。大したお金にはならないが、これも報酬に上乗せされるのでしっかりやる。
「わたくしの扇はどこにいったのかしら」
「いや、折りたたんでるやろ」
ワレッツとキャサリンが漫才をしていた。
「わしの杖はどこいったかの〜」
「いやですね!ディクソンさん、杖ならあっちの草むらに放り投げたじゃありませんか〜!」
ロザリンドがディクソンの頭をしばいていた。おい。馴染んでるな。
「嬢ちゃん、筋がええな。ワイらのパーティーに入らへんか」
私はロザリンドに抱きついた。ロザリンドに捨てられたら、私は生きていけない。
「だめですよ、ロザリンドは私の相棒ですよ。絶対に手放しません」
「レーナ……くっさいし汚いから離れてよ」
「あっははは、振られとるやないか」
確かに、直前まで魔物を解体していたから当然である。
「全員、警戒」
突然マクローリンがよく通る凛々しい声で言った。
「前方からウルフが二十。ワイルドウルフがいる可能性があり」
「探知魔法は?」
「まだ、かかってへんで」
まだ接敵するまでに時間がありそうだったので、ロザリンドの耳元で囁いた。
「探知魔法にかからない魔物を見つけるなんてすごいね」
「マクローリンさんは匂いや音で魔物を判別しているって噂よ」
「獣みたいだね」
ロザリンドは私を睨みつけた。その例えはお気に召さなかったようだ。
「私も前に出ましょうか」
「レーナちゃんは後ろで大丈夫やで、ワイらが守ったげる」
まあ、必要がないと言うなら、いいだろう。なんだか、申し訳ない気もするが。
「お前にも役目を任せよう」
私の肩をマクローリンが掴んだ。
「お前は何かあったときように後ろを警戒する役目とロザリンドを近接攻撃から守る役目を頼む」
「はい、わかりました……どうも、ありがとうございます」
「うん?何がだ?とにかく頼んだぞ」
「ワイとキャサリンが支援するから、ディクソンとマクローリンは前でちょっかいかけてヘイト集めてや」
「うむ、ウルフたちはどの方向に移動しているのじゃ」
「こちらの方に向かってるで」
「ならば、草むらに息を潜めるのがよかろう」
「なるほど、そうしよう。みんな分かったな」
マクローリンの言葉にみんなが頷いた。
全員の配置と作戦が決まり、全員が草むらに息を潜めた。狼たちが通り過ぎるのを待っていた。
「ウルフが通り過ぎるのを待って後ろから襲うぞ」
ワレッツがみんなに隠密魔法をかけた。これでおそらく見つかることはないはずだ。
「もう、声は出すな」
しばらくしてウルフの足音が聞こえてきた。木々のすき間から数匹のウルフが見えた。ワイルドウルフの姿は見えなかったが、いるのは分かった。大きな雄たけびを上げた存在。それはワイルドウルフをおいて考えられないから。
十数匹のウルフが通り過ぎたあと、大きなウルフが通り過ぎた。大きかったのにまったく振動がしなかった。
「今だ!」
キャサリンが爆炎魔法弾を放ち、ウルフを数匹始末した。
一番近くのウルフはキャサリンに襲いかかろうとした。マクローリンがウルフを剣で防ぎ、二匹のウルフを斬り殺した。ディクソンもウルフを倒したらしい。屍が転がっていた。
「終焉の炎」
あ、これは終わりだな。私はそう思った。なぜなら、いつもロザリンドが使っている必殺技。この技は、文字通りすべてを終わらせる最強の技。火柱が音を立てワイルドウルフを呑み込んだ。残っていたウルフも全て呑み込まれた。
「とんでもない技だ」
「とてもすごいですわ」
「やったじゃろう」
「Cランクとは思えへんな」
私も褒めておく。
「さすが、ロザリンド」
抱き着いた。
「きたねぇっつうの」
ロザリンドは突き放した。
「ま、まだ終わってへんで」
「まだ、生きてますわ!?」
火柱はウルフを焼き尽くしたが、ワイルドウルフは生き残っていた。ところどころやけどを負ったようだが、致命傷ではない。
「なんで効いてへんのや」
「たぶん、あの個体は属性耐性がついているのじゃ」
「属性耐性?」
「ああ、まれに突然変異で、ある属性の魔法が効きにくいことがある。おそらくそれじゃ」
ディクソンは冷汗を流しながら言った。
「なるほど、でしたらわたくしがやりましょう」
キャサリンは魔法を唱え始めた。おそらく氷魔法だろう。
「氷結砲!」
キャサリンは小さな氷山を放った。
ワイルドウルフは雄たけびを上げた。全く効いていないようだ。ダメージは蓄積されているかもしれない。効いていることを信じるしかない。
「どうして効かないんだ」
「ま、まさか。複数属性の魔法耐性があるのいうのか!?」
「それってどれくらいすごいんですか?」
「わしは60年冒険者をやっているが、見たことない」
「来ますわよ!」
「全員、避けろ」
ワイルドウルフは私たちの陣の真ん中を突っ切った。全員左右散り散りになって逃げた。
「痛っ」
「ロザリンド!大丈夫?」
ロザリンドはうずくまって左手を押さえていた。
「多分折れた」
「ワレッツさんなら多分回復魔法を使えるから」
「また、来ますわよ!」
「逃げよう。立てる?」
「うん」
間に合う。私は冷や汗を垂らしながらロザリンドの手を取り、立たせた。私とロザリンドはワイルドウルフから逃れようとした。そこまでは問題なかった。ところが、運命の悪戯だろうか。ロザリンドの足元に大きな石ころがあったのだ。
「あっ」
ロザリンドは石ころに気づかず足を取られた。狼と衝突するまであと五秒くらい。
「ロザリンド!!」
ロザリンドは立ち上がれない。間に合わない。ロザリンドがワイルドウルフとぶつかる直前、私は思わず目をつぶった。
「大丈夫。ロザリンドは無事だ」
何秒たったのだろうか。多分一瞬しかたっていないのに、私には何分もたったように感じられた。目を開けるとマクローリンがロザリンドを抱えていた。ワイルドウルフはどこかへ行ったみたいだ。
「マクローリンさん」
「わいの加速魔法で加速したマクローリンがロザリンドを助けたっちゅうわけや」
「マクローリンさん助かりました」
「私からもお礼を言います。マクローリンさん本当にありがとうございます」
「あのー。ワイにもお礼言っても罰当たらんと思うで」
「そんなことより、ワイルドウルフはどこに行ったんじゃ」
「あそこに逃げたんじゃ」
ディクソンが指さした先には木々があった。
「逃げたってことは意外と攻撃が効いていたのか」
「いや、奇襲を仕掛けるつもりでは?」
「なるほど。そうなると、撤退すべきじゃな」
「ああ、撤退や。魔法が通じひんなら意味があらへん」
「その前にケガを治してあげましょうよ」
「ああ」
ワレッツはキャサリンに向けて局所回復魔法ハイパーヒールを使ったが、効きが悪いようだ。回復箇所を限定しないハイパーラージヒールを使うと良くなった。
「また、来ましたわよ」
「逃げろ」
ワイルドウルフが光線のように私の脇を通り過ぎた。思わず剣を向けた。誰かが小さく悲鳴を上げた。
後ろを見ると、キャサリンの左足の膝から先が欠けていた。
治療しないと先は長くないだろう。
「あらあら、ちょっとだけ痛いですわね」
「言うてる場合か。とにかく治療するで」
「これくらい大したことありませんのに」
キャサリンはあまり応えた様子はないようだ。ワレッツさんの回復魔法があるからだろうか?
手足の欠損は治療にかなりの魔力が必要となる。ワレッツさんの魔力はどこまで持つのか。
「奇襲を仕掛けたということはワイルドウルフは知能を身につけたのでしょうか」
「そんな話は聞いたことがない」
「ワイルドウルフを物理技で攻撃するのは?いかがですの」
「無理じゃよ。普通に」
「食い止めてことならできるかもしれないが、とどめはさせないだろうな。剣に属性を纏わせても難しいだろう」
剣に魔法の属性を纏わせて相手を斬りつけるやり方は戦闘の主流になっている。
「魔法はどうじゃ。別の属性を使えばいいじゃろう」
「わたくしの魔法は氷の魔法の系統ですわ。ほかの魔法では倒せないかもしれませんわ」
「私は魔力がほとんどないので無理です」
「わいはそもそも攻撃魔法はからっきしやで」
「このままではまずい。わしらは一方的に狩られている」
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