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なんでもないこと  作者: ケチャップ人間とオムレツ
私たちはいつも同じところにいる気がする

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第一章プロローグ

 私たちは人生を大げさに考えて絶望する。かと思えば、気休めにしかならない行動をとって安心する。悲観的になったり、楽観的になったり、はたから見るとさぞ滑稽なことだろうと思う。さっき腹を切ってやろうとさえ思った出来事が、次の瞬間に人生で一番愉快な出来事になってもなんにも矛盾はない。それは決してふざけているわけでもなく、本気でそう信じ込んでいるわけだ。


 何にせよ、人間は感情に揺さぶられすぎである。どうしたって小さな事で一喜一憂してしまうし、それが滑稽なだけならまだしも、悪い結果になったらと思うと、心配でならない。そう思うと、日常を穏やかに生きたいものだ。しかし、現実はそううまくはいかない。疲労と不安が私たちをそうさせる。


 労働を老いるまで続けなくてはいけないのは大変である。それどころか、老いてなお労働しなければいけない人も世の中にいる。この家業ーーーー冒険者業もいつまで続けられるか分からない。体を壊してしまうと、稼げない。心配事は尽きない。



「レーナ、レーナ」

「どうしたのロザリンド」

「きれいな花が咲いているわ」

「ええそうね」


 会話は続かない。それもそのはず、冒険者の生活の九割は何もない平原や山を歩くこと。同行者との話題は最初の二時間で尽きてしまった。仕事だからしょうがないが、本当に退屈である。


「ロザリンド、あなたって貴族の生まれなのに好きで冒険者になったのよね?」


「ええそうね。それがどうしたの?」


「縁談の話とか来てなかったの?」


「ちょっと待って」


「どうしたの」

ロザリンドが話の腰を折った。


「あそこの草むら」

「草むらがどうかした?」

「ちょっと色が違う」

「そうね、確かに。あそこだけ違う種類かしら」

「それで、何の話だっけ?」

「えっと、忘れちゃった……」

「あ、あれ」

「どうしたの?ロザリンド」

「ゴブリンよ!」

「本当だわ」

 ロザリンドは杖を構えて氷魔法を射出した。ゴブリンは悲鳴を上げて死んだ。


「これは大した報酬にはならなそうね」

「一応、討伐証明として角は持っていくけど」

「正直薬草を集めるのと大して変わらないわ。報奨金の金額も減ったわよね」

「世知辛いわね。そのせいで魔物の数も増えているんじゃないかしら」

「そうよね」


 私は角を剥ぎ取った。血でベタベタしている。水魔法で洗うしかないだろう。

「水」

「うん」

 水を流すと、血が丘の下に流れていった。どこに行き着くわけでもないのだろう。ただ自然の摂理に従って流れていくだけ。人生と一緒。

「さあ、先に進もう」

「この先だったはず」



 私たちの任務はスズカニ草を手に入れることだ。スズカニ草は回復薬の材料であり、必要なものである。森が開け、スズカニ草の群生地が姿を現した。


「入るだけ詰めて帰りましょう」

「マジックバッグでもあればいいのだけれど」

「お金が貯まったら買いましょう」

「あそこ」


 ロザリンドが指さす先に土が掘り起こされた跡があった。誰かが草を取ったのだろう。



「つい最近誰かが来たみたいよ」

「レーナあれ見て!」

「どれよ」

「獣の跡があるわ」

「ほんとね。遭遇する前に戻りましょう」


 獣の跡があることなんてよくあることだし、離れてからはほとんど気にしなかった。問題は、その後、任務を達成してギルドに帰ってから。注意、ワイルドウルフ、と書かれているポスターが掲示板に貼ってあった。


 なになに、ワイルドウルフがスズカニ草の群生地の一部を荒らしていた、……これって、私たちがさっきまで行っていたところじゃない。

「危なかったわね」

「あ、レーナさん、ロザリンドさん、こんにちは」

「こんにちは」

「気をつけてくださいよ。ワイルドウルフが現れたんですから」


 話しかけてきたのはライという冒険者で、彼とは何度か組んで依頼をこなしたこともある。

「私たちさっきまでそこにいたのよ」


「レーナ、それは本当か?」

 後ろから肩をつかまれたかので、何事かと思ったら、ギルドマスターだった。

「お疲れ様です。痛いです。馬鹿力なんだから気をつけてください」

「ははは、すまんかった。無事で何よりだ」

「どうも」

「ああ、ええと。ワイルドウルフについてだが、討伐依頼を出そうと思ってな。事情をよく知っている人に同行をお願いしようと思ったんだが……」

「本当ですか?ぜひ私たちに行かせてください」

「ああ、報酬は弾む」

 私たちはとても面倒な案件に手を出してしまったことに気がつくのはずっとあとのことであった。

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