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勇者稲妻登場。

 魔王城で、俺はそれなりにのんびり暮らしていた。

 ノルが飽きる様子はなく、日本に帰れるのはいつかわからない。


 そんな時、魔王城に訪問者が現れた。


 勇者ご一行様だ。


「魔王!人間界を支配する野望。この勇者稲妻が砕いて見せる!」


 声と名前に聞き覚えがあって、そっと柱の陰から見てしまった。


「え?山田?」


 小さい声でつぶやいたつもりが、聞こえてしまったらしい。


「え?鈴木?」


 やっぱり山田稲妻でガン見されてしまった。

 しかし、すぐにノルがやってきて俺の前に立つ。


「勇者よ。私の嫁を見るな」

「よ、嫁?へ?お前、鈴木だよな?男だったけど、女になったの?」


 改めてそう言われると恥ずかしい。

 

「タツローよ。答えなくてよい」


 ノルの言葉は有難く、俺は彼の背中で黙っていた。

 俺は山田が苦手だった。

 陽キャで自己中。

 顔がいいからもてまくりだったけど、性格は最悪。

 俺とは真逆のキャラだ。

 このまま、俺、退場したい。

 その思いがノルに通じたのか、俺は寝室へ転移されていた。

 よかったあ。


 山田以外の奴だったら会いたいと思うけど、山田は勘弁。

 あいつは本当に嫌い。

 苛めらていないけど、いじられたこともある。

 女みたいにとか、ああ、嫌だ。


「鈴木!お前酷いことされてるんじゃないか!」

「へ?」


 山田の声が聞こえた。

 空耳だと思って左右を確認したら、すぐそばにいた。


「俺も転移魔法使えるんだ」

「は?」

「で、お前」

「私の嫁に話しかけるな!」


 ノルも転移してきたみたいで、俺と山田の間に現れた。

 ほっとしてしまった。

 ああ、心が弱ってる。

 

「魔王!邪魔するな。その人は俺の大事な人なんだ」

「は?」


 なんだよ。それ。

 意味わからん。

 お前、俺のこといじっていたじゃん。

 嫌われているならわかるけど、大事な人って?


「大事?お前にとっての?タツローは私の命だ。何よりも大切な存在。そんな存在がお前にとって大事な人であるわけがない」

 

 ノルは怒っていた。

 彼の声が部屋に響き渡り、家具を揺らす。

 同時に少し怖がっているようにも見えた。

 俺はノルの背中に近づき、彼の手を掴む。


「お、俺はノルの嫁だ。お前が何を考えてるかさっぱりだが、俺の大切な人はノルだ」

「鈴木ぃいい。なんだよ、それ!お前、ゲイだったのか。それなら、俺」

「ゲイ?ゲイとはなんだ。タツロー」

「えっと、あの、男の人が好きな人のこと」

「なんだ、タツロー。そうだったのか」


 ……ノルを唐突に殴りたくなった。


「俺は、男が好きじゃない。ノルだったから、いいかと思ったんだよ。ノルだから。男だからノルを選んだわけじゃない!」

「そうか。そうだな。私は知っていたぞ。タツローは私のことが好きだ」


 本当にわかっているのだろうか。

 まあ、いいや。


「勇者様!」

「稲妻様!」

「稲妻!」


 寝室の扉がぶち破られ、先ほどの勇者パーティーが三人入ってくる。

 全員女性だ。

 まさにハーレム。

 さすが山田。

 

「おのれ、魔王!勇者様に何をしたのだ!」

「稲妻様、大丈夫ですか?どこかお怪我されたのですか?私が癒しましょうか?」

「ここは私の一撃で」

「……皆、待て。この魔王を殺してはならない。魔王の嫁は人間だ。人間界を支配するなんて思うわけがない。この人は優しい人で、魔王はきっと話を聞いてくれるはずだ」


 ……山田の中で俺は美化されすぎじゃ?

 っていうか、会話した記憶もほぼないんだけど。

 弄られていたくらいしか。


 勇者稲妻、山田の言葉で勇者一行は魔王討伐を断念して人間界に戻っていった。

 だが、その後も山田はなぜか遊びにきた。

 転移魔法で。

 奴はそういう才能があるみたいで、ノルが結界を張ったけど、それを潜り抜けてやってくる。

 珍しいお菓子を持ってくるので、断れないし、ノルも結構気に入っていた。

 だが、隙があればなぜか触ってこようとするので、とうとうノルがぶちきれた。殺すのはやめてほしいと言ったら、元の世界に戻すと言った。

 俺も戻りたかったけど、ノルを見たら何も言えなくなったので、元の世界に戻る山田に手紙を託した。

 両親あてだ。

 俺は幸せなので心配しないでほしい、そういうこと内容だ。ノルと結婚したとか書くとややこしくなりそうだったので、そこは省いた。

 

「……やはり戻りたいか」

「う、ん。だけどいいよ」


 ノルがいる世界がいい。

 あと一度戻ると、もう一回召喚するのは難しいらしいし。

 あの時の少年がこんなに成長しているとは思わなかったし、まさか結婚することになるとは……。

 人生はわからない。

 まあ、幸せだからいいか。


(おしまい)

 

 


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